2-5 肉料理ぱーてぃ
「長身の男はどこだ」
そう気づいたが、俺はすぐに固まりかけた思考をほどく。
「いや、早とちりは厳禁だ」
全く同じ状況を得るには、もう一度、まったく同じ条件で周回を繰り返さないといけない。つまり回数が一回無駄。そんなこと、やってられる余裕はない。
「そう、結論を出さないのもだめだ」
しかし、彼は見当たらない。
とはいえ、またほかにも見当たらない人は確かにいる。
「俺に図書室を教えてくれた人とか――――」
あと見てない人――――
「そういや先生はこっちに来たんだろうか」
そういえば、と思い出す。
異世界転移したときの魔法陣の上には先生の姿はなかった。
ただ単に来ていないだけなのか、それとも転移の事故とか――――
「まぁ、王城にいないってことは考えなくていいか」
今は先生の存在を忘れることにする。
「それじゃ、名前も知らない人二人の死体を探しますか」
立ち止まっているのは危険だ。
すぐに歩き出し、その二人の死体を探した。
しかし、結局その二人の死体は見つかることはなかった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「しっかし......」
ここ数分、魔物の足音すら聞こえない。さっきまであらびきハンバーグ(死霊術を使ったクラスメイトの塊)が耳に悪そうな雄たけびを上げたりしていたというのに、その声すら聞こえない。
「何があった?」
俺は頂上である玉座の間へと戻り、朱いカーテンを開ける。
「ぬおっ......」
下はどんどんと大きくなっているため見にくかったが、それでもわずかに確認することが出来た。
下に広がっていたのは、先ほどまでの人間の絨毯から一変、魔物の絨毯が出来上がっていた。
積み重なるミルフィーユ。もうそんな感想しか出てこない。あとは......臭い。風通しが悪いからか、血の臭いが停滞している。臭い。
「とりあえず、下に降りるか」
一応、女子Bに現状を聞きたいし、一応本当に死体が見当たらないか確認したいし。
俺は玉座の間の扉を開くと、また同じルートを通って、魔物が開けたであろう穴を通って女子Bがいた場所へと戻る。
しかしまぁ、予想していた通りそこに少女Bの姿はなく、首のない死体が転がっているだけだった。
一度触れてみる。まだぬくもりが残っていたが、首から先がないためまぁ、どうしようもない。
もしかすると、雄たけびが聞こえなくなったのは、彼女が死んだからか――――?
そう推測を立てていると、奥の方から大声が聞こえる。
「生存者、速くこっちに!」
その男性の声に従って、俺は王城の門を潜り抜けた。
その先に広がっていた街は、少し騒がしいように感じたが、煙柱一つ経っていない、平和そのものだった。
「これなら、あるいは――――」
少し光が見えたような気がしたが――――すぐに頭を振った。
「大丈夫だったかい」
そう心配される声を押しのけるように、俺は質問を飛ばした。
「いつからここに居ましたか」
「え......うーん、そうね、そこら辺の魔物を殲滅して、それからここで生存者がいるか見てたんだけど」
どうやら、この人が殲滅したようだ。
一本の剣を携えた、細く、しかししっかりとした筋肉がついている男。
剛より柔という言葉のほうが合いそうなその男性に、俺はもっと話を聞いていく。
「どうやって倒しましたか」
「首を一発」
「街はなんで無事なんですか」
「さぁ、なんでだろう、みんな王城のほうへと行くんだ」
「誰か通りましたか」
「全く。だからたぶん君が最初で最後の生存者」
聞いてみた感じ、重要そうな情報はもってなさそうだ。
俺はあきらめて、女子Bのもとへ歩く。
とは言っても、女子Bと判断している要素が制服を着ていて、その位置にいるという二つだけだったのだが。
まぁ、それはともあれ、彼女が何か情報を遺してないか、と思ったが、それも無駄足だったらしい。
「君、魔物は絶対にこの門の奥へ行かないらしい。倒し損ねた魔物がいるかもしれないから、一応こっちに来ておいた方が良いぞ」
「いえ、結構です」
どうせ――――
――――やり直すんで。
――――『読み込み』――――
その瞬間、世界が記録された地点まで巻き戻る。
目指すは地点2、契約を果たした後――――
視界がブラックアウトする。
代償はない。戦闘訓練が始まっただけなのにすでに三度、巻き戻してしまった。
そう後悔をしているうちにも、世界は正常に、異常な巻き戻りを開始した。
ハンバーグ食べたい。