表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/146

episode.13 突然の出来事

 広間から出るや否や、はーっ、と、巨大な溜め息をついてしまった。

 そんな私を迎えてくれるのはリーツェルとファンデンベルク。


「お疲れ様ですわ、セルヴィア様! 途中騒ぎがありましたけれど、大丈夫でしたの?」

「えぇ。何とか」


 先の騒ぎは、幸い、怪我することなく逃れられた。抱く恐怖感も最低限のもので済んだ。そういう意味では幸運だったと自分でも思う。

 だが、どうしても、しこりのようなものは心の中に残ってしまっている。

 今回無事だったからといって「ラッキー!」と笑って終わりというわけにはいかない。それは当然のことだ。一度あのような目に遭えば、その後も色々気になってしまうというものである。


「ファンデンベルク、貴方の鳥に助けられたわ」


 言って、彼の方へ視線を向ける。

 黒い鳥は既に彼の肩へと戻っていた。


「力になれたのなら何よりです」


 ファンデンベルクは短く述べ、他には何も言わなかった。

 彼の興味は私ではなく鳥に向いているようで。


「これで、セルヴィア様が王となったんですのね!」


 リーツェルは何だか嬉しそう。けれども私はまったくと言って問題ないほど喜べない。どれだけ時間が経とうとも、不安が膨らむばかりだ。


「実感がないわ……」


 天気は悪くないのに、心の中の空は曇っている。


「ですわよね! 人間誰しもそういうものですわ!」

「……そうなの?」

「わたくしも、フライ様の従者となった直後は、そんな感じがしましたのよ!」


 リーツェルは不思議なくらいご機嫌だ。

 目の前で、軽やかに回転を繰り返している。


「そうだったの?」


 フライの従者のことはあまり知らない。それゆえ、リーツェルがどのようにしてフライと知り合ったかということも把握していない。


「ですわ! わたくし、フライ様に選んでもらいましたの。嘘みたいだと思いましたわ」

「そうだったの」

「何人かいる中で一人を選ぶとなって、わたくしが選ばれたんですの! 一番生意気だったから!」


 ……弟の趣向が理解できなくなってきた。


「フライ様は仰っていましたわ! 一言余計なことを言う感じが良い、と!」

「へ、へぇ……。そうだったのね」

「セルヴィア様も同じような好みですの?」

「私は……えっと……」


 非常に答えづらいことを尋ねられてしまった。


 ここではっきり「違う」と言っておくべきなのか否か。そこが迷いどころだ。はっきり真実を述べることは問題ないだろうと思うのだが、リーツェルを批判するような雰囲気になってしまっては申し訳ない。


 真実を述べることとリーツェルを悲しませないこと、その二つに、挟み撃ちされているような状態だ。


「ま、関係ないですわね! さぁ、お部屋に戻りましょう!」

「そうね」


 ここで私が王位に就いたことが吉と出るか凶と出るか……。



 その後、私はリーツェルやファンデンベルクと共に自室へ戻った。


 だが、そこで、さらに衝撃を受けることとなる。というのも、王位に就いた者は王の間へと移動せねばならない、ということを聞かされたのだ。


 すぐには理解できなかった。


 これまで私は、多くの時間を、一つの部屋の内側で暮らしてきた。その部屋に別れを告げねばならないなんて、あまりに悲しすぎる。心の準備も到底間に合いそうにない。


 だが、既に決定している事項に逆らえるはずもなくて。

 結局これまで暮らしてきた自室を出ていかねばならないこととなってしまった。


 そうして、私は、落ち着く間もなく王の間にたどり着いた。


 王の間はとても広い。執務室と生活する自室が一体化しているような仕様だからだ。


「広いお部屋ですわね、セルヴィア様」

「本当ね……」


 荷物の移動は順調。数名の係の者が手伝ってくれ、既に半数近くが王の間へ移っている。

 それでもまだ、心が現実に追いついていなかった。


「王女、この衣服はどちらへ?」


 突然の部屋移動に戸惑いしかない私に静かな声をかけてきたのは、艶のある黒い髪をしたファンデンベルク。


「ファンデンベルク! あぁ、ごめんなさい。持たせてしまっていたのね」

「いえ。で、どちらへ?」

「そうね。それは全部クローゼットかしら」

「分かりました」


 ファンデンベルクは一度だけ静かに頷く。そして、大量の私の服を抱えたまま、王の間へと入っていった。その足取りに迷いはなかった。


「彼って働き者なのね」


 私は何となくそんなことを口にしていた。


 ……もっとも、感心していないで自分も動けよ、という感じかもしれないが。


「セルヴィア様はファンデンベルクを気に入ってますの?」


 リーツェルの丸い瞳がこちらをじっと見てくる。


「よく働いてくれるなぁ、って思って」

「そうでしたの。ま! でも! わたくしのことの方が好きですわよね?」

「……えっと、二人とも同じくらいかしら」

「それは本気ですの!? 衝撃の事実発覚ですわ!?」


 なぜファンデンベルクと競う必要があるのか謎だ。


 二人とも頼もしい、二人とも好き——それで良いではないか、と思うのだが。



 移動完了後、式典中に出現した不審者についての説明を聞いた。


 私を狙ってステージに駆け上がり拘束されたあの男は、西の国ロクマティスの手の者だったそうだ。ただ、ロクマティスの手の者と言っても雇われでしかなかったようで、比較的すぐに情報を吐いたようだった。


 男が話した情報によれば、ロクマティスの目的は二つあるらしい。


 一つは、キャロレシア王家の血を引く者を皆殺しにすること。そしてもう一つは、キャロレシアを手の内に入れ、例の鉱物を手に入れること。


 手始めとして男に私を狙わせた、ということで、おおよそ間違いなさそうだ。


 また、拘束された男が言うには、彼と同じように雇われている者は幾人もいるらしい。そういう界隈では、ロクマティスは高めの報酬を出すことで有名なのだとか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ