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episode.128 もてなしを

「弟の件なのですけれど、少し構わないかしら」


 突然にやって来たプレシラにそんなことを言われた。

 いきなりのことで驚きもある。が、それほど大きな驚きがあるわけではないので、珍しく数秒の間だけで言葉を発することができた。


「はい。協力できることがあれば言って下さい」

「説得してみたの、私たちみたいにこちらにつくように。でも無理だった。弟、エフェクトの心は、変えられない感じがしたわ。特別強い意志があるというわけでもないのだけど……」


 プレシラは流れるように言葉を紡ぐ。

 言いたいことがたくさんあるみたいだ。


「できれば味方についてほしかった。そうすれば一緒にいられるから。でも無理なら仕方ないわ、強制的にこちらにつかせることなんてできないわけだし。それでね、これから彼をどうするか考えてみたの。だけど、良い案が思いつかなくて……」


 これは、良案を求めているということなのだろうか。あるいはただ聞いてほしいだけなのか。はっきりしない。この内容だと批判する必要はないが、具体的なことを考えた方が良いのか聞いているだけで構わないのか、そこが掴みづらい。といっても、そんなことを直接聞くわけにもいかないし。


 ……接し方をどうするべきか、非常に悩ましい。


「そうですよね……困ったことですね……。もう少し説得してみますか?」


 どんな風に返すか迷った挙句、私は弱めの言い方をした。

 反応から相手の望むものを見抜くために。


「でも聞く気がないの」


 プレシラは即座に返してくる。


「そうですか、では説得は無意味ですね。でも今さら帰すわけにもいかないのでは? そんなことをしたら余計にこじれてしまうような気が」

「えぇ……どうしましょう……」


 よく考えたら、ロクマティス王族たちの間のいざこざだ。キャロレシアも私も本来無関係なはずである。そして、無関係だから、私が案を出す必要もありはしないはずなのだ。

 だが、プレシラには既に世話になってしまっているので、無関係だからと無視することはできない。いや、できないわけではない。ただ、そんなことをしたら、恩知らずと思われてしまうことだろう。だからさすがに無視はしづらい。

 とはいえ、そもそもすべてを把握しているわけではないので、適切なアドバイスはできる気がしない。


「私が話してみましょうか?」

「そんな。セルヴィア女王の手を煩わせるわけにはいかないわ」

「確かに、事情を詳しく知らない私が首を突っ込むのは、あまり良くないかもしれないですけど……」

「いえいえ。そんな意味じゃないのよ。ただ、申し訳ないと思って」


 変に気を遣わせてしまったかもしれない。


「そうですね。では、一度、もてなしてみましょうか?」

「もてなし……!?」


 少し違った方向性のアイデアを出してみると、プレシラはハッとしたような顔をした。


「その発想はなかったわ……」


 プレシラは本気で驚いていた。最初は演技で大袈裟に反応しているのかと思ったが、そうではなかったみたいだ。反応との間に歪さがないくらい、本当に驚いているらしい。


「でもエフェクトがもてなしを喜ぶとは思えないわ……」

「そのようなことはお嫌いな方ですか?」

「いえ、べつに、嫌いというわけではないと思うけれど……。でもエフェクトは色々なことに積極的なタイプではないの。物事への興味関心はあまりないタイプなの。だから、どうか……」


 もてなし作戦は向かない相手だろうか。


「一度試してみてはどうでしょう? 少しは気が変わられるかもしれません」

「そうね……」

「どうされます?」


 こちらとしても味方が増えるなら心強い。それに、将来的に考えても、エフェクトがこちらについてくれれば心配事が減ることは確かだ。プレシラの弟だけに、彼が敵地にいたら気を遣わずにはいられないかもしれない。


 そういう考え方もできないことはない。


 一見無関係なようで完全に無関係とは言えない……ということか。


「……そうね! せっかくだし、試してみようかしら!」


 色々考えていると、プレシラが急に明るい顔つきになって手のひらを合わせた。


「でも、どなたが行ってくれるのかしら」

「ファンデンベルクを連れていこうかと」

「もちろん構わないわ。それは、セルヴィア女王とお二人でということ?」

「はい、そのつもりです」


 ファンデンベルクを連れていくなんて変と言われないかと多少不安になる部分はあった。だが、プレシラの反応は意外と悪くなかったので、不安はさっぱり消え去った。


「では……お願いしても構わないかしら?」


 プレシラは段々その気になってきているようだ。


 今になって気になってくる部分もある。もてなしなんてきちんとできるのだろうか、などである。だが今さら引き返すことはできない。できることをやる、それだけ。


「はい。では早速ファンデンベルクに話してみます」

「ごめんなさいね、色々」

「いえ。お気遣いなく。力にならせて下さい」


 プレシラとの話し合いはそこで一旦終了した。


 そして私はファンデンベルクを呼び出す。部屋の方の整理を行ってくれていたため、近くにいなかったのだ。だが、急な呼び出しにも不満は漏らさず、すぐに来てくれた。


 取り敢えず一連の流れについて説明する。

 ファンデンベルクは若干驚いたようだったが、受け入れてくれた。


 すべては順調。あくまで今ところはだけれど。でも、出だしからずっこけるよりかは、ずっと良い展開と言えるだろう。初期段階で転んでいては話にならない。


 その後、再びプレシラと話をして、明日エフェクトのところへ行くことが決まった。


 不安しかないし、上手くいく保証もないが、今はそれでも突き進む外ない。だからこそ思考を前向きに。心を折れないように保って、強く進んでいこうと思う。

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