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第十二回:翻訳

 モリの本業はフリーランスの翻訳家でした。現在は休業しております。英語が分かるのと、お給金が良いのでこの仕事にしました。また締め切りはあるにしろ、九時出社五時帰社、みたいな明確なルールがないのが良いです。それにもともと文章を読んだり書くのは好きでしたので、文章作成に携われるのはモリのなかでは嬉しいことでした。ただ、最初の頃は「我こそが正しい翻訳を世に届ける使者である」みたいな感覚でやっていたのが、最近はそうでもありません。確かに変な翻訳、間違った翻訳というのは多々ありますし、モリも「これでお金を頂いているのはどうかしらん」と思うこともあるわけですが、翻訳という仕事は思ったよりも奥深いものです。書いてあることを、完璧に翻訳するということは絶対にできません。英語にあって日本語にない言葉、日本語にあって英語にない言葉、というのは必ずあるからです。とすると、翻訳家にはクリエイティビティが要求されます。出来る限り近いニュアンスをお届けするという仕事が発生するのです。なので、モリは契約書のように定型文の多い書類などよりも、ウェブサイトの会社概要や商品説明のような、ニュアンスだけで構成されているような文章を翻訳するのが好きです。面白いです。「この言葉は存在しないので、代わりにこのような翻訳方法がいくつかありますが、いかがですか」とお伺いを立てます。大抵の場合はどれでもいいと言われるものですが。


 また、モリはどちらかというと学問としての英語を知っているわけではないので、日英翻訳よりも英日翻訳に特化しています。日英翻訳に関しましては文法に自信がまったくありません。校正者の方が必要になります。英日翻訳の場合でも、お堅い文章よりはゆるい、口語中心の文章を翻訳することに長けています。これは英語を喋ることができるためです。特殊な言い回しやスラングなどの理解が深いので、小説などの翻訳は一度してみたいものです。映像翻訳も面白そうです。字幕は制限が多く大変だとお聞きしたので、吹替の台本を作成するのが楽しそうだなと思います。


 ところで、「翻訳を出来る奴は通訳も出来る」みたいなイメージがあるようなのですが、モリはこれについては全く反対です。翻訳が出来る、は通訳が出来る、と同義ではありません。全く別のスキルです。特にモリのようなバイリンガルタイプの翻訳家は、通訳が本当に苦手です。これに関しては日本語を話すイギリス人の翻訳家の友人と合意しました。バイリンガルというのは脳が二つ存在しているようなもので、モリは日本語を喋っているときは日本語で考えていますが、英語で喋っているときは英語で考えています。このため、通訳をする際は、聞いた言語で意味を理解し、違う脳に移って翻訳を行い、さらにまた元の脳に戻って文章を構成し発言する、みたいなものすごい手間になるのです。そういうわけで、逆に英語は理解できるしある程度スピーキングもできるがバイリンガルではない、という方が通訳には適任かと思われます。一つの脳で理解し考え発言するだけなので、恐らくモリやモリの友人よりも迅速な通訳が出来ると思います。


 とはいえ、翻訳というのは本当にストレスフルな仕事です。自身の言葉一つで間違った伝わり方をしてしまえば、それはすべて自分の責任になります。自身の力に金額をつけるのも自分自身です。モリのようにストレスに弱い人間には向かない職業です。そういうわけで、今は休業しています。


 本日は以上です。ご清聴ありがとうございました。

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