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一基当千ゴーレムライダー ~十年かけても動かせないので自分で操縦します~  作者: 葵東
第八章 大精霊契約者vs.大精霊の親友
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同盟国の不協和音

 リスティア王国のヴラヴィ女王はオロオロと狼狽(ろうばい)していた。

 亡命先から連れてきた唯一の臣下であるカゾス女官長と、パトリア王国のルークス卿とが火花を散らしているのだ。

「ルークス卿! 貴公は無礼にも我が女王陛下をお待たせしたのですぞ!」

「部下が拘束されている問題を解決してから来たんですが? ()の場で問題を出さずにすむように」

「たかだか傭兵の処遇ごときを君主に問いかけるなど、言語道断!」


 年かさの女官長は激怒していた。

 パトリア王国がヴラヴィ女王をないがしろにしていると思いこんで。

 日も落ちてランプが灯りを投げかける謁見の間、軍議の場にパトリア軍のスーマム将軍の姿はない。

 負傷したとかで欠席したのだ。

 さらに、その上役ルークス卿が大幅に遅刻。

 パトリア軍の報告は将軍の副官がやったが、なんと尉官だった。

 本来なら国王の前に出られない軽卒を差し向けられた時点で、彼女は怒り心頭である。

 パトリア女王の名代プレイクラウス卿の手前こらえていたが、遅参したルークス卿が「護衛の傭兵を解放させてから来た」と言い訳したので、我慢の限度を超えてしまったのだ。

 傭兵のために一国の主を待たせるなどありえない。

 しかも「衛兵が報告していない」程度のことで驚くなど嫌味に決まっている。

 リスティア女王など傭兵以下、相手は尉官で十分と思われた、と彼女は信じた。

 ゆえに未成年騎士を叱りつけたのだ。

 だのにルークス卿は言い訳を重ねるので、カゾス女官長の怒りは倍増した。


 両者の衝突にヴラヴィ女王は困り果てたが、女官長の剣幕に圧されて口を挟めなかった。


 発端は、王城の衛兵が傭兵サルヴァージを拘束したことである。

 帝国の国章を付けた鞍に跨がった巨漢を衛兵が怪しんだ。「敵から奪ったと」の言は信じられず、間諜の疑いで拘束された。

 ここまでなら、戦時にありがちな誤解である。

 だがルークスが「身柄引き渡しを要求」しても拒否されたので問題となった。

 傭兵と一緒に帰還したプレイクラウス卿の抗議については「雇い主ではない」との言い分もなり立つが、ルークスはその雇い主であるからだ。

 返せ返さぬの押し問答が続き、軍議出席が大幅に遅れてしまった。


「そりゃアラゾニキの元部下ですから、僕に嫌がらせをするくらいは理解します。けど、穏便に済ませたことを非難されるなんて心外です」

「問題は貴公が陛下を待たせ続けたことです。何度催促しましたか!?」

「その度に『衛兵に解放させるよう』言ったんですが、聞いてくれませんでした」

「兵のとりまとめはパナッシュ元帥です!」

 女官長の骨張った指で差された太った将官は、ため息をついて首を振る。隣の痩せた参謀長が咳払いした。

「失礼ながら訂正させていただきます。衛兵は宮内の管轄なので、軍は命令できません」

「へえ、パトリアと同じなんだ」

 ルークスの視線と意識がキニロギキ参謀長に向けられた。

「はい。近代軍制にしてもその前の体制にせよ、同盟諸国は似たり寄ったりでしたから――封建国に限れば」

「じゃあ宮内相を呼んでください。今後のこともあるから釘を刺さないと」

「それが……まだ国家としての陣容が整わず、宮内相は未定なのです」

「じゃあ衛兵の指揮は誰が?」

「それが……宮内相の代行は……カゾス女官長でして」

 ルークスの目が円くなる。ついで半眼となり女官長をねめつけた。

「呆れたもんだ。あなたが部下に解放を命じていれば、女王陛下を待たせずに済んだんじゃないですか?」

「た――たかだか傭兵など、私は関知しません」

「対象がどうあれ、同盟国の派遣軍司令からの部下解放要求なんですよ? 現場で判断できることじゃないでしょ? だのに上役に相談も報告もしなかった。そりゃ立て直し中の国ですから、不手際はあるでしょう。しかし非がそちらなのに逆ギレはひどいですよ」

「たかだか傭兵一人で、両国の関係に亀裂を入れるのは愚かではありませんか、ルークス卿」

 この論点そらしにルークスも怒った。

「同盟国との関係より女官長のご機嫌が優先されるよりはマシだと思いますが」

「それは暴言です! パトリアの女王はこんな人を騎士にしたのですか!?」

 少年からしたら、祖国の都合はあれどリスティア王国のために戦ってきたのだ。

 戦闘で疲れ果てた身体に鞭打ち、両国間に亀裂が入らないように配慮した。

 しかもアルティへの挨拶もそこそこにして来たのに、である。

 そしてルークスは友達への侮辱は許さない。

「優秀な敵よりも、無能な味方の方が恐ろしいものです。サントル帝国があなたを選んだ理由、分かりました。どれだけ優秀な間諜だろうと不可能なほどの、利敵行為をしてくれますから」

 次第に強まるルークスの語気に、リスティア軍のキニロギキ参謀長は蒼白になった。

 今は左肩の小精霊がなだめているが、彼の頭上には姿を消した大精霊がいるのだ。

 グラン・シルフの力は身を以て教えられていたから、文字通り震えあがった。

 ただでさえ顔色悪い男なので、ランプの灯りでもその尋常ならざる様子がヴラヴィ女王にも分かった。

「ルークス卿、臣下の非礼は私からお詫びします」

「陛下!? なにも陛下が――」

「あなたに意見は求めていません」

 臣下を絶句させ女王は頭を下げる。

「どうか怒りをといて、今後もご助力ください」

 他国とはいえ、一国の主にそこまでされてはルークスも決まりが悪い。

「ご心配なく。約束は果たします。自分の感情で務めを忘れたりはしませんから」

 本人は意図していなかったが、宮内相代行への痛烈な皮肉になった。

 女官長が身を震わせるので、プレイクラウス卿は取りなした。

「敵新兵器との戦闘でルークス卿は疲労困憊しております。明日、帝国軍本隊との決戦が予想されますので、もう休ませるべきかと」

 それでは軍議にならない、と言うカゾス女官長をパナッシュ元帥がたしなめる。

「パトリア軍は、あくまでも我が軍の支援が役割ですぞ。こちらの報告の補完ならば、副官殿で十分果たせましょう」

 暴君をなだめることに長けた年長者には、女官長も従うしかなかった。


 このトラブルが尾を引いて、ルークスは最悪の体調で翌朝を迎えることになる。


 そして帝国軍本隊が動いた。


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