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episode.138 やり取りと言葉にならない緊張感

 翌朝、私は突然報告を受けた。

 鉱物が破壊されなくなったという話がロクマティスに伝わっている、と。


 報告を受けた直後は何がどうなって伝わったのかはっきりしなかった。そのため不安が色々湧いてきた。が、その後になぜ伝わったのかは明らかになった。リトナが匿名でロクマティスへ情報を送りつけていたのだ。


 なぜ伝わったのかがはっきりしたのは良かった。

 ロクマティスの手の者が潜んでいるという可能性は消えたから。

 だが、リトナがなぜそんな行動を取ったのか、そこが分からなくて。しかし変な形で探るのも不自然だろう。ということで、本人を呼び出して聞いてみることにした。


「どうしてリトナが呼ばれたわけ?」

「聞きたいことがあって」

「ふーん。ま、いいけどー。で、聞きたいことって何?」


 心を落ち着けて息を吸う。瞼を閉じ一旦停止。その後、ふうと息を吐き出すと、少しばかり冷静になれる気がする。心が安定してきたような気分になったから、勇気を持って口を開く。


「鉱物のこと、ロクマティスに伝えたそうね」


 するとリトナはハッとしたような顔をする。が、すぐに普通の表情に戻った。


「確かに伝えたけど、それがどうかしたわけー?」

「やはりそうだったのね。確認できて良かったわ、ありがとう。しかし驚いたわ。まさかそんなことになっているなんて」

「何それー、駄目ってことー?」

「いえ。単に驚いただけよ」

「ふーん。そ。まぁそういうことならいいけどー」


 事実確認ができたことは良かったと思う。だが本当の問題はここからだ。こちらからそんな情報を投げつけてしまった以上、今後ロクマティスと関わらないでいくことは難しいだろう。どうしても接することになってしまう気がする。


「しかし、匿名だとしてもロクマティスにメッセージを送るなんて、凄い勇気ね」


 私だったきっとそんなことはできなかっただろう。母国とはいえ今や敵となった国、そこへ自ら関わっていこうなんて、私だったらきっと欠片ほども思わなかったはず。

 深く考えての行動ではないのかもしれないが、それでも、リトナの行動力には驚かされるばかり。

 思考に注力するか、失敗を恐れず行動するか。両方のタイプの人間がいて、リトナは多分後者なのだろう。その程度のことは想像できていても、それでも、いざ彼女の行動を知ると衝撃を受けることが少なくない。


「リトナのことー、また馬鹿にしてるー?」

「いえ。思ったことを言っただけよ」

「……もしかしてまずかった?」

「そうね……少し厄介かもしれない。でもまだ分からないわ。そういうのは、大体、すべてが片付いてやっと分かるものでしょう?」


 この出来事が良い方に出るか悪い方に出るか。

 現時点ではまだ分からないことだ。



 いつロクマティスが絡んでくるか分からない。いや、そもそも、再び絡んでくるのかどうかもはっきりしない。そんな状況下で、緊張しながら過ごす日々。それは、とてつもなく心を疲弊させるものだった。いつ何が起こるかはっきりしない、急に何か言われる可能性もある、その辺りが特に不安を掻き立ててくる。


 そんなまま時が過ぎ、あっという間に一週間が経過。


 このまま何もなく終わりそうだな、などと思っていた時に、ロクマティスから連絡が来てしまう。


「こちらの書類がロクマティスから届いたものになります」

「ありがとうございます」


 鉱物の喪失に関する連絡の返信、とのことで、紙には何やら色々書かれていた。

 匿名での連絡で情報が正確かどうかが分からないためこの件について改めて連絡してほしい、といったことも記載されている。


「それはそうよね……匿名じゃさすがに……」


 差出人の名もない状態で重要なことを伝えられても、誰もそれを信じられはしないだろう。


「女王陛下?」

「あ。ごめんなさい。独り言です、気にしないで下さい」

「は、はい」


 ロクマティスからの書類を持ってきてくれた彼は数回連続で頭を下げていた。

 虐めているみたいで申し訳ない。


「鉱物の件について、改めて連絡します」

「返信を出すということですか?」

「はい。この状況で無視するのも不自然だと思うので。……おかしいでしょうか」


 おかしなことをしてしまっているなら、そう言ってほしい。


「い、いえ! そんなことは! ですが、すぐには作成できません。相談する必要があります」

「分かりました。では相談してみて、可能なようなら返信します」

「はい! ではそのようにお伝えしておきます!」

「ありがとうございます。助かります」

「では、本日は、これにて一旦失礼致します! また何かありましたら伝えに参ります!」


 返信する。ただそれだけのことであっても相談が必要。そう考えるとそこそこ面倒臭い仕組みな気がする。だが、別の視点から捉えると、それはそれで意味があるのかもしれない。もしもの時、王の暴走を止められるように。そういう必要性を持った、必要な枷でもあるのかもしれない。


 だが、中には私一人の判断で決められることもあった。


 この件が二つの国の関係という面において重要な意味を持つものだから、こうも慎重になっているのだろうか。



 翌日の昼頃、返信することが決まったと報告を受けた。

 内容は既におおよそ出来上がっていた。私はいきなりそれを見せられる。文章は特に問題なし。内容においても不自然な点はなかった。結果、そのままの状態で通り、ロクマティスへ送信されることとなる。


 私は道を間違えてはいないか?

 誤った選択をしてしまってはいないだろうか?


 そんな漠然とした不安を抱えつつも、今はただ、目の前にある道をひたすら突き進む。いつものことだが、有力な選択肢はそれしかない。唐突に脇道に逸れることは容易いことではないのだ。


 またしてもやって来る憂鬱な時間。

 胃が痛みそうな重苦しい気分のまま、ロクマティスからの再度の連絡を待った。

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