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episode.24 気まずさの中で

 人が寿命を迎えることもなく命を落とす。そんなものは物語の中の世界だけの話だと思っていた。けれどもそれは、物語の中だけの話ではなくて。現実は予想以上に残酷さに満ちていた。


「あ、あの……えっと……セルヴィア、様?」


 リーツェルが気を遣いつつ優しく声をかけてくれても、私の心の内側に蔓延る黒いものは決して消えない。

 こんなことをしている場合じゃない。それは分かっている。なのに、心はどこまでも重苦しく、前を向いて光を探す気にはなれない。


「リーダさんまで……あんまりだわ」


 彼女は私のことを必要としてくれていた。爽やかで明るい彼女に、幾度も救われた。私にも自然に接してくれる人がいるのだと知ることができて、とても嬉しかった。


 でも、それももう、二度とないことだ。


 細やかな幸福は過ぎ去った。


「それはそうですわ。でも、その……わたくしは、セルヴィア様が生き延びて下さって、嬉しかったですわ」


 思えば、リーダと知り合ってからの時間というのは決して長いものではなかった。けれども、短くとも濃密ではあった。私にしては親しくなれてきた気がしていたのに、その矢先にこんなこと。なぜこんなことが起きるのか。呪いか何かなのか。


「そ、それに! わたくしもファンデンベルクも助けていただいて! 感謝していますわ!」


 私は王の位に在る者、一人命を落としたくらいでいつまでも落ち込んでいるようではいけないのだろう。

 常に前を向き、険しい道に差し掛かっていたとしても、皆のためになら戦う。王はそういう人でなくてはならないのだろう。父がそうであったように。


「……もっと早く使うべきだったのかしら」


 けれども、私はまだ、そんな風に強くはなれない。

 出てくるのは陰鬱な溜め息ばかり。


「この手の力を」


 幸い今は自室で過ごせている。侵入者騒ぎで疲れているだろうから、という配慮によって、王の間へすぐには行けないことを許してもらえているのだ。


 でも、それも永遠ではない。


 いつかは立ち上がり、王の間へ移動しなくてはならない。

 それに、こうしていられるのも初回だからであって、誰かが命を落とすたびに部屋にこもるわけにもいかないだろう。


「セルヴィア様、無理をなさることはありませんのよ。嫌なら嫌で問題ないんですわ」

「……よく分からない」

「その力は凄まじいものですもの、それを使うかどうかは……やはり、セルヴィア様自身が決めるべきだと思いますの」


 リーツェルの言う通りだ。

 誰に何を言われても、最後に進む道を決めるのは私自身。そして、その道を選んだ責任を負うのもまた、私自身だ。


 力を使うか、否か。

 それを決めるのは、他の誰でもなく、私だ。


「えぇ、その通りね。リーツェルの言う通りだわ」

「あっ……はい、ですわ! けれど、急いで決めなくても良いですわよ!」


 この手の力が消滅することはない。恐らく、この力は、生きている限り私にまとわりつくのだろう。まるで影のように、いつまでも、どこまでも。


 どのみちこの力から逃れることはできない。何でもない平凡な人としては生きられないのだ。それならば、思いきって普通でない道を選択するというのも、一つの選択なのかもしれない。


 王となり、しかもこんな力を持っている。

 それだけで平凡に生きられる可能性はゼロに近いのだから。


「王女、お茶をお持ちしました」


 これから行く道。それを決めるということ。そんな形のないことばかり考えていたら、接近してきているファンデンベルクが声をかけてきた。


「あっ。ファンデンベルク。首はもう平気?」

「はい」


 ファンデンベルクは喉元を刃物で少し傷つけられていたが、暮らすうえで不便はないようだ。一応包帯を巻いてはいるが、まったく気にしていないようである。


「良かった……」

「お気遣いありがとうございます。こちら、お茶になります。先ほどはこぼしてしまいましたので」


 黒いスーツを着たままのファンデンベルクは両手でお盆を持っていた。その持ち方は心なしか歪で、慣れているようには見えない。ただ、きちんと持てていないというわけではないので、大きな問題はなさそうだ。


 彼は私が座っているベッドの脇にあるテーブルに一旦お盆を置く。それから、お盆に乗っていた一つのティーカップをテーブルの方へと移動させた。淡い桃色の小ぶりなポットはすぐには移動させない。それから少しして、両手を使いつつポットをそっと持ち上げる。ポットの口から溢れるのは、赤茶色の美しい液体。ティーカップに注ぎ込まれていく時の色みはとても麗しく、宝石の一部のようだった。


「今回は無駄にすることなくお渡しできそうです」

「もしかしてまだ気にしてる?」

「茶葉のみならず、カップまで駄目にしてしまいました」

「いいのよ。気にしていないわ」


 ファンデンベルクはずっと妙なことばかり気にしている。

 直後、王の間との間にある扉を誰かがノックする音が聞こえてきた。

 私は最初ファンデンベルクと顔を見合わせ、それからリーツェルとも視線を重ねる。ファンデンベルクは別だが、リーツェルは「どう対応する?」と問いたそうな目つきになっている。


「どちら様ですか?」


 私はベッドに腰掛けたまま尋ねてみた。

 すると、数秒の沈黙の後に、声が返ってくる。


「カンパニュラなのだが」

「あ……はい。今開けます」


 仲間だったリーダが私のせいであんなことになったのだ、彼は私のことをどう思っているだろう。


 憎しみを向けられる?

 嫌みを言われる?


 不安も決して小さくはない。ただ、このまま開けないというわけにもいかないので、自力で開けに行くことにした。


 厚みのない扉を開けると、正面から彼と向き合うことになる。


「調子はどうか」


 私は思わず「えっ……」と失礼な声を漏らしてしまった。

 カンパニュラの第一声が想定外だったから。


 死亡者を出したことを責められるのなら想定できた。嫌みを言われるという可能性も、ある程度想像できるものだ。しかし、いきなり調子を尋ねられるとは夢にも思わなかったので、私はただ戸惑うことしかできない。


「部屋で休息していると聞き、覗きに来てみた」

「あ……。えっと、ありがとうございます」

「で、報告だが。侵入者のあの女はロクマティスの第三王女だったらしいな」

「そうなんですか!?」

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