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問題

 帝国軍の補給部隊に物資を放棄させパトリア軍が回収する、という今作戦の二つ目の目的も達成した。

 だが輸送の際に問題が起きた。

 想定よりゴーレム車が多いのだ。

 パトリア軍はノーム契約数が多い者を選抜したのだが、それで動かせるゴーレム車は六百弱。

 一方帝国軍が放棄したゴーレム車は八百強あった。

「帝国軍に返すのも(しゃく)ですな。いっそ近隣の町に振る舞っては?」

 提案するスーマム将軍にルークスは言う。

「手空きのゴーレムが十五基もいますよ?」

 鹵獲した軽量型ゴーレムは下半身の補修中だ。

 夜のうえに土を被っているが、ルークスの見立てで「骨格に歪みが無い」物を直している。

 もっとも骨が無事でも、球体関節の隙間に土が入るなどして動けない可能性はあった。

「内骨格型ゴーレムは鹵獲しても使えるか分からない欠点があるのか」

 その欠点は帝国から見れば利点だが。

 下腹部の土を戻したゴーレムから立ち上がらせて、股関節周りの動作を確認する。

 そうして稼働できたゴーレムが十五基。

 ルークスが言う「手空きのゴーレム」はこのことだ。

 残る五基は骨に異常があった他に、ノーム不足で放棄決定だ。

 帝国軍が戻って来ても使われないよう鹵獲レンジャーで、念入りに剥き出しの股関節を戦槌で叩いた。

 この作業でレンジャーが「従来型の半分しか無い戦槌」を両手でやっと持ち上げる力しかないと判明した。

 軽量化のため最低限の力しか持たず、図体だけは大きいのに引けるゴーレム車は一台がやっと。

 つまり等身大ゴーレム程度なのだ。

 呆れて首を振るスーマム将軍の肩を、ルークスは軽く叩いた。

「筋肉を増やせば解決しますよ」

 少年司令は事もなげに言う。

「脛当てを捨てて、足腰にもっと土を足すんです。細身なのは軽量化のためであって、ここから王都を経て軍港までゴーレム街道で行けますから、重量制限はありません」

「良いのですか?」

 確認する将軍にルークスは笑いかける。

「別に鹵獲した状態で使わなければならない決まりなんてありませんから。パトリアに送って性能評価するときに、元に戻せば済む話です」

 土を盛って下半身を太らせたレンジャーはバランスが悪いが、ゴーレム車を左右の足それぞれで二台ずつ引くことができた。

 これで六十台多く運べる。

「あとは近くの町に知らせれば終わりですね。荷駄隊の方はお任せします」

 シルフに指示をしてからルークスはイノリに戻った。

「やっと帰れる」

「ルールーお疲れです」

「帰るまで寝ていてね、ルークスちゃん」

 また朝帰りかと思うと、ルークスは少々げんなりした。


                  א


 東の空が白む頃、帝国軍ゴーレム師団「蹂躙」の本部天幕で怒声が響いた。

 ゴーレム師団だけでなく、征北軍本隊の全員がこの夜は天幕か屋外で過ごす羽目になっている。

 自分らが休憩していた都市を、自らの手で破壊したがために。

 その命令を下した師団長のアロガン将軍は、紫の髪を逆立てていた。

「貴様のせいで、吾輩は面目を無くしたではないか!」

 激怒の理由は「司令部への出頭に遅刻した」件だ。

 司令部から各師団へは同時に伝令が走ったはず。

 だのに一人だけ遅れたのは「呼び出しを想定して準備していなかった」将軍本人の落ち度である。

 にも拘わらずシノシュは怒鳴られていた。

「お前は遠方のノームの動向も把握できた。だのに、補給部隊のゴーレムが壊滅したことを報告しなかった!」

 という理由で。

 補給部隊は蹂躙師団どころか征北軍の所属でさえない。

 当然、そこのノームは師団のグラン・ノームの影響下にない。

 しかし精霊について何も知らない将軍は「シノシュの怠慢」を責めた。

 シノシュは後ろにいる土の大精霊オブスタンティアに尋ねた。

「分かっていましたか?」

「師団に属さない、つまり私の影響下にないノームの動向など分かるはずもない」

 彼女は明言した。

 怒りの行き先を失いかけたアロガンは、首を振って再度怒鳴る。

「それだけでは無いぞ! 貴様は、補給部隊から伝令ノームが来たことを吾輩に隠していた!」

 シノシュは再び振り返る。

「伝令ノームは知っていましたか?」

「警戒範囲に入った時点で知った」

「そら見ろ!」

 勝ち誇るアロガンに、オブスタンティアは言葉を続ける。

「ただ司令部に出入りするノームの報告は禁じられた。アロガン、お前にだ」

 愕然とする師団長にグラン・ノームは追い打ちをかける。

「司令部の動きを探るなどスパイ行為だ、師団の枠を守れ、とお前は言った」

「そ、それは何かの間違いだ」

 アロガンの顔からは血の気が引いていた。

「精霊に記憶違いはない。人間と違うぞ」

「嘘をつけと、そいつに言われたんだ!」

「シノシュに言われたところで嘘などつかぬ。人間と同じに考えるな」

「だが――」

 天幕のあちこちを見回し、抜け道がないと確認したかのようにアロガン将軍はうな垂れた。

 そしてシノシュの顔を見た。

「何をジロジロ見ているのだ!?」

「は! 師団長閣下のお言葉を一言も聞き逃さないためであります!」

 こめかみに青筋を立てるアロガンに、オブスタンティアが言う。

「指揮官から目を離すな、と命じたのはお前だ」

「融通を利かせろ! 臨機応変に動くのが軍だろうが!」

「シノシュに臨機応変を許すのか?」

「貴様、精霊に言わせるな!」

 シノシュはオブスタンティアに沈黙するよう指示をした。

 アロガンは存分に罵声を少年に浴びせた。

 うな垂れたまま聞くシノシュは、暗い確信を抱いていた。

 今作戦が失敗に終わったとき「師団長が敗因を自分に押しつけることが確定した」と。

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