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episode.109 不幸中の幸いからの

 城から『ロクマティス王及び軍勢の撤退』の連絡を受けたのは、突然のことだった。


 最初耳にした時は何がどうなっているのか理解できなかった。が、少し話を聞くうちに、徐々に状況が見えてくる。どうやら、途中まではロクマティス王に従っているふりをしていたプレシラが、こちら側に寝返ったらしい。


 プレシラの目的は単にキャロレシアを救うことではなかったのかもしれない。


 ロクマティス王の暴挙を彼女の心が許せなかった——きっとそれが一番理由だろう。


 プレシラは己の地位に誇りを持っている。そして、だからこそ、威張り散らすのではなく地位に相応しい人間であろうとしていた。そんな真面目な彼女にとって、ロクマティス王のやり方は受け入れられなかったのかもしれない。


 ただ、いずれにせよ、キャロレシアが助かったなら良かった。


 私はこうして逃げてきてしまった。大変申し訳ないことをしたと思っている。いつか城へ帰ったなら、きっと悪口を言われるだろう。だが、キャロレシアのことを大切に思っているということはまぎれもない事実だ。悪口や批判は受け入れよう。そして、そのうえで、この思いを伝える。


「お聞きした話によれば、王妃様も戻られたとか。素晴らしいことですわね」

「えぇ」

「良かったですわね! セルヴィア様!」

「そうね。……でも、ファンデンベルクが」


 嬉しいニュースが多かったが悲しいニュースも一切なかったわけではない。

 聞いた話によれば、ファンデンベルクがロクマティスに連れていかれたそうなのだ。


「……ファンデンベルクに何かあったんですの?」


 ずっと共に歩んできたファンデンベルクのことだ、リーツェルに伝えるのは辛かった。


 彼女が悲しんだらどうしよう、と考えてしまって、とても言いづらくて……でも、いずれ明らかになることだから、隠すこともできなくて。


「ロクマティスに連れていかれたそうよ」


 連れていかれたということだから、殺されたわけではないのだろう。そういう意味では、これは、最悪の展開ではないかもしれない。殺されれば二度と会えないが、連行されただけならまだ希望はある。生きていそうなところは、不幸中の幸いか。


「あの男……本当に馬鹿みたいですわね……」


 リーツェルは額に手を当ててはぁと溜め息を漏らす。


「まったく。どうしようもないですわ」


 予想していたより、リーツェルは沈まなかった。

 だが、沈んでいないからといって、私の中の罪悪感が消えるわけではない。


「……何というか、ごめんなさい。私が情けなかったせいで」

「い、いえ! お気になさらないで。セルヴィア様は悪くありませんの!」


 あの時もっと強く言うべきだったのかもしれない。一緒に行こう、と、城に残ることは許可しない、と、はっきり言わなくてはならなかったのかもしれない。こんなことになるなら、無理にでも私たちに同行させるべきだった。そうしていたならば、彼は今も健康なままここにいただろうに。


「セルヴィア様は何も悪くありませんわ」


 リーツェルは首を横に振る。

 気を遣って優しいことを言ってくれているのか、心からの言葉を発しているだけか、その辺りははっきりしないけれど。


「ありがとう。でも、私に罪がないというのはあり得ないわ。私そんなことは言えない」

「そんな……」

「助けなくてはならない。だって彼は大切な従者だもの」

「そ、それは……そうですわね」


 なぜか乗り気でなさそうなリーツェルに「乗り気でなさそうだけれど、どうしたの?」と尋ねてみたところ、彼女は身を縮めながら「主人に手間をかけさせてしまうのが情けないですわ……」と小さく答えた。


「そういうことだったのね。それなら心配要らないわ」

「そうですの?」

「私が望んでいるの。彼を救うことを」


 従者だから仕方なく、ではない。

 敵国へ連れていかれた彼を救いたいのは私。


「誰かに頼んで救出してきてもらうわ」

「あぁ……頼ませてしまうなんて……。アイツ! 帰ってきたら全力で叱りますわ!」


 リーツェルは急に強気になっていた。


「後でもう一度城の方と連絡してみるわ。のんびりはしていられないけれど、でも、すべてはそれからよね。冷静にスピーディーに、が、重要だわ」


 そう言って、リーツェルと視線を重ねる。


 そして、少し深呼吸をしてから、改めて頷き合った。



 城と連絡を取り合い数日が経過。

 おおよそ落ち着いてきているとのことで、私は城へ帰ることとなった。


 この場所に慣れてきたところだったので残念さはあったが、今はそんな呑気なことを言っている場合ではない。それよりもっとしなくてはならないことがあるのだ。そう思い、世話になった人に礼を述べてから、馬車で出発した。


 そうして城へ帰還した私を迎えてくれたのは、意外にもリトナ。

 彼女はいつになく期限が良さそうな表情だった。


「帰ってくるの遅ーい、もうずっと待ってたからー」


 口ではそんな風に言うけれど、今日のリトナは何だかとても楽しそうな顔をしている。


「キャロレシアに協力してくれたそうね。リトナ王女、ありがとう」

「どういたしまーしてー」

「本当にありがとう。こんなもの何にもならないかもしれないけれど……感謝させて」

「ふーん。ま、物分かりは良い方じゃない?」


 リトナに迎えてもらった後、私は一旦簡易的に作られた部屋に入らせてもらうことになった。

 というのも、王の間が立ち入り禁止になってしまっていたのである。

 王の間は血痕やら何やらであちこちが汚れているらしい。それらの清掃がおおよそ片づくまでは立ち入り禁止。私であっても、王の間に入ることは認められないそうだ。


 簡易的に作られた部屋で、私はプレシラと顔を合わせる。


「お久しぶりです。セルヴィア女王」

「プレシラ王女……!」

「お騒がせして失礼しました。でも、またこうしてお会いできて、とても嬉しいです」


 こんな形での再会とは思わなかったが、そんなことはどうでもいい。


「プレシラ王女はこの国に力を貸して下さった、と、少し聞きました」

「私には私の道がありますから」

「でも! ありがとうと言わせて下さい!」

「……ふふ。こちらこそ、感謝しているのですよ。……それと。いつか貴女にまたお会いできたなら伝えようと考えていました。長い間リトナを大切にして下さってありがとうございました」

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