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episode.125 調査に巡回に

 ファンデンベルクから報告の受けて驚いた。

 だが、プレシラが弟を拘束していたというのだから、驚かない方が難しいと言えるだろう。


「そんなことになっていたなんて……」

「はい。そのようです」

「でも、明かすということは、一応企みがあるわけではないみたいね」

「そう思います」


 このまま放っておいて良いものかどうか。もし何かあったら大変だ。問題の芽は発生する前に刈り取っておきたい。が、向こうのことに余計な口出しをするべきではないような気もするし。相応しい対応の仕方を模索するというのは、かなり時間がかかりそうだ。


「取り敢えず様子をみましょう」

「そうですね」

「しかしプレシラ王女の弟さんが来るなんて……何事かしら」


 プレシラのことを物凄く好んでいる弟がいるという話は聞いたことがない。それを思うと、自らも離脱するためにやって来た、というわけではないのだろう。だとしたら、弟がわざわざやって来た理由は何だろう。考えたくはないが、もしかしたら物騒な理由かもしれない。裏切り者を消すため、とか。もっとも、それらはあくまで想像でしかないのだけれど。


「かなり怪しいですわね。何が起きているんですの」


 唐突に会話に入ってきたのはリーツェル。


「はっきりさせるべきですわ! 怪しい企みがあるかもしれませんわよ」


 リーツェルはプレシラのことを怪しんでいるのだろうか。あるいは、敵国の王女であった人を易々とは信じられない、ということだろうか。だとしても分からないではないけれど。ただ、意外と激しく言ってきたので驚いた。そんなにか、と。


「黙って下さい、リーツェル」

「はぁっ!? 何なんですの! その言い方! 偉そうですわね!」


 ファンデンベルクは速やかに注意した。が、それをすんなり受け入れるリーツェルではない。受け入れ従うどころか、豪快に反発してしまっている。


「カッカしないで下さい」

「うるさいですわ! ファンデンベルクは黙ってて!」

「はぁ……いつもそうですね。僕が少し話すのがそんなに不愉快ですか」

「不愉快ですわ!!」


 ああ、こんな風に二人がぶつかり合っているのを見るのはいつ以来だろう。ここしばらくこういう場面を見る機会も減っていたから、とても懐かしい。かつてはこういう場面にもちょくちょく遭遇したものだ。焦りはなく、懐かしさが嬉しいようにすら感じられてくる。


 だがこのままではいけない。

 やたらと激しく抵抗されていては、ファンデンベルクも疲れるだろう。


「落ち着いてリーツェル。貴女が言っていることも分からないわけじゃないわ」

「そうですの?」

「えぇ。まだプレシラ王女を信じられないという人も少なくはないはずよ」

「……申し訳ありません、セルヴィア様」


 リーツェルは肩を縮めて小さくなりながら謝る。

 なぜこんなにも態度に違いが出るのだろう。


「セルヴィア様が信頼なさっていることは存じ上げておりますわ。でも……わたくしには、どうしても信じられませんの。申し訳ないとは思うのですけれど……」

「そうね。ほどよく慎重に進めましょう」

「……はい!」


 リーツェルは晴れやかな笑顔で返事をしてくれる。機嫌は改善した様子。これでひとまず安心、といったところか。そんな時、久々にファンデンベルクが言葉を発してきた。


「王女、ロクマティス王族に関して、もう少し調査しておいた方がよろしいでしょうか」


 これまでの経験から想像するに、ファンデンベルクは調べものやそれに近しい行動が好きなのだろう。そういう系統の用事を任せるといつも熱心に取り組んでくれていた。


「調査? 何か不審な点でも?」

「いえ。ただ、もし不安でいらっしゃるなら、軽く調査しておいた方が良いかと思いまして」

「大丈夫よ。ありがとう」

「承知しました」


 ファンデンベルクはその場で一礼し、数歩動く。それから彼は肩に乗っかっている黒い鳥と戯れていた。声は出さないが指を使うなどして遊んでいる。その様は心なしか人間離れしていて、まるで鳥と意思疎通できているかのようだ。


 プレシラはどうしているだろう? 弟と話でもしているのだろうか。仲良くなれそうだろうか? 裏切りうんぬんで揉めてはいないだろうか。


 そんな心配のようなものが脳内に溢れてくる。


 だが、いきなり訪ねていって現状を聞いたりしたら、きっと驚かせてしまうだろう。変に警戒させてしまう可能性も低くはない。だからさすがに訪問していくことはできないのだ。でも気になる。何がどうなっているか、どこまでも気になってしまう。


 悶々としていると、カンパニュラとリトナが王の間へ同時に入ってきた。


「セルヴィアさん! こーんにーちはー!」

「いきなりすまん」


 岩場のような重苦しさのあるカンパニュラと、小さな花のように可憐なリトナ。何とも言えない組み合わせだ。一見似合わないようだがなんだかんだで似合っている雰囲気もあるようなペアである。


「カンパニュラさんにリトナ王女、何か用ですか?」


 ひとまず尋ねてみた。

 するとカンパニュラが口を開く。


「ここのところ怪しい輩がうろついているのを見かけたという情報が多くてな。特に深い意味があるわけではないが、巡回してきていた」

「怪しい輩……ですか」

「そーなのそーなの! もー、ホント面倒臭ーいの!」


 リトナも会話に参加してきた。

 もしかしたら、カンパニュラとリトナで巡回してきたのかもしれない。


「カンパニュラさん、それで、怪しい輩は発見できたのですか?」

「あぁ」

「えっ……!」


 想定外の答えに変な声を漏らしてしまった。

 一瞬恥ずかしかったが、冷やかされることは特になく。会話はそのまま進んでゆく。私の情けない声については突っ込まれずに済みそうだ。取り敢えずひと安心。他人が聞けばどうでもいいと思いそうなことだが、私にとっては大きなことである。


「一人だけだが確保した」

「そうなんですか……!」

「恐らく、これから情報を聞き出す工程に進むところだろう」


 情報を聞き出す、か。

 あまり乱暴なことをしなければ良いのだが。


 だが、怪しい者がうろついているなら、身柄を拘束するくらいはしておいた方が良いかもしれない。その怪しい者がいつ何時牙を剥いてくるか分からないから。危険人物となる可能性がある者がいるなら、早めに何かしらの手を打っておくべきだろう。

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