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episode.14 意外な再会 ★

『キャ〜ロレシ〜アは、たのしいくに〜。キャ〜ロレシ〜アは、しあわ〜せなくに〜。キャ〜ロレシ〜アは、ゆ〜めにみちた〜、す〜てきな〜くにキャロレシア〜』


 まだ慣れない王の間にて、ラジオの電源を入れると、奇妙な歌が流れてきた。


 規則正しいリズムに合わせて作られた旋律。それはどことなく堅苦しいもので、楽しもうにも素直には楽しみきれない。歌詞は楽しげだが、聴いていたら不穏な空気を感じずにはいられない。


 でも、そう感じるのも、私の心が明るくなりきれない状態だからかもしれない。

 曲自体に罪はないのだろう。いや、本当のところは知らないが。取り敢えず、曲自体に罪はない、ということにしておこう。


「このお部屋は広いですわね! セルヴィア様!」

「そうね」

「ラジオから流れてくる曲も怪しげですわ!」

「えぇ。その通りだと思うわ」


 話しかけてくるリーツェルに言葉を返しつつ、今朝運び込まれてきていた書類の束を机の上に移す。今日中にすべての紙にサインをするように言われているのだ。これらは、王のサインが必要な書類だそうだ。


「サインを始めますの? セルヴィア様」

「えぇ」


 机の上に乗せたは良いが、大量の書類が視界に入ると何とも言えない気分になる。これだけの紙に今からサインをしていくとなると、かなりの時間がかかりそうだ。戦いの仕事を頼まれるよりかは良いけれど、文字を大量に書かなくてはならないというのもなかなか複雑な心境である。


 机に付属した引き出しを引き、その中に入っているペンと汚れたインク瓶を取り出す。


挿絵(By みてみん)


「ええと……では、わたくしはお茶でも淹れてきますわね!」

「気を遣わないで」

「そんなこと! 気にしないでほしいですの!」


 リーツェルは何やらご機嫌だ。けれども、リーツェルには明るくあってほしいと思うから、今のような状態が望ましい。私と共に暮らすことで、フライを失った時に負った心の傷が少しでも癒えたら良いのだが。

 汚れたインク瓶の蓋を開け、青黒い液体にペン先を沈める。

 ペンを握り、そのペン先をじっと見る。繊細な先端から、今にもインクが垂れそうになっていた。紙にぽったり垂らしてしまう前にサインをしなくてはならない。けれども、繊細なペン先を見つめていると、妙に心が落ち着く。



「失礼します、セルヴィア王女——あ、失礼致しました。セルヴィア女王」


 そんな風に言葉を発しながら王の間に入ってきたのは、以前フライたちの訃報を伝えに来てくれた女性。穏やかな雰囲気と緩やかなうねりのついた髪が印象的な人である。


「あの、セルヴィア王女で良いですよ。まだ女王なんて器でもないですし……」

「いえ。女王は女王です」


 女性は意外とはっきり返してきた。

 こうもきっぱり言ってくるとは、予想外だ。


「では言いやすい方でお願いします……」


 もっとも、王女でも女王でも私には関係のないことだ。私にしては、どちらだからどう、ということはない。ただし、私の心はまだ『王女』の方が受け入れやすいわけだが。


「それで、ご用は何でしょうか?」

「あぁ、そうでした……! 訪問者がいらっしゃったのです」


 女性は首を少し傾げるようにして笑う。

 おっとりした雰囲気が漂っている。


「訪問者、ですか?」

「はい。女性が一人、男性が一人です」

「どうぞ」

「それではお連れします」


 どんな人が訪ねてきたのだろう?


 考えてしまうけれど、一人で考えても答えは出ず、その人たちが連れられてくるのをただ待つことしかできない。


 あまり怖い人でなければ良いのだが……。


 そんなことを思いつつ待っていると、やがて扉が開いた。先頭にいたのは先ほどの女性。だが、その背後に、いつか見た顔があった。


「やぁ、王女様! 久しぶり!」


 ほんわかした雰囲気の女性について入室してきた女性は、アムネア・リーダだった。

 男性的な空気を醸し出すブルーグレーの短髪は今日も健在だ。


「リーダさん……!」


 私は思わずそんなことを発してしまった。

 名前を呼ぶ必要なんてなかったというのに。

 先頭となって歩いてきていた女性は、すっと身を横にずらした。リーダが私の正面に立てるように考えての行動だろうか。慣れているみたいだった。


「いきなり訪ねてきてしまって悪かったね」

「い、いえ! ただ……少し驚いてしまいまして」

「はは。確かに、そうかもしれないね」

「それでリーダさん。何かご用でしたでしょうか」


 前にフライの訃報を伝えに来てくれた女性は、正面から退いた後に、軽く一度だけ頭を下げていた。そして、速やかに扉の方へと向かう。どうやら、もう退室する気でいるようだ。


「実は、これからしばらくここに滞在することになってね」

「そうなんですか……!」


 聞いた瞬間はかなり驚いた。

 色々な仕事をこなす者、というようなイメージを持っていたから。

 けれども、よく考えてみたら、これは良いことだ。最近怪しい雲行きなので、頼りになる人が傍にいてくれるというのは非常にありがたいことである。


「お仕事か何かで、ですか?」

「そういうことだよ」

「へぇ……! きっとハードなお仕事なのでしょうね……!」

「初々しい女王様の護衛、というところかな」

「そうだったのですね——って、え!?」


 ……女王様の護衛、と言った?


 ということは、まさか、リーダの今回の仕事とは私の護衛なのか。


「ちなみに、こっちの男もあたしと同じ仕事内容でね」


 リーダが指し示したのは、斜め後ろに立っていた男性。

 その男性のことも、私は目にしたことがあった。ただ、彼に関しては、良い思い出はない。


「えっと、貴方は確か……怖い方?」

「怖くない」


 男性は不満げな顔をしたまま即答した。

 自分がただならぬ威圧感を放っていることに、彼は気づいていないのだろうか。


「カンパニュラと呼べ」

「え? あ……は、はい……」

「怖い方じゃない」


 少し気にしているのかもしれない。

 だとしたらごめん。


「怖いやつよりはましだが、怖い方も正しくない」

「え、えぇ……。それはもう分かりました……」

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