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episode.127 彼は受け入れなかった

 ベッドの上に寝かされた状態で拘束されているエフェクトとプレシラが向き合う。そしてそれを、少し離れたところから見ているムーヴァー。室内にいるのは三人だ。

 今はプレシラがエフェクトを説得しているところ。

 ただし、話はいまいち進んでいない。順調とはお世辞にも言えない現状である。説得しようと熱心に行動しているわりには成果が無に近い。


「エフェクト、お願い。こちらについてほしいの」

「嫌だよ」

「どうして!? ……ロクマティスのやり方は間違ってる。貴方はそうは思わないの?」

「はぁ……どうでもいいよ、そんなこと……」


 ムーヴァーはハラハラしながらプレシラとエフェクトの話し合いを眺めていた。


 エフェクトは一度はプレシラを殺そうとした。たとえ自分の意思でなかったとしても、殺そうと動いていたことは確かだ。


 それを知っているから、ムーヴァーはエフェクトを信じることはできない。


 ムーヴァーは捻じ曲がった根性の持ち主ではない。何もかもに疑ってかかるような人間ではないし、基本信じようとするタイプではある。だが今回に限っては話が別。一度殺そうとした者をすんなりと信用することはとてもできないのだ。


「どうでも良くないわ! ロクマティス王族だからこそ、自国の問題には向き合うべきなのよ!」

「知らないよ……」


 プレシラは強く訴える。

 だが、その言葉も、エフェクトの心には届かない。


「国があんな状態でおかしいと思わないの? 皆を機械のように扱う王が素晴らしいと、迷いなく心の底から言える?」


 ことあるごとにプレシラが感情的になるので、ムーヴァーは心を落ち着かせることはできない。それに、エフェクトが逆上しないか、新手が来ないか、心配な点が多過ぎる。


「抵抗したら、潰されるだけ……」

「だからと従い続けるの!? そんなの変よ! 間違ってるわ!」

「どうでも……いいし……」

「ちょっとエフェクト。きちんと考えて。貴方っていつもそう、現状を改善しようともしない」


 プレシラはただ分かってほしいだけだ。けれどもその奥には熱い燃えるものを携えている。生まれ育った国であるロクマティスが歪な状態になりつつあるという問題を理解してほしいから、彼女はこうも熱心に訴えている。


「私も前までは従うつもりでいたわ。そうしないと何されるか分からないから。……でも気づいたの、自分の人生を他人に任せていては駄目だって。私の人生は私が選ぶ、自分で正しいと思える道を選ぶ。……その方が後悔しないで済むわ」


 エフェクトはすぐに返しはしなかった。

 だが、暫しの沈黙の後に、そっと口を開く。


「ボクの人生と姉さんの人生は別物だよ」


 すぐには言葉を見つけられないプレシラ。


「ボクはボクの好きなように、姉さんは姉さんの好きなように、それでいいよ」


 その言葉を耳にしたプレシラは、急に悲しげな顔つきになって俯いた。


「……貴方はそんなにもあちらに残りたいの」


 プレシラの声は震えていた。


「ボクには姉さんのこだわりが分からないよ」

「何て言い方するんですかっ!」


 悲しみを隠せないプレシラに対してさらに心ない言葉をかけたエフェクトに、ムーヴァーが噛み付いた。あくまで言葉で、ではあるが。


「聞いていれば失礼なことばかり! いい加減にして下さい!」

「……はぁ、さらに鬱陶しい」

「べつに構いませんよ、僕のことに関しては。本来意見できる立場ではありませんし。ですが、プレシラ王女の言葉くらいはもう少し真剣に聞くべきではないのですか」


 エフェクトは死んだ魚のような目でムーヴァーを睨む。


 大抵のことは「どうでもいい」で済ますエフェクトだが、ムーヴァーにいきなり攻撃的な言い方をされたことには多少腹を立てている様子だ。


 だがそれも不自然なことではないと言えるかもしれない。


 エフェクトは王子、ムーヴァーはプレシラと幼馴染みであるだけのほぼ一般市民、二人の間には大きな身分差があるのだから。

 本来ムーヴァーは意見できない立場。否、意見してはならない立場だ。たとえ不満があったとしても、ムーヴァーがエフェクトに対してその不満を述べることは許されない。身分として考えると。


「説教はいいよ……馬鹿らしい……」


「プレシラ王女は貴方を大事に思っているからこそこういうことを言っているのですよ」


 ムーヴァーがそこまで言った瞬間、エフェクトは「うるさいなぁ!」とそれまでとは別人のような鋭く大きな声を出した。場の空気が一瞬にして変化する。ムーヴァーの顔面にも多少焦りのような色が滲んだ。が、エフェクトが調子を強めたのはその一言だけで。すぐにいつもの雰囲気に戻って、気だるげに「もう黙ってよ」とだけ付け加えた。


「いいのよ、ムーヴァー。黙っていて。私が話すわ」


 気まずい空気を感じてか否かは不明だが、プレシラはそんな風なことを言った。

 それを聞き、ムーヴァーは即座に下がる。


「は、はい! 出過ぎた真似をしてしまいすみません」

「責めているわけではないわよ」

「そうですか……! お気遣いありがとうございます……!」


 ムーヴァーの攻撃はそこまでだった。だがプレシラはムーヴァーの行いを悪くは捉えていなかったようだ。むしろ頼もしくさえ思っているようだった。


 それからも、プレシラの説得は続いた。


 しかし、彼女の説得によってエフェクトの考えが変わることはなかった。


 プレシラ自身もそうであるように、エフェクトにも思想があり考えがある。プレシラほどいかにも意識が高い感じではなくとも、エフェクトという人間が在るのだ。それゆえ、その人を根底から変えるような説得をするというのはかなり難しいこと。プレシラの説得がなかなか上手く進まないこともそれを証明していた。


 結果、エフェクトが考えを変えることはなかった。


 リトナとプレシラが選んだ道を選ぶことを、彼は受け入れなかったのだ。

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