第1章 第4部下
僕はぼんやりと、ディスプレイの文字を読む。
ふわふわした感じだった。異世界だ、とか、Macがハッキングされた、とか、現実味が無い──
『Macをハッキングするのは、異世界に行ってもやろうと思えば出来ることなのだけど……』
ディスプレイ上で突っ込んでくるな! 心を読むな!
それに、やろうと思ってできるからってやろうと思うやつが居ないだろう……なんで標的が僕になるんだよ! そんな技術があるんなら、企業とかを狙うだろ。
あと、──僕の世界の事を異世界って言うな。僕の世界こそ、本当の世界なんだ……
それはさておき。
『君の世界とこの世界が異なるのはただ1つだよ。』
『動物の種類。』
『私の世界には、エルフとか、鬼人とか、竜人とか……君の世界で、「空想上の動物」とされている亜人類が沢山いるのよ。』
『──さて。こんな感じで伝えなきゃ行けないことは終わりだったかしら?』
……。雑なんだな……
『思ったより、返事が返ってくるのが遅いのね。質問があれば、話の途中にも入ってきていいのよ?』
どうせ、僕が割り込んだら凄い嫌がる癖に……
ここで、彼女からの大量のチャットが終わった──というか、追いついただけなのだが。
この辺りまで来て、ようやく僕は彼女の流れるようなチャットに追いつくことが出来たわけだ。
……5分くらい、窓の外を眺めてただけなのに、ものすごいスピードでタイピングするんだな……異世界なのにタイピングなんてあるのか知らないけれど……
『あ、そうそう。もう一個。』
まだあるのか?
いいや、ちょっと待ってちょっと待って、僕よ。
あまりにも彼女のセリフを素直に受け入れすぎなんじゃないか?
彼女のセリフに比べれば、まだ大掛かりなドッキリだという方がしっくり来る。いや、大掛かりなドッキリだという方であってもしっくり来ないけど……
あ、ちなみに僕のセリフは普通のカギカッコにさせてもらおう。──僕のセリフと彼女のセリフは区別しやすい方がいい。
「意味が分かりません。」
『え?』
「いや、あまりにも荒唐無稽過ぎで、あなたの話を全く受け入れられないんですよ」
『……』
まず、僕は双方向に通信できることに安心していた。もしも、ドアで閉じ込められた上にパソコン上ですら一方的に言われっぱなしだったりしたら、いよいよ精神が壊れてしまっていただろう。人間は、衣食住だったり、3大欲求だったりよりもコミュニケーションを大切にすると言うくらいなのだから……
でも、同時に恐怖も感じていた。スズメのことではなく、僕のことで。異世界に来てしまったというのに、こんな些細な事でいちいち安心できてしまう自分が恐ろしかった。──こんな事じゃ、いつか取り返しがつかなくなってしまうんじゃないのか、と。
しかし……彼女の説明は意味が分からなかった。
──異世界研究会、だっけ?
彼女の説明だと、それがどんな物なのか1つも分からなかったし。60人の学生組織、だっけ。それと僕とどんな関係があるって言うんだ……。
彼女の説明は、「知ってる前提」みたいな感じで、いかにも説明が下手な人の説明の仕方だ。
とはいえ、僕の方が閉じ込められている側で、僕の方が彼女より立場が下なのは分かっている。
諦めが肝心、なのだろう。
彼女を信じてみる、と決めたのだ、信じてみようじゃないか。
さて、彼女の返答。
『分からないわけ、ないじゃん。』
強すぎる。
なんか、こんな人を信じるってどうなんだ? 全部嘘で、真実は全部逆さだったりしないよな?
……でも、窓の外が異世界になっていることも。部屋の中に監禁されているのも事実なんだから、しょうがないじゃないか。
『で、ほらほら。もう一個。』
スズメは僕の質問をまるで無視して、話を進めてしまった。
印象づけとしてはあまり上手いとは思えない、さっきの繰り返しのセリフだった。
そして、印象づけに失敗していても強烈な印象を与えるセリフが、これまでのセリフの何よりも1番荒唐無稽なセリフが、続くのだ──
『君がこの世界に転移してきた理由──それは。』
『君にこれから、君の部屋に監禁された上で、安楽椅子探偵になってもらう為よ。』
このセリフがスタートの合図であるかのように、僕の物語は動き始めた──
これで第1章も内容的には半分に到達。
ただ、第1章後半はあんまり心情描写とかを挟む余地が無いので、あんまり長くならないと思います……。
次の更新は来週日曜日前後を予定しています!
確認しに来てくれると嬉しいです。