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一基当千ゴーレムライダー ~十年かけても動かせないので自分で操縦します~  作者: 葵東
第八章 大精霊契約者vs.大精霊の親友
169/187

身を横たえて

 グラン・ノームを送り出したシノシュは、穴蔵の暗がりで深く息をついた。

「最後まで付き合ってくれてありがとう、オブスタンティア」

 家族以外で信じられたのは、精霊だけだった。

 とても安らいだ気分になれたが、少し息苦しさを感じる。

(空気が残り少ないのだな)

 穴蔵に空気穴は無い。

 オブスタンティアには「敵シルフに見つからないように」と説明したが、本当の理由は「窒息により確実に死ぬため」だ。

 やるべきことは全てやり終えた。

 きっと名誉の戦死と認めてくれるだろう。

 あとは、最後の時を静かに迎えるだけだ。

 まだ立っているチェスの駒は全て倒し、ランプに手を伸ばす。

「いや、点けておくか」

 火がある方が空気の減りも早かろう。

 身を横たえて手を組み、目を閉じた。

「神様、どうか家族を連座させることなく、御許へ行かせてください。それだけが望みです」


                  א


 両手を広げながらバーサーカーがイノリに近づいてくる。

 その中では言い争いが繰り広げられていた。

「ルークスちゃん治療させて! イノリを解体――」

「ダメだ!! あいつを片付けてからだ!」

 興奮し続けているため、ルークスの出血はさらにひどくなっている。

 精霊たちは狼狽していた。

「主様、グラン・ノームは私が必ずとどめます。ですので治療を受けてください」

「あれを片付けてからだって言ったろ!?」

「あのグラン・ノームは別格です」

「速攻でやっつければ済む!」

「ルールー、血がいっぱいです! 怖いです!」

「うるさい黙れ!」

「「!?」」

 ルークスがノンノンに怒鳴るなど、今まで一度も無かったことだ。

 あまりの驚きで精霊たちは声を失った。

 ルークスが立てる荒い息づかいだけが水繭内で聞こえる。

 自分がしでかしたことに、少年は戦慄(せんりつ)していた。

 十を数えるほど時が過ぎたとき、大音声が水繭全体を震撼させた。


「精霊の声に耳を傾けよ、ルークス・レークタ!!」


 インスピラティオーネがルークスに怒ったのも、初めてのことだった。

 それでも決定権は委ねたままでいる。

「主様、イノリを解体します。よろしいですね?」

「わ……分かった……」

 ルークスは身を震わせながら首肯(うなず)く。

 感情に飲み込まれたことを激しく後悔して。

「ノンノン……ごめん……」

「ノンノンは、へっちゃらです」

 まるで気遣いをさせたみたいで自分が情けなく、少年は死にたくなるほど自己嫌悪した。


 身を細くして鎧を落としてから、イノリは水繭を地面に置いた。

 そのまま本体が溶け、水繭が割れてルークスは外気に解放された。

 途端に目眩を起こす。

 視野が狭くなり、辺りが暗くなる。

 かなりの出血に加え興奮が鎮まり、気圧変動による血管拡張も加わったため血圧が急低下したのだ。

 いくら高圧力の本体内部から隔離されていても、水繭が圧縮されるので内圧は上昇してしまう。

 倒れ込むルークスをリートレが受け止め、その身を横たわらせる。

 頭を水で冷やす一方でルークスの体内水分に同化し、損傷した細胞を修復する。

 ノンノンは水筒を両手で掲げてルークスの口に当て、少しずつ水を飲ませる。

 その頭上でインスピラティオーネが警戒し、カリディータが敵の前に立ちはだかる。


 そこにオブスタンティアが操るバーサーカーが迫った。

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