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episode.34 意外な味方

 相談ではなく命令、か。それもあながち間違ってはいないかもしれない。答えは出ているのに相談するような態度を取るというのは、よくよく考えてみれば不自然なことだ。自分の中に変わりようのない答えがあるなら、敢えて他者に相談のようなことをする必要性は低い。


「えっと……それは、普通に、こちらからお願いすれば良いということでしょうか?」


 ただ、一方的に頼むのは失礼な気もして、なかなか思いきれない。


「そういうことだ」


 灰色のスーツを着用しているカンパニュラは、腕組みをしたまま、一度だけ小さく頷いた。


「では、リトナ王女に会えるよう、協力して下さいますか?」


 何とかひと息で言いきることができた。ただ、内心は緊張感に満ちていて、安堵なんてとてもできそうにない。彼と対峙している限りは、この心が落ち着く瞬間なんて訪れないのだ。


「できることはしよう」

「ありがとうございます……! 嬉しいです」

「で、まずは何を」

「ええと……リトナ王女にお会いできる日程を調べて……」


 その時、王の間へと続く扉が勢いよく引かれた。

 現れたのはファンデンベルク。


「やはりそのような話でしたか」


 扉を開けたのは彼だったようだ。そして、私とカンパニュラの方を見ている彼は、明らかに怒っている様子だった。ただ者ではない、と感じさせるような、得体の知れない圧を放っている。


「そのようなことではないかと思っていましたが……まさか本当にそうだとは。王女、貴女はなぜ、それほどリトナ王女のことがお好きなのです」


 リトナのことが好きだというわけではない。そもそも彼女のことは知らないし。単に気になっているだけだ。王女であった私としては、他国の王女という存在に興味がある。それだけのことだ。


「ファンデンベルク、盗み聞きとは良い趣味をしているわね」

「扉一枚ですから。聞こえてきます」

「貴方こそ、どうしてそんなに熱心に反対するのかしら」

「今日は厳しいのですね」

「そうよ。こんなに反対され続けたら、私もちょっとは疲れてくるわ」


 険悪になるのは避けたいが、だからといって黙っていては自分の意思が通ることはない。それなら、言いたいことは言わせてもらう。といってもべつに積極的に喧嘩するつもりはないけれど。


「……何度も申し上げましたが、危険を伴うことは避けるべきです」

「どうしてこの件にだけそんなに反対するの?」

「見ず知らずの敵国の王女に近づくのは危険だと申しているのです。今、貴女の身に万が一のことがあったら、この国はどうなるのです。もはやどうしようもない状態になりますよ」


 私のことを心配してくれているのは分かる。でも、こんな風に一方的に反対されるのは、どうしても良い気がしない。代わりとなる案を考えるなり何なりするよう言うならともかく。


 強く反対されてもやもやしていた時、カンパニュラが口を開いた。


「随分過保護な従者だな」


 ファンデンベルクの視線がカンパニュラの方へ移る。

 漂うのは、何とも言えない空気。


「すみません。しかし、王女を亡き人にするわけにはいきませんので」


 ファンデンベルクが述べるのを聞き、カンパニュラは僅かに目を細める。


「……王子の時のように、か?」


 カンパニュラの言い方は心なしか相手を刺激するようなものだった。しかし、ファンデンベルクは、その程度で心を乱されたりはしない。落ち着きを保ち、青い瞳でじっと相手を見つめている。


「同じ過ちを繰り返すつもりではいません」


 彼が放つ声は淡々としている。


「良い心掛けだ。ただ、間違いを繰り返す気はないというのは、私も同じ」

「それは……どういう意味です?」

「少し好きにさせてやってはどうか、と言いたい」


 カンパニュラの口から出てきた言葉に、私は驚いた。意外にも私に味方するような内容だったから。彼が私側についてくれるとは思わなかった。これは意外中の意外。良い意味で誤算だ。


「彼女も子どもではない」

「なるほど。王女につかれるのですね」

「何だ、不満げだな」

「いえ。ただ、協力していただけないのだなと思いまして」


 場に漂うのは言葉で形容できないような空気。

 心なしか重苦しく、ピリピリしているとまではいかないけれど、居心地が悪いような。


「ファンデンベルクといったな」

「はい」

「心配しなくていい。私が同行する」


 同行って、まさか……また、あの密着してくるやつ!?


 だとしたらちょっと嫌かもしれない……。


 いや、もちろん、カンパニュラが私の意見に賛同してくれるのは嬉しいのだ。少しでも協力しようと思ってくれているのなら、それはとても喜ばしいこと。


 でも、密着されるのは……。


「貴方が?」

「そうすれば、何かあっても心配は要らない。ある程度対処できる」

「しかし、人ではどうしようもない万が一もあります」


 ファンデンベルクはきっぱり述べる。

 それを聞いたカンパニュラは、腕を組み、呆れ笑いのような表情を作った。


「心配性だな」


 その後、カンパニュラが説得してくれて、私はリトナと会うために動き出せることになった。リトナとの対面に強く反対していたファンデンベルクが渋々折れたからである。とはいえ、会うことに決めたからといって即日会えるわけではない。リトナ側に強い拒否権があるわけではないため、話は比較的スムーズに進む。が、手続きはどうしても必要になるで、対面の実現までとなると結局数日かかってしまうのだ。



 五日後。


 今日、私はリトナと会う。

 快晴だ。最高の散歩日和である。ただ、今朝はファンデンベルクの機嫌があまり良くなくて、室内にどことなく気まずい空気が流れている。


「セルヴィア様。もう着替えられるんですの?」

「そうね、そろそろ」


 ロクマティスの王女リトナと対面する予定の時刻まで、あと二時間くらい。


「ではこちらを!」

「ありがとう。じゃあ着替えるわ」

「その後、髪を整えますわね!」

「お願いね」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『episode.34 意外な味方』まで拝読しました。 ファンデンベルクもカンパニュラも、セルヴィアを思ってのことなのでしょうけど、二人とも頑固そうですw いよいよリトナとの対面ですが、…
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