2-1 第四の四天王
世界が完全に記録された地点と同じになったところで、世界は再び、正しく時を進み始めた。
「――――はぁっ、はぁっ」
一人の例外が、息を荒くする。
良くも悪くも、この読み込みはあと八回しか使えないんだ。有効に使わないと。
「それでは、ここに血を」
そう言って用意されたのは二本のナイフと三枚の紙。全く同じ文面がそこに書き記されていた。二度目の契約だけど大丈夫なのかな?
慣れた国王を見ながら、俺も二度目の、ナイフで指を切る作業へと入る。
ぴっ、とナイフについていた血を払い、指で血をつけた。
両者の血が紙に付着したその瞬間。そこに置かれていた紙から黒い魔法陣が現れたと思うと、すぐに消えてしまった。
「これで契約は終了です。一つはそちらで控えておいてください」
そう言って高身長の男は俺に契約書を手渡してきた。
とりあえずその契約書を制服のポケットに突っ込む。やっぱり、前突っ込んだ契約書はないから、体まで戻ることはできないようだ。というか、体も戻ったら契約完了する前に肉片になっちまうからこれに関しては少し助かったと言うべきか。
「それでは、最初に依頼、と行きましょうか。異世界人の知識をこちらに提供していただく代わりに、衣食住の保証と戦闘訓練、そしてこちらの世界の知識をお教えするというのはどうでしょう」
もはや国王を置いて高身長の男が話を持ち掛けてきた。国王が傀儡なのも変わりなし......と。
「それはこちらとしても願ったりかなったり、ですね、よろしくお願いします」
そう言って、高身長の男と握手を交わした。全く同じように。
そして翌日からの座学も同じ結果が出されたためにトイレに逃げ込んだ。
次は戦闘訓練か。この後三人からリンチを食らうのか......憂鬱だ。
「スキルも試し打ちできたでしょうから、これから......そうですね、スキルを使わない訓練をしてから、昼食、そしてスキルを使って戦闘をしてみましょう!」
その一声を聞いて、前から歓声が上がった。
「ほーら、何そんなに固くなっちゃってるの!」
折原さんの声。いつもなら誤解される表現だ、とか考えていられたのだろうけど、今はそんなに楽観視してはいられない。
「あ、ごめんね。すぐに行くよ」
いつもの作り笑い。「うん、分かった!」と言ってみんなのほうへと走っていった彼女を尻目に、俺は講師に向き合った。
「お時間、いいですか」
「......えぇ、どうぞ」
「それで、四番目の四天王は?」
「やはり、聞いてくるのはあなたなのね」
どうやら、向こうもそれを聞いてくることはわかっていたらしい。
「一番危機管理が出来ているのもあなたらしいわ。私たちも、貴重な戦力を失いたくはないし、教えましょう。とりあえず、別室へ」
「えぇ、分かりました」
連れられるようにして、別室へ。
丁寧に、いつ来客が来ても良いように整えられた部屋。塵一つ見つからない。
「それで、教えていただけますか」
「......契約よ、1.私以外に口外しないこと。2.彼らを影で操作する手伝いをして頂戴。どう?」
「......まぁ、後者は可能な範囲であれば」
「契約成立ね」
そう言うと、彼女はこちらに体を少し、寄せた。
そして外に聞こえないよう、ぼそりと、呟くように言った。
「第四の四天王は――――
――――科学王。それだけで伝わるんじゃないかしら?」