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episode.137 捉え方によって

 無事生き返ることができて良かった。でも新たに発生してしまった問題もある。それは何か? ……簡単なこと、鉱物が壊れてしまったという問題だ。いざこざを解決する手段として活躍してくれるだろうと期待していた鉱物が砕け散ってしまった。そのため、何もかもすべてが振り出しに戻ってしまったのだ。期待していただけに、これは痛い。


 仕方がない?

 それはそうだろう。


 けれども、たとえ仕方ないと思っていたとしても、期待を寄せていたものが崩れ去ったショックは決して小さなものではなかったのだ。


「はぁ……」


 意識が戻ってからは体調の変化はない。倦怠感は特にないし、その他の部分に異変を感じるということもないし、感覚的には健康そのものだ。ただ、鉱物を使うという選択肢を失った喪失感は大きくて。胸の内は軽くなりきれない。


「どうされましたの? 急に溜め息なんておつきになって」


 医務室のベッドの近くに残ってくれていたリーツェルが尋ねてきた。

 誰だってそうだろうが、普通溜め息なんて聞きたくもないだろう。それなのにこんなに露骨に聞かせてしまって、言葉にならないくらい申し訳ない思いでいる。


「あ、いえ。ごめんなさい。何でもないの」

「そうですの? なら良いですけれど……」

「心配かけて悪いわね」

「いえ! お気遣いなく!」


 失われたものに目を向けていても状況は改善しない。厳しい現状を打破するためには、次の手を考えるのが最優先だ。が、良さげな案が一つ潰れてしまった残念感はとてつもなく強い。鉱物が壊れたという事実が心を押し潰してくるかのようだ。


「……でも、残念ね。鉱物が壊れてしまって」


 半ば無意識のうちにそんなことを口走っていた。

 きょとんとした顔をするリーツェル。


「残念、なんですの? あれを壊したから助かりましたのに、なぜ?」

「私の願いも叶えてくれるかと……ちょっと期待していたのよね」


 自らこんな話を振ってしまったのだから、今さらごまかすことなんてできっこない。

 この際、敢えて本心を隠す必要もないだろう。


「願い?」

「この国に平和をもたらす。そういう願いよ」

「それがセルヴィア様の願いなんですの?」

「えぇ、キャロレシアを戦いから解放したいの。だって、この国は本来、そんなことを望む国ではないんだもの」


 そんなことを打ち明けた時、リーツェルは笑みを浮かべた。


「なら、鉱物は本当に望みを叶えてくれたということですわね!」

「えっ」

「この国が戦いに巻き込まれる要素は一つ減りましたわ。なぜなら、鉱物がなくなったから! あれほどまでに砕け散ったなら、もう誰も欲することはないはずですわ!」


 言われてハッとした。


 確かに。言われてみればその通りだ。キャロレシアが侵略される原因の大部分である『願いを叶える鉱物』が失われたのだから、この国も少しは平和に近づけるかもしれない。偶然な気もするが、そう受け取れないこともない。


 ある意味、鉱物は私の望みを成就に近づけてくれたとも取れる。


「それもそうね……盲点だったわ」


 心のままに口を動かす。


「ですわよね! これは大きなことですわ!」

「まだすべてが解決したわけではない。でも、少しは良い未来に近づいたのかもしれない。……何だかそんな気がするわね」


 失われたとばかり思っていた。けれど、見方を変えるなら、失われたものばかりではない。失われたことによって生まれた良い兆候も確かに存在している。私が見つけられていなかっただけで。


 とにかく、またもう一度頑張ろう。


 いや、頑張るなんて言っても何を頑張るのかいまいち分からないのだけれど。頑張ろう、なんて決意しても、力んでしまうだけ。きっと妙なことにしかならないと思うけれど。


 それでも、今はできることを全力でする。

 ただそれだけが明るい未来へ行くための道なのだと信じて。



「復活したようで何より」

「ありがとうございます。カンパニュラさんにも色々心配お掛けしました」


 私は王の間へ帰ってきた。

 結局何もできぬまま。


「別段心配していない。それより、母親が心配しているようだったぞ」

「母が?」

「あぁ。彼女は色々と忙しいようだが」

「……母が貴方にそんな話を?」


 母親とカンパニュラに繋がりがあったの? 不安事を明かすような仲なの? いや、それはないはずだ。二人に限ってそんなことはないはず。カンパニュラは自分の母親を愛しているし、私の母メルティアはいろんな男性に手を出すような人ではない。でも、だからこそ、謎は深まるばかり。なぜカンパニュラがそんなことを知っているのか?


「実は私の母が世話になっている」


 数秒の沈黙の後、カンパニュラは控えめに言った。


「そうなんですか!? 母とオレイビアさんが仲良し!?」


 思わず大きな声を発してしまった。

 だがそれほど意外だったのだ。メルティアとオレイビアがいつの間にかそんな関係になっているなんて知らなかったし、想像してもみなかった。


「いや、仲良しという表現は少し変かもしれんが……」

「違うのですか?」

「こちらの母が話を聞いてもらったりしているようだ」


 何にせよ、関係が良好ならそれで良し。

 オレイビアは少々危ういところもある人のようだから、話し相手くらいはいた方が良いかもしれない。


「そうだったのですね! では『母親が心配している』情報はオレイビアさんから?」

「あぁ」

「何だかすみません。色々」


 メルティアがオレイビアに言って、オレイビアがカンパニュラに伝えて、カンパニュラが私に言った、ということのようだ。


 まるで伝言ゲーム。


「これからもよろしくお願いします、と、オレイビアさんにお伝え下さ——」


 言い終わるより前に、扉が開く。

 バン、と、勢いのある音を立てながら。


「セルヴィアー! 戻ってきたそうねーっ!」


 現れたのはメルティアだった。

 これは偶然か否か。


「母さん……驚かせないで……」

「あら! 人がいらっしゃったのね、ごめんなさい!」


 メルティアは晴れやかな顔つきをしている。機嫌は悪くないようだ。それは良かった。が、いきなり大きな声を発しつつやって来るところには戸惑わずにはいられない。


 カンパニュラはさりげなく一礼して去っていく。


「追い出すみたいになってしまって悪かったわ……」

「母さん、いきなり来ないで。びっくりするから」

「ごめんなさい。でも心配だったの、セルヴィアのことが心配だったのよ」


 それから私はメルティアと少し言葉を交わした。

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