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episode.29 ロクマティス王族

 ロクマティスの中心に位置する街、ロクマティシス。

 その真ん中にそびえ立つガラス張りのビルは、ロクマティス王族の住居でもある。


 そして今、ビルの十二階にて、王女二人と王子一人が集合させられていた。


「ほーんと退屈。早く帰りたーい」


 ワインレッドのソファに寝転がるに近いような体勢で座っているのは毛量が多い少女。ロクマティス王族である証拠となるブルーグレーの髪を、豪快に巻いている。まるで豪華な人形のようだ。

 派手な髪型にフリルたっぷりなワンピースを着たその少女は、ロクマティス王と王妃の間に生まれた娘。少女のような可憐な容姿だが、実は二十三歳。


 彼女はかつて、最強の人間を創造する実験に実験台の一体として参加させられた。しかし、その実験は失敗に終わり、彼女は年をとるということを失った。実験台になった頃の容姿のまま、年齢だけを重ねていっている。


 そんな悲劇的な過去を背負う第二王女リトナ・ロクマティスだが、彼女はいつもマイペースで自由である。肉体の時間は止まったままになってしまっているが、それを悲観することはせず、日々気ままに暮らしている。


 そんなリトナを注意するのは、リトナと同じ色の髪を持つ女性。


「ちょっと、リトナ。もう少し上品に座りなさい」


 女性はリトナより背が高い。ブルーグレーのショートボブ、唇には赤紫の口紅を塗り、白ブラウスに紺のロングスカートを合わせている。また、脚には黒のストッキングを穿いていて、足に履いているのは紺色のサンダルだ。


「えー? 面倒くさーい」

「こら! またそんなことを言って! みっともないわよ」


 注意されて不満げなリトナを叱るその女性は、ロクマティスの第一王女。

 齢二十五のプレシラ・ロクマティスである。


「いっつも思うけど、姉様は真面目すぎー」

「真面目ですって? きちんとするのは王族として当然のことじゃない」

「リトナ、お堅いのきらーい」

「まったく……。リトナはいつもそうね」


 プレシラは大きな溜め息をつきつつ、胸元の紐リボンを整える。

 結び目が少々乱れていたのだ。

 第一王女と第二王女たるプレシラとリトナがソファ付近にいるのに対し、王位を継承する権利を持つ王子であるエフェクト・ロクマティスは窓辺の椅子に座っている。しかも、王女二人の方へと目を向けることはせず、窓の外を見つめ続けていた。


「エフェクト、貴方はどうして外ばかり見ているのかしら」

「ん……? べつに……」


 プレシラに話しかけられた時、エフェクトはとても眠たそうな目をしていた。


「一人離れていることはないのよ。貴方もこっちへ来なさい?」

「はぁ……いいよ、そういうの」


 エフェクトの態度は反抗期の息子のよう。

 彼は、面倒臭そうな表情で、喋りかけてくるプレシラを睨む。


「鬱陶しいし……」


 はっきりと言われ声を荒くしそうになったプレシラのスカートを、ソファに寝転がっているリトナが軽く引っ張る。


「姉様。あいつは放っておーいて」

「何を言い出すの?」

「あんなやつはどーでもいいから。それだけ」


 リトナに嫌みのような言い方をされても、エフェクトは動じない。その染め上げたガラス玉のような青い瞳は、窓の外に広がる空だけを捉えている。しかも、その目つきにはどこか狂気的なものが滲んでいて、死を夢想しているかのようだ。静かな表情ではあるのだが、穏やかな表情ではない。


「エフェクト、貴方はいつも……」

「姉様、もういーからー」

「リトナは黙っていてちょうだい! これは私とエフェクトの話よ」

「……うざーい」


 リトナは唇を尖らせて不満を口にしていた。


 その間も、エフェクトは反応しなかった。プレシラの発言に何かを返すことは一切ないし、王女二人に視線を向けることすらほとんどない。聞く気がないということなのだろうが、聞こえていないのではと思えるほどに無反応だ。


「まったく、二人して……」


 プレシラは呆れたような顔でソファの端に腰を下ろす。

 それからも、室内は静かだった。

 リトナが気まぐれに発する鼻歌以外に音と呼べるようなものはない。


「ねぇリトナ。呼び出しだなんて、一体何を告げられるのかしら」


 黙ってソファの端に座っていたプレシラが、唐突に口を開く。


 窓辺のエフェクトは無反応。

 しかしリトナは無反応ではなかった。


「何それ、心配?」


 リトナは軽やかに尋ねる。


「唐突だったものだから」

「えーおもしろーい」

「ちょっとリトナ! 笑いごとじゃないのよ!?」


 その時、部屋の入り口の扉が軋むような音を立てながら開いた。


 リトナたち三人の視線が一斉に扉の方へ向く。この時ばかりは、それまで無反応の極みであったエフェクトも、確かに視線を動かしていた。


 室内に入ってきていたのは一人の男性。

 暗めの茶色の髪、同じ色の瞳、黒スーツ。どこをとっても『普通』という単語が似合う人物である。個性がないのが個性、とも言えるかもしれない。


「リトナ王女、プレシラ王女、そしてエフェクト王子。お待たせ致しました」


 特徴のない男性は静かに口を動かす。


「で、話ってなーに?」

「こら。止めなさい、リトナ」


 男性に対しても迷いなく軽い調子で言葉をかけるリトナを、プレシラは注意する。しかしリトナはそれを無視。何事もなかったかのように、男性に対する言葉を続ける。


「早くしてー。退屈」

「お待たせしてしまい失礼致しました」

「そういうノリはいーから!」

「はい。では本題に入らせていただきます」


 一度しっかりとお辞儀をし、男性は告げる。


「第三王女が任務中お亡くなりになりました」


 その言葉を聞き、その場にいた面々は驚いた顔をする。真面目なプレシラはもちろんのこと、リトナもこれには衝撃を受けているようだ。また、一人離れているエフェクトも、少しだけ眉を動かしていた。

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