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episode.74 鳥が繋ぐ?

 目覚めた母親に会い、言葉を交わすことができた。


 関係のない第三者には小さなことと思われるかもしれない。でも、私とっては、それはとても大きなことだった。


 それは、日の出のようなもの。

 どんなに暗い夜であっても、ひとたび陽が昇れば、辺りは徐々に明るさを取り戻す。白黒だった世界は、あっという間に色づいてゆく。


 それと同じだ。


「ご機嫌そうだな、王女」


 帰り道、カンパニュラはいきなりそんなことを言ってきた。


「分かりますか?」

「やはりそうか。だが意外だ、すんなり認めるとはな」


 私はなかなか認めないと思われていたのか。


 なぜ?

 そんなに素直でない女に見える……?


「認めますよ。本当のことですから」


 二人並んで足を動かしつつ、私は述べた。その時は特に何も思ってはいなかったのだが、直後、失礼な言葉を投げかけられる。


「そうか。短絡的だな」

「なっ……!」


 なぜそんな風に言うのか。


「カンパニュラさん! それはさすがに失礼ですよ!」


 思いついたことをすぐに口から出すというのは、大人としてどうなのか。小さい子どもならばともかく。大人になっているというのに思った瞬間に言っているというのは、どうしても、問題があると言わざるを得ない。


 平気で失礼なことを言うという行為は、喧嘩の種しか生み出さない。

 捻くれているにもほどがある。


「そうだな。悪い」

「……案外素直に謝罪なさるのですね」

「何を驚いている」

「いえ。特に深い意味はありませんから、気にしないで下さい」

「それはそれで感じ悪いぞ……」



 王の間へ戻ると、椅子に座って紙の束を凝視していたファンデンベルクが音もなく面を上げた。黒髪に似合わない海のような色の瞳が、こちらをじっと捉えてくる。


「戻られたのですね」

「ええ。帰ってきたわ」


 ファンデンベルクの肩には、今日も黒い鳥が留まっていた。

 彼と鳥は、あり得ないくらい強い絆で結ばれている……ような気がする。

 たとえ種は違っても、常に共にいるのだから、きっと、強い絆が生まれていることだろう。絆の強さに種など関係ないはずだ。


「内容まとめ、おおよそ完成しております」

「早くない!?」

「いえ。この程度は普通です。それより、そちらの用はもう済まれたのですか」

「そうね、もう終わったわ」

「良かったです。では、内容まとめについてお伝えします」

「助かるわ……!」


 仕事は山盛り。たとえ内容まとめを聞いても、それですべてが片付いたというわけではない。ただ、結局一つずつこなしていくしかない。それならば、一つ一つの仕事を着実に片付けてゆくことが重要となってくるはずだ。


「セルヴィア様! お戻りになったんですのね!」

「リーツェル」

「すぐに飲み物をお持ちしますわ! 冷たいのと熱いのとどちらが良いですの?」

「えっと……じゃあ、冷たい方で」

「分かりましたわ! ではお待ち下さいっ」


 リーツェルは駆けていってしまった。

 その行動はあまりにあっという間で、止めることはできずじまいだ。


「行ってしまったわね……」

「そうですね」

「あ。そうだった。ファンデンベルク、まとめを聞かせて?」

「はい。こちらの書類に書かれていた内容は——」


 これで今日の用事はおおよそ片付いた。


 一人だったら、多分、まだ終わらせられていなかっただろう。でも、ファンデンベルクが色々協力してくれたので、案外早く終わらせることができた。協力してくれる人がいるありがたさを、改めて実感した日だった。


「今日はありがとう! 助かったわ!」

「いえ」


 ファンデンベルクは涼しい顔で鳥に餌やりをしている。

 小さい粒をくちばしに挟ませていた。


「その鳥、いつも色々食べているわね」


 木の実のようなものや、小さい粒、その他にも色々。彼の黒い鳥は、よく何かしらを口にしている。そして、それは今もである。今は赤茶の粒をくわえている。


「なぜそのような話を?」

「わけなんて何でもいいじゃない」

「そうでしょうか。何事にも理由が存在しているものだと理解していますが」

「堅苦しいことを言わないの!」

「……はい」


 知り合ってからしばらく経つ。が、ファンデンベルクのことは、まだきちんとは理解できていない。鳥が好きなこと、落ち着いていること、そういったことは知っているけれど。でも、彼の全貌を解き明かすのは簡単ではなさそうだ。


「あのね、私、鳥について知りたいの」


 私の思考を一方的に押し付けるのも問題かと思い、一応説明しておくことにした。


「……鳥に興味をお持ちなのですか?」


 ファンデンベルクは持っていた透明なポーチに鳥用の粒をしまいながら、きょとんとした顔をする。


「えぇ。敢えて理由を述べるとしたら、そんな感じだわ」

「そうでしたか」


 気のせいかもしれないが、ファンデンベルクの表情が少し明るくなったような気がする。


「では、餌やりをなさいますか?」


 ファンデンベルクは、透明なポーチの口を徐々に開けつつ提案してきた。

 心なしか楽しそうな顔をしているようにも見える。


「ええっ」

「嫌でしたか? もしそうであれば申し訳ありません」

「ち、違うの! 嫌というわけではないわ!」


 せっかく良い雰囲気になってきたのだ、誤解が発生しないように努力しなくてはならない。

 すべては、ここまでの流れを台無しにしないため。


「ただ、餌やりには慣れていないから……もし何か失礼なことをしてしまったらと思ったら……」


 述べている言葉はすべて本当のものだ。嘘をついていない、ということだけは、迷いなく誓える。


「大丈夫です。皆最初は初心者ですから」

「それはそう……だけれど……」

「どうぞ。この粒をお持ち下さい」

「あ、ありがとう」

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