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episode.110 連なる報告

 プレシラからひと通りの話を聞いた後、私はメルティアと顔を合わせた。


 彼女はまだ疲れた表情だったけれど、怪我はなかったので取り敢えず安堵。生きていてくれればいい、それが一番だ。


 とはいえ、これですべてが終わったわけではない。


 いや、むしろ、ここからがややこしいところと言えるかもしれない。


 まずはファンデンベルクを救い出すこと、それから、ロクマティスとの関係をどうにかすること。なすべきことは、いまだに行列を作っている。のんびりしてはいられない。


 ただ、それでも、仲間が増えたことは大きかった。


 リトナのみならずプレシラもしばらく協力してくれることとなったこと——それが特に大きかった。というのも、プレシラは非常に有能なのである。彼女は気配りができるし、何でも器用にこなしてしまう。最も味方にしたいタイプである彼女がこちら側についてくれたというのは、良い意味で大きな変化だ。


 取り敢えず、人手不足だけは解決しそうだ。



 ファンデンベルクを連れて帰る任務に関して話していると、リトナが突然手を掲げた。


「はーいっ! リトナにお任せっ」


 リトナは笑顔で軽やかにそんなことを言う。

 その場にいた誰もが困惑した。

 ロクマティスを裏切った、そう知られているリトナがロクマティスへ戻るのは危険。それは誰もが思っていることだ。王はきっとリトナの裏切りを許さないだろう。この状況でリトナがロクマティスへ帰るというのは、かなりのリスクがつきまとう行為である。


「想像力が低いにもほどがある」

「はぁーっ!? 何よそれ! おっさんうるさい!」


 カンパニュラの少々失礼な発言をリトナは聞き逃さない。


「危険だと言っている」

「それくらい分かってますー。それにー、そういうことならー、最初からそう言えばいいだけじゃないのー? わざわざ感じ悪い言い方しないでーって話!」

「いちいち騒ぐな」

「はぁ!? うるさいのそっち。リトナに指示しーなーいーでー」


 カンパニュラに対し遠慮の欠片もなく言葉を発するリトナを見て、プレシラは頭を抱えていた。

 私はただ苦笑いすることしかできない。こういう時に気の利いたことを言えるような才能は私にはないのだ。だから、ただひたすら時が過ぎるのを待つしかない。


「ちょっとリトナ。失礼よ」

「リトナ好きなようにするから! 言いたいこと言うから! 遠慮とかしないしー」

「駄目よ」

「姉様は黙ってて」


 リトナは腕組みをしながらプレシラを睨む。

 プレシラは気まずそうな顔をした。


「とにかく、小娘を行かせるべきではないだろうな」

「おっさんまたそういうこと言う!」

「いや、勘違いするな。何も、悪意があって反対しているわけではない」

「……じゃあ何なわけー?」


 リトナは眉間にしわを寄せつつも聞こうとする。


「小娘には無理だ、と言っている」

「ほらーっ! やっぱりそういうこと言うーっ! リトナそんなに弱くなーいしー」


 いつまで経ってもリトナとカンパニュラの喧嘩は終わらない。否、むしろ最初より酷くなっているような気すらしてくる。カンパニュラは安定して口が悪く、リトナは時を重ねるにつれて声が大きくなってゆく。終わりは見えない。


「王女、私が行こう」

「え」


 唐突に話を振られ、目をぱちぱちさせることしかできない。


「連れ戻すくらいなら何とかなるだろう」

「えっと……大丈夫、ですか?」

「そんな顔をするな。私も馬鹿ではない、できないことはできないと言う」


 そんな時だ、リトナが口を挟んできたのは。


「じゃ、国のこと、リトナが教えてあげてもいいけどー?」


 カンパニュラは怪訝な顔でリトナを見、「何を言っている」と低い声を発する。


「案内役が必要でしょ? リトナがやってあげる!」


 リトナは勝ち誇ったように口角をくいと持ち上げた。

 元より可憐な雰囲気をまとっている顔面に、さらなる華が開く。それは、自信に満ちた華。過酷な環境下にあっても枯れはしないようなもの。


「……上から目線にもほどがある」


 カンパニュラが不快感を覚えるのも無理はない。こうも「協力してあげる」というニュアンスを強められたら、誰だって複雑な心境にならずにはいられないだろう。ただし、その協力が必要不可欠なものである場合には、話は変わってくるのだが。


「でーもー、便利であることに変わりはないでしょ?」

「それはそうだが」

「付き合ってあげる! 感謝してよねっ」


 こうして、ファンデンベルク救出はリトナとカンパニュラが担当することとなった。



 ファンデンベルク救出の担当者も決まり、ひとまず落ち着いた感じはする。が、ここで止まっていてはならない。速やかに次の行動へ移らなくてはならないのだ。


 ちなみに、本日の用事は、報告を受けることが主である。


 一人目にやって来たのは、以前報告係を務めてくれていたことがある女性だった。


「無事戻られたようで何よりです、女王陛下」

「いえ……私は何も」

「城内には交戦による被害がありますが、そちらは、徐々に補修作業を行い始めています。ただ、今後もまたロクマティスと交戦することとなる可能性を考慮し、急ぎでない部分の修繕は後回しにしているという状況です」


 報告によれば、城内でも戦いが勃発してしまった影響で、階段の手すりや壁など様々な部分に問題が発生しているらしい。血の汚れ、欠け、破壊など、色々な形の被害だと聞いた。


 その女性と入れ替わるようにしてやって来たのは、倉庫担当の中年男性。

 ふくよかな体つきの文化系らしい人である。


「倉庫内の宝は何とか守りきれたようですぞ。鉱物も無事です」

「ありがとうございます」

「もっとも、あの鉱物の力は誰でも使えるわけではありませんがなぁ。念のため確認したところ、きちんと無事でしたぞ」


 鉱物があるあの倉庫には、正直、良い思い出はない。

 でも無事で何より。


 それに、あそこには多分、鉱物以外の大事なものも入っているのだろう。詳しくは知らないけれど。でも、取り敢えず、無事であるに越したことはない。


 こんな風にして次から次へと報告を受け、そのうちに一日が終わった。

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