2-5 一難は去らず、また一難だけが積み重なる
何故か永遠のような拷問が終わりを迎え、視界が戻ってきたとき、そこにあったのは俺一人から出たとは思えない血、血、血。肉が血を放出しきって色を失ってきているのを見て俺は真っ青になる。体のほうは青を通り越して真っ白どころか肉片なんだけど。
俺の体を見たところ、半透明状態だ。つまり肉体は無事ではないってことだ。知ってた。
「『ステータス』」
十時 宗次 lv1 男
職業:死神
HP:0/100
MP1/300
Str:153
Vit:55
Dex:135
Int:137
Mnd:65
Agi:155
SP:0
スキル
大鎌術lv1
固有スキル
死神lv1
ギフト
時間操作lv1
どうやら復活には魔力を消費するらしく、今はこの半透明の体を維持しながら肉体を復活させようとしているようだ。
今も少しずつ魔力が溜まっていくのがわかる。だが、このペースで三分の一って、数時間はかかりそうだぞ......
と思っていたところ、人影が見える。
「十時君! あなたたち、何をしたかわかっているの!」
折原さんが血相を変えて三人に詰め寄る。
後ろから異常な折原さんを追うようにして走ってきたクラスメイトが、俺の肉片と血痕を見て吐き気を催しているよう。数人はすぐにその場を立ち去った。
よく考えたら、俺の肉体がただの肉片になり下ってるんだよな......
「『ヒール』!『ヒール』!」
彼女の両手から光がスッ、と飛び出し、肉体の方へと飛んでいく。しかし、何も起こらない、ステータスにも全く変化はない。
「まさか......死んじゃった......」
絶望に染まる折原さんの表情。彼らもどうせ生き返るから、と攻撃していたが、復活しないと分かるとすぐに慌てだした。
「騎士さん! この三人を捕まえて!」
その顔は真っ暗な闇を進む子供の表情ではなく、どこか光を見ているようだった。
慌てていた彼らも駆けつけた騎士になすすべなく取り押さえられ、引きずられるようにして城の中へと連れ込まれた。
「ねぇ、十時君......早く戻ってきてよぉ......」
そう声をかけられても、まだ魔力が二桁にすら到達していない。声を伝える手段がなければ、すぐに復活する手段もない。俺に出来ることは一刻も早く肉体を復活させる魔力をためること。
「十時君! ああああああああ!!!!!」
温厚で慈悲深く、いつも笑顔の折原さんが、先ほどとは打って変わって絶望に染まり、どこから出したかわからないほどの大きな声で哭いた。
クラスメイトが慰めに行くものの、彼女がそこを離れることはなかった。
服に土がつくことも、血が付くことも厭わずに座り込み、俺の肉片を見つめていた。
そんなに見つめられると、なんだか照れるんだが。とはいっても、どこにも原型がない、血が抜けきった、本当に自分の肉体か怪しい物体なんだけど。
そう思いながら、俺は魔力の回復を待つ。
肉体回復にいくら必要なのかはわからないが、先ほど発動したことや、半透明状態でここにとどめさせられていることを考えるに、復活できないというのはないだろう。
待つ、ひたすら――――と思っていた。
「ねぇ、そこにいるのは十時君?」
泣きつかれて一周回ったのか落ち着いた折原さんの隣に、女子が立ち、肉片ではなく、半透明の俺を見て話しかけてきた。
――――そうだよ、復活には魔力がいるみたいだからまだ復活できてないんだけどね
「あぁ、そうなんですか、だからそこに魂だけでとどめられているんですね」
――――あぁ、今、魂だけなのか
声にしようと思っても、その声は声帯を震わせることも、口から音として放出されることもなかった。なのに、目の前にいる彼女には確かにきこえているようだ。
「私、昔からお化けとか、幽霊とか、そう言ったものが見えてたの。今も目の前に、白い球が浮かんでるのが見えてる。場所的に、十時君かなって。当たっててよかった。あとどれくらいかかりそう?」
とりあえず聞こえているようだ。これで折原さんがこれ以上泣くこともない。助かる。
――――わからない、けど、さっき復活できたから、このペースだと......明日には復活していると思うよ
「わかった。何か、伝えておくことはある? 私は伝えることだけ伝えてもう行くわ」
――――伝えることはないけど、折原さんのケアを頼んでいいか
目がもう死んでいるのを見ると、ここで復活を待つのも苦痛だ。
「それはあなたの仕事。頑張って頂戴」
そう言って、彼女は背を向けてしまった。そういえば名前知らない。暫定的に女子Bと置こう。
とりあえず彼女が折原さんを連れて行ってくれたようで、独りぼっちとなってしまった。折原さんにずっといられるよりは心落ち着くことは間違いないそ、クラスでも一人だったため、別に何か特別な感情が湧くこともない......
暇だし昼寝でもするか、と半透明の体の状態で寝転んだ。
「あら、こんなところに無防備な魂が」
「本当だな。場所的に異世界転移された人のだろう。いるか?」
「えぇ、もらっていきましょう」
何処からか声が。と思っていたら、俺を見下す構図で二人の人――――いや、角が生えた女と男が立っていた。
「さて、もらっていきますか」
三角帽子に大きな杖を持った女性はそう言った。そこで口を開いたのがもう一人の男だ。
「あぁ、そうだ。こいつの肉ももらっていこう。何か面白いことがわかるかもしれない」
そう言った男は体中に機械を纏っていた。角が生えた女と言い、なんだこのペアは。
――――あれ?
気が付いたら、俺の体は瓶の中に入っていた。
「あら、自我があるタイプは相当珍しいのよ。大当たりだわ!」
「そうか、よかったよかった」
収穫が豊作だった、と言ったようなノリで俺の体は持ち去られて行ってしまった。
さて、ここまでがストックになります。これからはゆっくりと、ゆっくりと更新します。
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