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episode.126 不審者に関する報告など

 拘束した不審者については、何か判明し次第話を聞くことにした。

 カンパニュラとリトナが出ていき、ひとまず静けさを取り戻す。が、静か過ぎるというのもこれまた困りもの。複雑な心境にならざるを得ない。


「これからどうしますか、王女」

「実はあまり考えていないのよね……」

「そうなのですか」

「悪いわね」


 城の修繕に関する騒ぎは落ち着いたし、捕虜も帰ってきたし、向こうが攻めてくるでもないし。現在はひたすら平和。馬鹿になりそうなくらい平和だ。これといって絶対しなくてはならないこともない。


 ふと窓の外へ視線を向けると、鳥の群れが飛んでいっていた。


 その様を眺めながら思う——あぁ私にも翼があれば良かったのに、なんて。


 自分でも馬鹿げていることだと思う。五体満足なのにさらにそれ以上を求めるなんて、とも思う。きっと贅沢過ぎるのだろう。でもそれが人という存在でもあったりするから、難しい。


「王女? どうなさったのです、空ばかり眺めて」


 窓の外に広がる上空を訳もなく見つめ続けていた私は、ファンデンベルクにそんな風に声をかけられてしまう。

 しかも、とてつもなく不思議なものを見たかのような顔をされてしまった。


「鳥が飛んでいくところを見ていたのよ」

「……そうなのですか? しかし鳥の群れはとうに飛び去ってしまいましたよ」


 ファンデンベルクは何の迷いもなくはっきりと言ってくる。

 淡白過ぎて色気も何もない。


「無粋なこと言うのね」

「失礼なことを申し上げましたでしょうか」

「……べつにいいの。それが貴方だもの」

「すみません」


 またしても何とも言えぬ空気になってしまった。

 重力が急激に増したかのよう。この世のありとあらゆる要素、すべてが重苦しい。こうしてじっとして黙っているだけでも、辺りの空気に押し潰されそうな錯覚に陥りかける。



 数時間後、カンパニュラが王の間へやって来て、拘束した人物について教えてくれた。

 担当の者が拘束した不審者から色々と話を聞いたらしい。それによって得られた情報によると、不審者はロクマティスの手の者だったそうだ。重役ではないようだが。何でも、ロクマティスから指示を受け、ちょっとした金を報酬として貰ってキャロレシアにやって来たそうだ。


「怪しい者であることは確かだったな」

「そうですね。早めに分かって良かったです。で、誰かの命を狙っていたのですか? 目的は?」

「いや、そこはまだはっきりしていないようだ」

「そうですか……」


 急かす権利は私にはない。そのことに関して私は何もしていないのだから。


「恐らくもうしばらく拘束しておくことになるだろうな。聞き取りは続くはずだ」

「もしかしたらまた何か分かるかもしれませんね」

「あぁ。また何か分かれば伝えるようにする」

「感謝します。また、他にも何かありましたら、よろしくお願いします」



 その日の晩、リトナが訪問してきた。

 誰かが扉をノックしてきた時にはカンパニュラが来たのかと思ったが、予想は大外れ。


「リトナ王女……」

「えー、何その態度。リトナが来たら駄目だったわけー?」


 リトナは両手を腰に当てながらそんなことを言う。

 可憐な顔が不満げな色に塗られている。


「そんなことは言っていないわ」

「ふーん。ま、それならいいけどー」


 こういうやり取りをするのは何度目だろう。もう数え切れないくらいこういうやり取りをしてきたような気がする。もっとも、こうなるのがリトナの発言パターンだから、回数が重なるのも仕方のないことなのだけれど。


「例の人のことなんだけどー」

「拘束した人?」

「そうそうー。姉様を討つことが目的だったみたいー」


 それを聞いて、先日の弟が来た件と関連しているのだろうか、と不安になる。


 私の目の届かないところで何かが蠢いているのではないか。よく分からない陰謀が生まれつつあるのではないか。そんな形のない闇が心中を満たす。まだ直接的な害を受けてはいなくても、純粋な安らぎはありはしない。


「姉様って……プレシラ王女? よね?」

「それ以外にいないでしょ」

「え、えぇ。そうね。そうよね」

「ま。ホントかどうかなんて分からないけどー。テキトーなこと言ってるかもしれないしー」


 リトナは腕組みしながら少し渋いものを食べてしまったような顔をする。


「でも、ま、裏切り者扱いされる可能性は低くないから?」

「その人の発言が事実の可能性は低くない、ということね」

「そういうことー」


 プレシラは私たちの方に味方してくれた。でもそれは、彼女に裏切りという名の罪を背負わせたということでもある。こちら側の人間にとっては嬉しいことだけれど、彼女にとって幸せなことかというとそうではないのかもしれない。そして、それはもちろんリトナにも言えることだ。


 彼女たちの運命を険しくしてしまった罪悪感もないことはない。

 こちらが強制したわけではないけれど。


「けど安心して! ああ見えて姉様も弱くはないから!」

「そうね」


 華奢に見えるようなリトナでさえ弱くはないのだ、プレシラもそうなのだろう。だがそれは何ら特別なことではない。ロクマティス王族というのはそういうものみたいだから。


 キャロレシア王家とはそもそものところが違う。

 私も国を護るよう言われたことはあるけれど、物理的に強くなることは強要はされなかった。


「リトナが強いのは知ってるでしょー?」

「えぇ。知っているわ」

「ふっふーんっ。尊敬してよねっ」


 なぜそんな話に……と思いつつも「言われなくても既に尊敬しているわ」と返しておいた。


 そうやって甘やかすようなことを言う理由は、怒らせないためというのもあるけれど、本当にそう思っているからというのもある。十割お世辞というわけではない。


 リトナには、多分、これからも何かと頼ることになるだろう。


 そんな予感がある。

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