表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

リデル・ロイヤーの冒険日記2

作者: 溶融太郎

西暦2245年、地底より魔王軍が襲来した。魔王軍の力は強力で、各国は手を取り合い連合軍としてこれに対抗した。永きにに渡る戦争は拮抗を保っていたが、次第に連合軍が圧され始めた。各国は高い賃金を支払い志願兵を募った。リデル・ロイヤーもまた、志願した傭兵の一人である。




「おーい、リデルー、こっちも手伝ってくれよー。」

そう元気よく声をかけてきたのは、海兵のマリアだ。マリアは女性だが男勝りで気性も荒い。この日は鑑の一斉清掃の為、戦闘員であるリデルも一緒に清掃していた。リデルは現在、魔戦艦隊の傭兵乗組員として、海兵隊に所属している。この国は海に面した地形の為、水棲系モンスターが頻繁に出没する。国土には様々な島も点在し、島には街もある。

「ほら!もっとシャッシャカ擦るんだよ!」

マリアにデッキブラシの使い方がなってないと指摘を受けるリデルは、些か不満だった。なぜ傭兵の自分がこんな事をしなければいけないのか?早く清掃など、終わって欲しかった。

「ま!大体こんな所だな!」

ようやく解放されたリデルは一息着いた。

「何だよ、その嫌そうな顔はー。ハハーン、さては掃除が不満なんだなー。今時男子は、家事も両立!

大体お前、モーゼのクルーだろ。家だと思って掃除しろー?」

リデルの所属鑑は、駆逐艦モーゼ。海戦では先陣を切って突入する。・・・今は、デッキブラシを装備しているが。モンスターとの戦闘になった時には、鑑の甲板にモンスターが上がって来る。その時の為の傭兵なのだ。ただ、リデルにも、鑑の鑑銃位なら触らせてもらえた。リデルは鑑銃応戦が、得意とは言わずとも割と好きだった。

「よし!そろそろ昼飯だな!食堂に行こうぜ!」

リデルとマリアは艦内の食堂へ向かう。食堂には海兵達も集まり始めた。食事には魚介類がよく出て来る。海兵達は趣味も兼ねて釣りや網などの仕掛けも得意だ。モーゼの艦内には、ポスターの様に魚拓が貼りだされていて、ステータスの様に顔写真付きで披露される。リデルも釣りは勉強中だ。

「この魚、俺が釣ったんだぜ!綺麗に食べてやるからな、アミィ。」

魚に名前まで付けている者までいる。

「んめーな!これ!」

美味しそうに食事を貪るマリアは、男所帯のせいか、色々と雑だ。金髪に青い目、大きな口が印象的だ。

「ん?何だ?リデル。俺の事ジロジロ見て・・・ハハーン、さては俺に惚れやがったなー。キス位ならしてやってもいーぜゲッープ!!」

マリアは自分の事を俺という。リデルはマリアの事が少し苦手だった。下品な仕草やすぐにリデルの体を触ってくる所などセクハラ並みだ。

「お!良かったなリデル!今晩のオカズはキマリだな!ガハハ!」

上官の大尉がこれだ。訴えても無意味だろう。リデルは食事を終え自室に戻った。部屋は個室だったが、物置にベッドが置かれただけだ。まあそれでも、3段ベッドの12人部屋よりは快適だろう。リデルが一息着いた時、艦内のサイレンが鳴り響いた。

「敵影接近!敵影接近!クルーは直ちに配置へ着け!」

鑑が慌ただしくなった。リデルは剣を手に取り甲板へと向かった。甲板に着くと50m位先だろうか、数匹のモンスター達が確認できた。

「魚雷発射口開け!照準ヨシ!・・・てぇ!!」

鑑の船首先から2つの光がモンスターに向かう。海が爆発した。

「目標1体撃破!さらに5体接近!」

「主砲発射用意・・・てぇ!!」

頭の上の砲門が爆発する。耳が痛い。

「続き2体撃破!3体接近!」

「鑑銃一斉斉射!」

4機の鑑銃がモンスターを狙う、リデルも鑑銃を撃ち込む。

「1体撃破、2体乗艦!近接戦闘急げ!」

リデルは剣を取り甲板へ向かう。マリアも槍を構えていた。

「行くぜリデル!!」


モンスター2体が現れた!レプラコーン、ラートシカムイだ!


「おらよ!」

「ハッ!」


2人はモンスターを倒した。


「全体撃破。各員待機セヨ!」


「ふー・・・やれやれだぜ。」

戦闘が終わり、マリアはその辺に腰かけた。リデルも肩の力を落とす。

「あ、そーそー、リデル、俺とお前、艦長に呼ばれてんぞ。艦長室に来いとよ。俺達のあの熱い夜がバレちまったのかな?」

身に覚えがないが、リデルは頷いた。



「コンコン」

「マリア、リデル、入ります!」

マリアは大きな声を出す。

「うむ!入室を許可する!」

艦長の許可を得て扉を開けた。艦長室はこじんまりとしていて、面白そうな物は特に見当たらない。

事務室の様な感じだ。

「そこに掛けてくれ。」

艦長は地図を拡げた。

「白兵戦が得意なお前達にモンスター討伐の依頼が来ててな。これから説明する。」

艦長はそう言い始めた。もちろん、拒否権など、無い。

「討伐の対象は、クロノサウルスといってな、水棲生物でありながら陸上で活動できるモンスターだ。

最近、このクロノサウルスが人を襲い始めたのだ。産卵の前にたっぷり栄養を摂ろうとしているのだろうが、人類にはただの脅威だ。先ずは、南のグルデンという街に行ってくれ。そこにヒーラー役のクレリックを傭兵として雇っている。」

クレリックとは、神父の事だ。艦長はその男性の特徴を教えてくれた。

「アルサムという男で、回復、魔法攻撃、支援魔法といった魔法主体の色々と出来る奴だ。グルデンの酒場で落ち合う約束だ。では、良い報告を期待しているぞ。ちゃんと生きて帰って来いよ?」

リデルとマリアは艦長室を出た。

「魔物討伐かー。まー、たまにはいいかなー。」

マリアは楽観的だ。リデルの方も傭兵らしい仕事だと思っていた。駆逐艦モーゼはグルデンの港に寄港し、リデルとマリアを降鑑させた。グルデンの街は港街で、ヤシ科の木や海水浴の人々で賑わう。フルーツの産地としても有名だ。南国ならではの気候もあり、エメラルドグリーンの海、美しい砂浜と、まさに観光名所である。

「くっそー。こりゃ、仕事してる場合じゃねーな!トンズラすっか!リデル!俺の水着姿、見てーだろ?」

リデルは首を横に振り、酒場を探す。

「つまんねー奴だぜ。・・・酒場って、もしかしてあれか?」

マリアが指差す場所は、ワラブキの屋根に壁の無い吹き抜けのバーだ。これも南国特有だ。

「行ってみよーぜ、俺、あーゆー店好きなんだよなー。」

仕事を忘れ上機嫌のマリアに、リデルは着いていった。バーの中はヒップホップ・サウンドで、クラブの様だ。

「この店最高だぜ!ヘイ!マスター!テキーラプリーズ!」

度の強い酒をキメるマリアを他所に、リデルは周囲を見回した。水着の観光客、複数の女連れの男、DJ、

老夫婦、客は色々といる。リデルは、複数の女連れの若い男に目が止まった。

「何だ、リデル。羨ましいのか?俺がいるじゃねーか。負けてねーよ。」

マリアは豪快に笑うが、女連れの男は、首から十字架をぶら下げていた。・・・もしや。

リデルはその男に近づき、アルサムかと尋ねた。

「オー!ハハーン、アナタ方が・・・ごめんよ、急用が出来た様だ。また後で連絡するヨ!」

アルサムは女達と別れ、席を立った。

「初めまして!僕がアルサムさ!よろしく!アハハーン!」

アルサムはキラキラ眩しい笑顔で挨拶をする。リデルはイラッと来た。だが

「無茶苦茶イケメンじゃねーか!リデルが霞んで見えらあ!さっきの女達は、お前のコレか?」

マリアはオッサン風に小指を立てる。

「いやあ!逆ナンパにあっちゃって!困るんだよねー。アハンハーン!」

リデルは何故か、とても不愉快だった。何故かは自分でも分からない・・・

「いいじゃねーか!おい、おい!!」

腹立たしく盛り上がるマリア。しかし、これからを共にする仲間だ、こんな事ではいけない・・・リデルは自分を落ち着かせ、握手しようと右手を差し出した。

「オー、ソー来ますか・・・待ってくだサーイ・・・」

アルサムはゴム手袋をはめ、リデルと握手し、そのゴム手袋をゴミ箱に投げ捨てた!リデルは不快感を得た!

「お前、潔癖症だなー?俺とは握手出来るのか?」

マリアは右手を差し出した。

「もちろんデース。女性は神サマデース。私がお守りシマース。ンハンハハーン!」

「あらー♡守って貰おうかしらー。」

マリアは目をキラキラさせた。リデルは、やり場のない気持ちと戦っていた・・・




一行は、クロノサウルスへ向かい北上、街道を歩いていた。

「なー。アルサム、お前、神父だろ?何で傭兵なんかやってんだ?」

マリアは歩きながら聞く。

「オー!それ聞く?神様はご飯を食べさせてはくれません。私にできる事はエクソシスト位のモノです。」

エクソシストとは悪霊払いの事だ。

「オー!そりゃ、悪い事きーたな。アルサムは、エエクソしすヒトか。」

「ええ、クソしすヒトデース。」

アルサムの投げやりな会話を聞いているうちに、サイモンという街に着いた。ここで、クロノサウルスの情報でも聞いておこうと、酒場に入った。

「ヘイ、マスター、ジーマでもくれよ。ところで、クロノサウルスのタレコミ、無いか?」

マリアはブン屋の様に聞いた。

「タレコミって程でも無いが、奴っこさん、産卵期で気が立っているらしいぜ?人を数人ペロッとイっちまいやがったらしい。」

「そいつの駆除の為に俺達が駆り出されたんだ。」

マリアは、ジーマの瓶の底を上に向ける。

「そいつはありがてぇ話だぜ。夜、出歩けねぇってなったら、おまんま喰えなくなっちまう。頼んだぜ。

聞いた話じゃあ、このサイモンの北に、クロノサウルスの巣があるらしいぜ。」

マスターは、有力な情報を提供してくれた。一行はマスターに別れを告げ、店を出た。

「やっぱり、何人かやられてるみたいだな。しかし・・・産卵期か・・・」

マリアは何か考え込んでいた。

「よし、今日はもう宿をとろーぜ!明日は朝一で、クロノサウルスの巣に出発だ!」

一行は、サイモンの街で夜が明けるのを待った。




翌朝、一行はサイモンの街を出た。北へ向かうと湿地帯になった。いかにも何か潜んでそうだ。

一行は、サイモンの街で聞いたクロノサウルスの巣へと向かう。足を取られながらも進み、洞窟を見つけた。

「覗いてみよーぜ・・・」

リデルは覗いてみた。クロノサウルスが、寝息を立てている。

「先制攻撃に限りマース。」

一行は、クロノサウルスに詰め寄った。先制攻撃だ。

「オラオラァ!!」

マリアは槍で突き刺した!

「フンッ!!」

リデルは剣で斬りかかった!

「穿ち登れ炎よ!ルイ・メルデ・グライ!!」

アルサムは火炎魔法を放った!

「ギョオワアアアアア!!!!」

クロノサウルスは目を覚ました。クロノサウルスは炎に包まれ弱っている。

「ちょっと待ってくれ。」

マリアは皆を止めた。

「クロノサウルス・・・お前、メスだろ。俺も女だからな・・・お前、ただ必死に子を持とうとしてるだけなんだな・・・でもな、人を襲っちまったら、仕方ねえんだよ・・・悪意なんて無くてもだ・・・」

マリアは、海風の槍を構えた。

「次は、人間に生まれてこいよ・・・待ってるぜ・・・」

マリアの槍は、クロノサウルスの心臓を貫いた!

「ギャアアアアア!!!」

クロノサウルスは息絶えた。

「・・・・腹と顔は突けなかったな・・・だけど、まだ、こいつに子がいなくて良かった・・・赤ちゃんでも、駆除しないといけないからな・・・」

リデルは、マリアにどう声をかけて良いか分からなかった。

「俺は、こいつの墓を作ってやりたい・・・後、アルサム、こいつの為に祈ってやってくれ・・・」

リデルは、墓を作る手伝いをすると言った。

「ああ・・・すまねえな・・・」

・・・・アルサムが墓の前で十字架を掲げる。

「偉大なる主よ・・・この者の魂に安らぎと正しい道を・・・」

ポウと一つ、光るものが天に向かった。3人はその光るものを目で追い、考え込んでいた。

「アイツからしたら、俺達の方こそ・・・なあ、俺達は一体、何の戦いをしているんだろうな?」

3人共、黙っていた・・・

「少し、感傷的になっちまったが、帰ろうぜ!モーゼに!!」

3人は、本部に戻る事にした。




3人は、艦長にクロノサウルス討伐終了の報告をした。

「うむ・・・ご苦労だった。次の依頼はだな・・・」

もちろん拒否権は無い。

「次の討伐依頼は、ヘリコプリオンだ。こいつは、下あごがノコギリ状の肉食魚でな、リルクル島に打ち上げられた難破船を根城にしておる。こいつのせいで、難破船を解体できんらしい。では、よろしく頼む。」

3人は、艦長室を出た。

「今度は悪い奴そーだぜ!よーし!」

マリアに元気が戻ったようだ。

3人は、リルクル島へ向かった。リルクル島はいくつかの集落もあり、危ないモンスターがいては危険だ。一行は難破船を発見した。

「オイオイ!こりゃあ難破船ってゆーより・・・」

その難破船は、とうに朽ち果て、異様な瘴気を放っていた。その姿はまるで、幽霊船の様だった。

「まあ、大丈夫だろ!こっちにはエクソシストもいるしな!なんかあったら頼むぜ!アルサム。」

マリアは難破船に乗り込もうとした。

「ちょっとマッテクダサーイ!!」

アルサムが叫んだ。

「ワタ、ワタシ・・・怖いのダメデース!!ナンマンダブー・・・」

アルサムがカタカタと震えている。

「はあー!?ナンマンダブって・・・お前、エクソシストだろー?怖いのダメって・・・そんなんあるかよー!?」

「ダメナものはダメなのデース!ワタシはここからウゴキマセーン!!」

「オイオイ・・・」

リデルとマリアは顔を見合わせた。

「あのな、アルサム。幽霊船には海賊のお宝があるっていうのが定番だ。アルサムだって、ベルムが欲しいだろ?」

ベルムとは、この国の通貨だ。

「俺は海兵だから、お宝見つけても取り上げられちまうからな、お宝見つけたら、全部アルサムにやるよ。

な!リデル!」

リデルを見たマリアの顔は、悪女そのものだった。リデルは、ここにも魔物がいると思った。

「ホントデスカ?オー、アナタ良い人。サッソク行きまショウ!!」

アルサムの目はベルム色になっていた。一行は難破船に乗り込んだ。内部は重い瘴気が立ち込め、常に何者かに見つめられている様な雰囲気がした・・・

「匂いマスネ・・・ベルムが・・・」

いつの間にか先頭に躍り出たアルサムが、十字架・・・ではなく、サイフを手に進む。

「グオオオオッ!」

ゴースト達が現れた!

「オラ!」

マリアは槍を貫いた!

「ハッ!」

リデルは剣で斬りかかった!

「トイレノトラブル5000ベルム!ジャグチノトラブル8000ベルム!ガポガポ・ベルム・ジャラジャラーン!!」

アルサムは水属性の攻撃魔法を唱えた!

ゴースト達を退治した!

「アルサム!今の戦闘でリデルが傷を負った!回復してやってくれ!」

リデルは膝を着いている。

「アッ!・・・チッ!!これで!ブバッ!!」

アルサムは聖水を口に含み、リデルの傷口に吹いた!リデルは不快感を得た!

一行はさらに奥へと侵入した。

「いたぞ・・・ヘリコプリオンだ・・・よし、ここは慎重に・・・」

マリアが皆を静止しようとした時、

「ウオオ!お宝ダシヤガレーイ!!」

アルサムがヘリコプリオンに突撃した!

「ドゴッ!」

なんとアルサムは拳でヘリコプリオンを殴り倒した!

「おおおっ!?よし行け行け!やっちまえー!!」

リデルとマリアも加わり、ギタギタにした。ヘリコプリオンを倒した!

「お宝ありませんデシタ・・・ワタシ達は一体、何の戦いをしているのデショウか・・・」

どこかで聞いた言葉だが、リデルはスルーした。




一行はモーゼに帰還し、ヘリコプリオン討伐終了の報告をした。

「うむ!良くやっているな。で、次の依頼はだな・・・」

しつこい様だが拒否権は無い。

「次の依頼は、ダンクレオステウスだ。このモンスターは戦車の様に硬い装甲で、極めて凶暴だ。人間はもちろん、海の生態系まで荒らしまくっておる。こいつは必ず討伐せねばならん。かなり強くて厄介な相手だ。何名かも、返り討ちにあっておる。」

これまでに無い深刻な空気が流れた。

「でな、新たな傭兵を雇った。戦士タイプの傭兵だ。・・・少し待っていてくれ、今、連れて来る。」

艦長は席を立った。

「新しい仲間だとよ!どんな奴だろうな!」

マリアは何やら楽しそうだ。

「ガチャッ」

艦長室の扉が開いた。

「入りたまえ、紹介しよう。名をレジーナという。」

艦長の後ろをついてきた戦士が目の前に立った。

「うわ・・・こいつ・・・」

マリアが固まった。その戦士は、打ち首の斧、いけにえの鎧、悲鳴の鉄仮面、絶望の盾という、呪いシリーズの装備を網羅していた。おぞましい怨念が艦長室に充満した。

「・・・・・・・」

あまり関わり合いになりたくない空気が流れた。リデルもドン引きしていた。

「アッ!ごめんなさい!仮面が落ちちゃって!」

仮面を上げたその戦士は、少女の様な顔をしていた。手足が伸びただけの、あどけない娘だ。

「レジーナと言います。一生懸命頑張ります!よろしくお願いします!」

元気よく挨拶したレジーナは、艶々の黒髪にキラキラした目をしていた。

「うむ。レジーナ、かけたまえ。」

「失礼します!」

艦長に着席を促されたレジーナは、ピョンとソファに腰かけた。

「レジーナは、最近、志願して来た傭兵だ。訓練校での成績も優秀だ。力になってくれるだろう。」

艦長は信頼を置いている様だ。

「私、頑張って戦力になります!大人ですから!」

レジーナは、小さな鼻をフンス!とした。

「して、ダンクレオステウスの居所だが、リルクル島のすぐ南にルメイダ島という島がある。奴はこの島を占領して、人間を追い払ってしまった。そこから奴は度々、海や陸に姿を現し、人間や動物、魚介類に至るまでを襲っている。戦果を期待しているぞ!では、よろしく頼む!」

4人は艦長室を出て、ルメイダ島に向かった。




一行はルメイダ島に上陸し、ダンクレオステウスを目指した。その道中、

「レジーナは、どうして呪いシリーズの装備なんだ?」

マリアはレジーナに質問した。

「ああ、この装備ですか・・・これは、お父さんと、お母さんが用意してくれたんです。これを着ていれば大丈夫だからって・・・」

確かに呪いシリーズは、頑強ではあるが・・・リデルはそう思った。

「父と母は、グルデンの街で道具屋を営んでいます。私が戦士になりたいと言ったら、両親には泣いて反対されました。私は小さい頃は体が弱くて・・・でも、私には憧れてる戦士がいます。その人の名はミディという人です。」

リデルは、ポンと掌を叩いた。

「そのミディという人は、小さな体で屈強なモンスターを撃ち破っていました。私はその人の様になりたいんです。家を出立する時、両親はまた泣いて送り出してくれました。」

まあ、道具屋は戦闘には疎いのだろう、リデルはそう思った。アルサムは、今の話を聞いて泣いていた。

「私、何があっても負けません!大人ですから!」

両親を想い目を潤ませたレジーナは、吹き抜ける潮風に涙を乗せて笑顔を見せた。

「フーン・・・」

レジーナに質問をしたマリアはアクビをしていた。

一行はルメイダ島の中心に到達した。

「いたぞ・・・」

そこに、獲物を貪っている、ダンクレオステウスがいた。辺りには、生き物の骨が散乱し、無残な骸が無念を訴えていた。

「アイツ・・・とんでもねえ奴だぜ。行くぞ!!」

マリアが先頭を切り、ダンクレオステウスに飛びかかった!

「ギョオワアアアアア!!」

ダンクレオステウスは身を翻し、辺りを薙ぎ払う!

「ぐっ!!アルサム!回復を頼む!」

アルサムは、マリア、レジーナを回復させ、リデルには聖水を吹いた!

「ヨシ、皆、攻撃だ!」

リデルとマリアは斬りかかる!

「う~動けません~。」

レジーナは呪いの為、固まっている。

「皆サンの守備、上昇させます!神よ!悪に立ち向かう者に抱擁のご加護を!アザルイア・レイ・ザレム!!」

パーティーは柔らかいカーテンに包まれた!

「ナイスだアルサム!行くぜリデル!」

リデルとマリアの挟み撃ちがダンクレオステウスの眉間を捉えた!

「ギャアアアアア!!!」

ダンクレオステウスの動きが鈍くなった!

「私だって大人なんです!んはあ~!」

レジーナの打ち首の斧が嘆き出した!辺りに怨みの亡霊が集まる!

「ヒッ!ヒトダマッ!こっち来るナ!シッシッ!」

アルサムはヒトダマを追い払った。

「悪い子は・・・メッ!!!」

レジーナは斧を振り下ろした!地面から湧き出た何本もの手がダンクレオステウスを掴み、亡霊達がその体を食い破る!腹を満たした亡霊達は、冥府へ帰っていった・・・ダンクレオステウスを倒した!

「やっ・・・やった!リデルさん!私、やりました!!」

レジーナはピョンピョン飛び跳ね、ポニーテールを揺らした。

「リデルさん、私、体が弱くても頑張ったら戦えるって・・・クスンクスン・・・」

レジーナは感動していたが、

「何ださっきのレジーナの一撃・・・怖えええええー・・・」

やっぱり皆、ドン引きしていた。




一行はモーゼに帰還し、ダンクレオステウスの討伐報告をした。

「うむ。良くやってくれた。」

「こいつが止めを刺したんです。恐ろしい技で。」

マリアはレジーナを笑って指さした。

「そうか!これからも期待しているぞ。」

「いえ・・・私は・・・はい・・・」

レジーナは顔を赤らめた。

「うむ。で、これからなんだが、明後日、重要な会議がある。4人共、出席するように。明日は休日にしておいてくれ。これから本国は、大事な決戦を迎える。ハメを外しすぎるなよ?では、明後日の朝、会議でな。」

4人は艦長室を出た。

「大事な会議?何だろうな。」

マリアにも分からない様だ。

「ところで、皆、明日は何するんだ?」

マリアは皆に尋ねる。

「いやあ・・・いきなり休みと言われマシテモ・・・」

アルサムはそう答えた。他の皆も同じ意見だ。

「じゃあよ、これまでの祝勝パーティーやら懇親会やら歓迎会ってことで、明日、飲みに行かないか?」

マリアは親指を立てた。

「オー!イイデスね!たまのお酒なら、神様も許してクレマース!」

「私、賛成です!」

リデルも頷いた。

「キマリだな!じゃあ、明日の夜、本部のバーで落ち合おうぜ!」

リデルは皆と別れ、部屋の掃除や、買い物をして次の夜を待った。そして夜が来た。リデルは本部のバーで皆を待っていた。本部のバーは陽気で明るい雰囲気だ。少し懐かしいロックがかかり居心地も良い。

「リデルさん!」

レジーナがやって来た。休日のレジーナは、呪いの装備を外していた。ミニスカートに、といた髪、そして、まだ憶えたての化粧が初々しい。しかし、瑞々しい肌や輝いた瞳が、背伸びしている雰囲気を出し、とても可愛らしい。レジーナのスラリと伸びた手足が健康的な魅力を放っていた。そこに、マリアとアルサムがやって来た。2人はいつも通りだ。

「お!レジーナ、良い脚してんな!リデルがお前の脚ずっと見てるぜ!」

マリアはすでに一杯やってる様だ。

「リデルさん、そんな目で見たら・・・は、恥ずか・・・」

レジーナはミニスカートを下へ引っ張った。一行はバーに入店し、4人席に落ち着いた。

「カンパーイ!!」

元気よくビールのグラスを鳴らした4人は一斉に喉を鳴らす。

「パーッ!!勝利の後はヤッパこれだな!今日は、モーゼでノモーゼ!!」

「マリアサン、そのオヤジギャグ、エッジが効いてマース!」

「私だってお酒飲めます!大人ですから!!」

リデルも2杯目のビールをおかわりした。皆、日頃のストレスを脱ぎ捨ててしまえばいい。

「いやーしかしなー!アルサムは金の亡者だろー?レジーナはリデルにベタ惚れだろー?カカカ!!」

「ヤッ!!マリアサン!何をっ!」

「オー!金の亡者とは、ウマイ事言いマース!」

「でも!ヤッパリ俺が、一番善人だな!」

「いや!それは無い!!」

「ワハハハハハハ!!!」

久しぶりに笑い声を浴びたリデルも、とても楽しい時を過ごした・・・・・

「ウーン・・リデルさ~ん・・・顔あつ~い・・・」

慣れない酒を飲んだレジーナは、リデルの肩でフニャフニャになっていた。他の2人も寝息を立てている。

リデルは一人グラスを傾け、明日の会議の事を考えていた。リデルはレジーナを部屋まで運び、マリアとアルサムは自分の部屋までフラフラ歩いて帰った。




翌朝、本部の会議室に4人は集まった。続々と将たちも集まる。会議室は物々しい空気に包まれた。

「諸君、よく集まってくれた!我々はこれより、リバイアサン・メルビレイを討ちに出る!」

「オー」

「遂にこの時が・・・」

会議室がざわめいた。マリアも驚いている。

「静粛に!メルビレイは現在、国土の西においてその個体が確認された。メルビレイが存在する限り、この国に安息は無い!奴によって沈められた船は最早、数え切れん!この海戦は、この国の未来を左右する!」

リデルは、リバイアサン・メルビレイという存在は聞いていた。クジラをも捕食する巨大な海の主が、この国の貿易、航路を妨げ、計り知れない損害を出しているのだ。

「我々は、これまで準備を進め、各国の艦隊に応援を要請していた。これより魔戦連合艦隊とし、奴を討ちとる!そして!この連合艦隊の新たな総司令官を任命した!」

モーゼの艦長が立ち上がった。

「今回、総指令に任命されました、モーゼ艦長の、リザール・エルブスです。」

艦長は頭を下げた。

「駆逐艦モーゼは、これより旗艦モーゼとし、護衛艦を6鑑配備する。第5艦隊まで編成し、メルビレイ討伐に向かう!作戦は一週間後、朝10時とする!この国の誇りと威信をかけた作戦だ!心されよ!」

解散の号令を受けた会議室はバタバタと慌ただしい。

「リザール艦長!総司令任命の御出世、おめでとうございます!」

マリアは敬礼した。

「いや・・・今回だけの臨時司令官だ。君達は普段通りでいい・・・少し疲れたな・・・モーゼに戻ろう。」

艦長を加えた5人は、モーゼに戻った・・・

4人は船室で話をしていた。

「すごい事になってきたな!おーし!俺も燃えて来たぜ!しかし、モーゼが旗艦か!この鑑も偉くなったもんだなー!」

マリアは船体を叩く。

「艦長が言うには、俺達は白兵戦待機だってよ。あ、リデルと俺は鑑銃も担当な。作戦まで1週間かー。

大事な準備期間だ、抜かりが無い様にしないとな!」

「必ず勝ちマショウ!」

「絶対勝利です!」

皆、勝利を誓いそれぞれの準備を進めた。そして、3日が過ぎた・・・

「コンコン」

剣の手入れをしていたリデルのドアを誰かが叩いた。

「レジーナです。」

リデルは扉を開けた。

「エヘヘ、お久しぶりです。」

3日空いたら久しぶりだと言うレジーナの笑顔は可愛い。

「あの・・・今から、ふ、2人で飲みませんか?」

可愛い誘いに、つい、リデルは首を縦に振った。

「わあい!行きましょう!」

レジーナはリデルの手を引いてバーに向かう。バーの中は閑散としていた。皆、準備に忙しいのだろう。

暇なのは、傭兵位のものだ。

「カンパイ・・・」

チリンと2人はカクテル・グラスを鳴らした。レジーナはキラリとしたピアスを下げ、艶やかな髪を耳にかける。大人の階段をかけ登ってくるその姿は、いつの間にかリデル自身、目を奪われる瞬間がある。心地よいレジーナの香りが、リデルを何処かへいざなう気がした。

「リデルさんは、この国の人じゃ無いですよね?どうして世界を旅してるんですか?」

まだあどけない声と無邪気な眼差しが、リデルの心を揺さぶる。リデルは、自分に生き別れの妹がいる事、妹がモンスターに連れ去られた事、そして、妹を探して傭兵をしながら世界を旅している事を伝えた。

「リデルさんは、大人ですね・・・妹さん・・・きっと元気だと思います!私はリデルさんにずっとこの国にいて欲しい・・・この国をどう思ってるんですか?」

「・・・・・・」

リデルは何も答えず、グラスを傾けた。

「リデルさん!メッ!ちゃんと目を見て話してくれないと!」

レジーナはリデルの顔を手で無理矢理、自分の方へ向けた。

「アッ・・・ヤ・・・こんな近くで見られたら・・・」

レジーナは上目遣いで困った顔をした。

「・・・リデルさんの手・・・おっきい・・・」

レジーナはリデルの手に自分の手を重ねた。リデルは、レジーナが自分を男として見ているのか、父親と同様の感覚で隣にいるのか、不思議な気分だった。

「リデルさん・・・私はリデルさんの事、大切に思っています・・・」

レジーナのその言葉が、リデルの心に深く残った。

「楽しかったです!これからの大事な一戦、勝ちましょうね!」

いつもの様に元気に跳ねるレジーナを、リデルは見送った。そして、リバイアサン・メルビレイとの戦いの日が訪れた。




旗艦モーゼをやや後方への陣形をとり全鑑が汽笛を揚げる。グルデンの街には民衆が押し寄せ、拍手、喝采が響いた。海兵達はグルデンの街に敬礼し、第一艦隊から出鑑する。海中には潜水艦隊も控え、体制は万全だ。まさに、この国の総力を上げての戦いになる。

「いよいよ、この時が来たな!」

マリアの体に力がこもる。

「神のご加護を・・・」

アルサムは十字をきる。

「う~、ドキドキします~」

レジーナは胸に手を当てる。

「目標!!リバイアサン・メルビレイ!!我々は必ず勝利を手にし、本国に帰還する!!」

また、全鑑が汽笛を鳴らす。リバイアサンは各国の海を荒らしてきた。各国は2つ返事で艦隊を派遣して来ているのだ。世界が注目する一戦だ。負けられない。艦隊はグルデンの街から北へ航路をとる。目標地点までは、もうしばらくかかるだろう

「リデルさん、恐い・・・手を繋いで欲しいです。」

リデルはレジーナの手をとった。無理もない、まだ傭兵になったばかりだ。レジーナには、この経験はまだ早すぎるのだ。傭兵の先輩であるリデルは、レジーナの事が心配で肩を抱き寄せた。

「えっ?リデルさん?そんな・・・こんな所で・・・」

レジーナは違う意味でドキドキしていた。

「オーイ、そこ!イチャつくんなら帰ってからにしろー?ほら、いるぜ・・・」

マリアはアゴで促した。遥か前方に、巨大な黒い塊が見えた。

「目標確認!リバイアサン・メルビレイ!距離500!!」

「全鑑、雷撃戦用意!全砲門開け!」

至る所でサイレンが鳴り響く。

「リデル!俺とお前は、鑑銃で待機だ!他の皆は、武器を持って甲板に待機!急げ!」

4人は互いに頷き、配置に移動した。

「距離300!」

緊張が走る。

「第一、第二、第三艦隊は並列陣形をとれ!!」

「第一、第二、第三艦隊!並列陣形!!」

復唱と共に、艦隊の陣形が変わり始める。

「距離200!」

「砲撃まだマテ!!」

「砲撃まだマテ!!砲撃まだマテ!!」

疾る気持ちを司令官が押さえつける。呼吸だけが荒くなる。

「潜水艦隊は大回頭!目標を包囲!!」

「ピピピピーピー」

通信機の音が聞こえる。

「目標を150まで接近!」

「目標を150まで接近!!」

リデルは、自分がゴクリ、と喉を鳴らした音だけが聞こえた気がした。

「距離150!射程圏到達!!」

「全鑑一斉砲撃ウテ!!」

「全鑑一斉砲撃ウテ!!」

凄まじい爆音と共に水煙が天を衝く。

「オオオオラアアア!!!」

マリアとリデルも鑑銃をリバイアサンに向けて放つ。

「メルビレイ!!今日こそは!!」

指令も海を睨みつける。

「撃ち方やめ!!」

「撃ち方やめ!!」

「奴はどうなった!?」

全員が固唾を飲む。

「目標は海中に退避!潜水艦隊が包囲してます!!」

「ヨシ!!水中戦一斉砲撃!艦隊は大回頭し縦列陣形をとれ!!」

「水中戦一斉砲撃!艦隊は大回頭し縦列陣形!!」

海の中に雷が轟く。魔戦連合艦隊は海中と海上でリバイアサンを包囲した。

「顔を出せ!メルビレイ!!ここがお前の墓場だ!!」

リザール指令も勝利を感じ始めた。

「バオオオオオオオンッッッ!!!!」

けたたましい水しぶきを揚げ、巨大な山が海から顔を出した。おぞましい程の巨眼がこちらを睨む。

「一斉砲撃!討ち取れ!!!」

「一斉砲撃!一斉砲撃!」

「ガゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!」

海上と海中からの一斉攻撃だった。余りの轟音に、リデルは耳を抑えた。

「やったか!?」

勝利を期待し、リザール指令は身を乗り出した。爆炎の向こうでリバイアサンが腹を見せている。誰もがそう思った。しかし・・・・

「第一艦隊、第二艦隊、壊滅!!」

「なっ!?何が起きた!?」

指令は啞然とした。

「目標!反撃しています!!」

「この火力でか!?怯むな!ウテ!!」

「テェ!!」

今度はリデルも鑑銃を撃つ。爆炎がリバイアサンの姿をくらませる。

「奴は!?」

「目標!海中に移動!!潜水艦隊を攻撃しています!!」

海中が黒く濁った。

「ガアオオオオオオオオッッッ!!!!」

リバイアサンはまた海上へ現れ、艦隊を噛み砕く。

「第三、第四艦隊、被害甚大!!」

「何て事だ!!このままでは・・・」

「第三艦隊、壊滅!!」

巨大な海の主が、怒り狂っていた。リバイアサンの方こそ、太古の生き残りだという事を思い知らされた。

人間は神の怒りに触れてしまったのだ。最早、戦意を持つ者など、いるのだろうか?

「止むを得ん!全鑑退避!!」

「全鑑退避!!全鑑退避!!」

「くううぅ!!こんな事になろうとは・・・」

「第四艦隊・・・壊滅・・・」

追い打ちをかける様に、犠牲者がまた増えた。リザール指令は、顔を上げる事も出来なくなっていた。

「あああああん!!!あああああん!!」

無残に散らばった艦隊の残骸を目の当たりにし、激しく泣くレジーナをリデルは抱き寄せていた。僅かに残った数鑑だけが、ユラユラと虚しく帰還した。




数日後、緊急の会議が行われた。誰も、リザール指令を責める者などいなかった。誰が指令をやっていても、結果は変わらなかっただろう。むしろ、リザール指令はよく帰還したと労われていた。それ程までに、人間とリバイアサンの力の差は圧倒的だった。今の人類の火力では、まるで刃が立たないのだ。

「これからどうするか・・・・」

重い、空気がのしかかる。誰も意見など出来ないのだ。あの神の怒りを目の当たりにしては・・・

このままリバイアサンを放置しておけば、どうなるのだろうか?そんな考えしか浮かばない。

「何か、良い案は・・・」

ため息だけが、会議室に重なる。時計の針の音が会議室の沈黙を和らげる。

「あの~提案がありマス・・・」

おずおずと手を挙げたのはアルサムだ。

「君は・・・モーゼの・・・」

皆がアルサムに注目した。

「ワタシ、傭兵ですけど、発言シテモ・・・」

アルサムは気が引ける様だ。

「あ・・・ああ!構わんよ?是非、聞かせてくれ。」

議長はワラをも掴む表情だ。

「私の宗教の教えに、モーゼの杖というのがあります。海を割った伝説の・・・」

「ああ、知っているぞ?君達の鑑の名の由来だ。」

アルサムは続ける。

「モーゼの杖が祀られている祠がこの国にあります。私たち神職者にしか立ち入りは許されてまセンガ。」

「モーゼの杖か・・・」

議長は考え込んでいる・・・

「もちろん、神職者にしか杖は扱えません。どうでしょう?私たちが祠へ行き、リバイアサンがいる海を割るといウノハ?」

「しかし、そんな事が出来るのだろうか・・・」

議長は煙に巻かれている表情だ。

「神を信じてクダサイ。さすれば道は開かれマス。」

「・・・分かった・・・君を信じよう・・・やってみてくれ。」

最早、神頼み位しか手立ては無かった。しかし、可能性はゼロでは無い。

「モーゼの杖を入手し、生き残った鑑をモーゼの護衛艦に・・・」

「お待ちください!」

議長を遮ったのは、リザール艦長だ。艦長は起立し、背筋を伸ばしている。

「残存戦力は、この国の防衛に回して下さい。我々は単独で作戦を遂行致します。」

リデル、マリア、アルサム、レジーナの4人は、笑顔で頷いた。

「・・・・すまん・・・・もう・・・・何もしてやれん・・・・この国には、もう何も・・・・」

議長は顔を覆う。

「駆逐艦モーゼ、艦長、以下クルー、作戦遂行の為、退室します。」

「リザール君!!」

議長が立ち上がり、艦長を呼び止めた。

「決して、死のうなどと思うなよ・・・」

「・・・・失礼します。」

5人は会議室を出た。




「見たか?さっきの艦長、チョーかっこよかったぜ!しかし、アルサム、お前やるじゃねーか!」

「マア、私も男デスカラ?」

このアルサムが鍵を握っている。皆、アルサムに期待を寄せた。一行はモーゼの艦長室に向かった。

「皆、かけてくれ。フー、やはり、私はここが一番落ち着くよ。駆逐艦モーゼという響きも言い慣れているしな。して、アルサム、モーゼの杖があるという場所はどこだ?」

アルサムが地図をなぞる。

「リバイアサンのいた海の北に、サイラン島がありマス。杖はそこに祀られていマス。」

「なるほど、サイラン島か。メルビレイのいる海は危険だ。避けて行こう。アルサム、良く発言してくれたな。何か欲しい物はあるか?」

艦長直々のご褒美の話だ

「ワタシが欲しいのは信者デース。信者が増えれば、お布施ガッポリデース。ここでいい所を見せれば・・・・」

「信者か・・・それは、私にはどうしようもできんな。」

艦長は笑う。

「何だ、やっぱりお前、金の亡者だなー。」

マリアも笑う。

「アルサムさんは、亡者ですから!」

レジーナも笑う。

「あはははは!!」

久しぶりにモーゼに笑いが戻った。リデルは暖かいモーゼの空気が居心地良かった。

一行はリバイアサンのいる場所を避けて、グルデンの街から北上、遥か遠くにリバイアサンの影が見えた。

「待ってろよ・・・必ず仕留めてやるからな・・・」

マリアは海風に誓っていた。駆逐艦モーゼは、サイラン島に到着した。サイラン島は未だ未開の地で、生い茂る樹木が4人の行く手を阻む。神が住まう地というのも頷ける。

「ありマシタ!あれデスネ!!」

4人の目の前には、地下へ続く祠が現れた。

「ワタシもここに来るのははじめてデース。神よ、足を踏み入れる事をお許しクダサイ。」

一行は祠へと進んだ。入り口には、固い扉が待ち構える。

「神よ!神よ!崇め奉る御子達に加護を与え給え!アギル・レディナ・プレウス・・・」

「・・・・・・・」

「んん?」

「何も起きませんね・・・」

皆、不思議そうに扉とアルサムを見る。

「・・・金儲けの事は、もう考えまセンカラ!!」

「ゴゴゴゴゴゴゴ・・・」

扉が開いた。やはり、神様は見ているようだ・・・一行は、さらに奥へと進む。気が付くと、アルサムは後ろの方で立ち止まっている。

「アルサム、どうした?」

マリアが声をかける。

「ココ、出るんデスヨネー・・・お化けが・・・」

「アッ!アルサムさん!私の後ろに隠れないで下さい!私はリデルさんの後ろに隠れます!キャッ!リデルさん!コワイ!」

「お前ら!何だその茶番は!ヨシ!俺だって!キャッ!リデル!俺を守れ!!」

結局リデルは、両腕、背中を抱き掴まれて歩く。歩きにくい事この上ない。しばらく歩くと、祭壇にたどり着いた。

「ここからは、神の聖域です。ワタシが行きマス。」

アルサムは祭壇の前で膝を付き、十字を切った。祭壇には、モーゼの杖が祀られている。

「神様・・・少し、お借りシマぶえーっくしょい!!!」

ホコリまみれの杖を手にし、アルサムは、あろうことか御神体に、クシャミをかけまくった!

「ギャアアアアア!」

その時、後ろにゴースト達が現れた。

「バチだぞ!お前、絶対これバチだぞ!!」

「ワタシのせいじゃ、ありまセーン!」

「仕方ないですね!」

マリアは、槍で突いた!

リデルは、剣で斬り払った!

レジーナは、斧を振り下ろした!

ゴースト達を退治した!

「ふー!何とかなったな!じゃあ、帰るか。」

4人は出口へ向かった。またアルサムは最後尾にいる。

「あれ?アルサム・・・さっきの戦闘、参加してなかったな・・・」

「ハハーン?神の使いであるこのワタシに労働をしろと?いいのかなー?ヘソ曲げよカナー?モーゼの杖、使えなくなるケドナー?ナハハハーン?」

「ぐっ・・・コイツ・・・」

「ゴゴゴゴゴゴゴ・・・」

扉が閉まった。

「アッ!アルサムさんが!」

レジーナの声に振り返ると、アルサムだけ祠に閉じ込められていた。扉の向こうでアルサムは何やら叫んでいる。

「カッ、神様!さっきのウソ!ジョーク!タンマタンマ!真面目にやるカラ!ちゃんとするカラ!」

扉は10㎝上がった。

「お布施もスル!」

扉はもう10㎝上がった。

「ミッ!ミナサン!ちょっとそこで待っててクダサイ!」

扉のスキマから、アルサムの口が悲しくパクパクしている。

「ギャハハ、いー気味だぜ!」

マリアは、アルサムの口を指差して笑う。

「お布施、3000ベルム!」

扉は3㎝上がる。

「クッ!5000!」

扉は2㎝上がる。

「クソガ!!8000!!」

扉は2㎝上がる。

「持ってけドロボウ!!10000!!」

扉は2㎝上がる。

「やってらんネエ!!ワタシ、金無い!!」

扉は5㎝下がる。

「この祠の掃除、手入れもスル!!」

扉は10㎝上がる。

「オーイ、交渉はまだかよー?男なら太っ腹見せろー?」

「アルサムさん!もっと頑張って!!」

いつの間にか、競りにかけられた男の意地が交錯する。

「この祠を宣伝して、参拝客を増やす!」

扉は10㎝上がる。

「周囲の草刈り、ゴミ拾い、危険な野獣の移送もスル!」

扉は5㎝上がる。

「アーモウ!!ワタシがこの祠の責任者にナッテ、これから面倒ミマス!!」

「ゴゴゴゴゴゴゴ」

扉は全部開いた。

「ゼエ・・・ゼエ・・・」

「やったな!アルサム!!晴れて責任者様だ!!」

「おめでとうございます!アルサムさん!!」

リデルはアルサムを不憫に思ったが、少し笑っていた。

「これがバチでしタネ・・・ワタシは帰ったらこの杖の手入れをシマス・・・作戦は明日で良いデスカ?」

「ああ、そうだな・・・そうしよう!じゃあ、戻るか!」

「はい!」

一行は、本部に戻った。




次の日・・・

「皆、準備は良いか?」

艦長は確認する。4人は頷いた。

「よし、では、レジーナ。号令を頼む。」

「えっ!?私!?・・・オホン・・・では・・・駆逐艦モーゼ!全速前進です!!」

「アイ・サー、レジーナ!全速前進!!」

クルー達も楽しそうだ。

「目標!リバイアサン・メルビレイ!さあ!今日は無礼講だ!我々だけで奴をぶっ飛ばしに行くぞ!!」

「オー!!!」

モーゼが一丸となる。艦長は景気付けに汽笛を鳴らした。

「ブォブォブォブォボオオー!!!」

グルデンの港では、気が付くと議長や将たちが敬礼していた。

「よーし!大事なリベンジマッチだぜ!」

「今度は私がリデルさんをお守りします!」

「ワタシにお任せクダサーイ。」

皆、本当に頼もしくなった。リデルは決戦の時を待つ。モーゼは潮をかき分け、グングン前進する。

「目標を確認!距離、500!」

アルサムが身を乗り出した。

「距離、300マデ接近して、止めてクダサイ!」

「了解!距離300で停鑑!」

波しぶきだけが聞こえる。

「距離300!停鑑します!」

「皆サン、甲板に行きましょう!モーゼのクルーは本艦で待機!」

「あ・・・ああ・・・頼んだ・・・」

いつの間にかアルサムに指揮権を奪われた艦長は、目を丸くしていた・・・





一行は、モーゼの甲板に上がった。海鳥が鳴き、空は青く輝き、大きな雲が彩を添えていた。目を下げると、憎き黒い塊が居座っていた。

「アルサム・・・頼む・・・」

アルサムはモーゼの杖を天に掲げ、涙を流した・・・

「ワタシ・・・貯金、全部、お布施して来ました。これでご利益無かったら、神様もう信じマセン・・・」

皆、ゴクリと頷いた。

「神よ!古の神よ!!荒れる海の魔神を封ずるお力を!!今一度この海を割かち給え!!」

にわかに、海は静寂した・・・・

「モーゼ・・・お前の力・・・見せてやれ・・・」

マリアは、モーゼの船体にキスをした。

「サアアアアアアア・・・・」

空気が躍動し始めた。白い雲が色を塗り替え、天を覆う。稲妻がリバイアサンを指差し、風が黒い塊へと集まる。モーゼの船首から、潮の流れが左右に別れた。

「来るぞ・・・・・」

「ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・」

暴風が吹き荒れ、海が割れ始めた!割れた海は二つの大きな滝を巻き込み、さらに拡がる!

「行きマショウ!皆さん!割れる海に続くのデス!!」

「ああ!!皆、走れ!!」

4人はモーゼから降り、海底を走る!リバイアサンに向けて海は割れていく!!

「出やがった!!」

「ギャアアアアア!!!!」

足を封じられたリバイアサンは、海底でのたうち回っている!その巨体は、まるで建築物だ!

「何てデカさだよ・・・」

リバイアサンの目前で足を止めた一行は、驚愕していた。リバイアサンは、もがきながらも4人を飲み込もうと巨大な口を開けた。

「ガアオオオオオオオオッッッ!!!!」

4人の目の前に、剥き出しの歯が襲う!

「お前、先住民なんだってな。でもな、これで終わりだ・・・」

マリアは、リバイアサンの口の中に、海風の槍を放った!空を彷徨う稲妻が槍に集まる!!

「バリバリバリバリ!!!!!」

「ウギャアアアアアアアッッッ!!!!」

リバイアサンの体の中を、稲妻が駆け巡る!空を仰いだリバイアサンは、そのまま息絶えた。

「これで・・・犠牲になった皆が・・・・」

リバイアサンの体から、大量の魂が空に還る。そして、リバイアサンの体は空に浮かび上がり、風に吹かれて消えた・・・・

「やったんだな!俺達!」

消えたリバイアサンが飲み込んだ、大量の財宝が、アルサムに降り注いだ。

「カミサマー!!カミサマー!!」

アルサムは泣いて喜んだ!

「リデルさーん!うわーん!!」

レジーナはリデルに飛び乗った。

「ヨシ!これで回収完了デス!」

眩しく白い歯を見せたアルサムは親指を立てた。

「ヤベエ!海が戻り始めてんぞ!戻ろうぜ!!ハハハハハハハハ!!」

「ハハハハハハハハ!!」

嬉しくてたまらない4人は、走ってモーゼに戻った!

「大金星だ!!凄いぞ!!」

拍手で迎えられた4人は両手を挙げた。海はまた穏やかになり、黒い塊はもう、どこにも無い。

「帰ろうぜ!俺達の港に!!」

モーゼは、いたずらに汽笛を鳴らして帰還していた・・・




モーゼはグルデンの港に寄港した。港には観衆が押し寄せ、報道陣のカメラが眩しい。空は星が出始めていた。花火が打ちあがり、モーゼとグルデンを照らす。

「綺麗・・・」

モーゼのクルー達も空を見上げた。

「議長、粋な計らいですな!」

将たちも空を見上げる。

「何もしてやれんと言ったが、これくらいはな!」

皆、拍手でクルー達を迎える。

「良くやってくれたな!これからパーティーだ!その前に、ヒーローインタビューでも受けとくか!?」

4人は報道陣とモーゼの間に挟まれ、激しくフラッシュをたかれた。

「絵になるもんだ・・・ワシも若い頃は・・・」

議長は呟いていた。

「皆さん。こんばんは・・・」

マリアが挨拶すると、歓声が上がる。また、フラッシュが光る。4人はその光景に、顔をほころばせた。

マリアが発言しようとした時だった・・・

「ゴゴゴゴ・・・・」

地面が揺れ始めた。

「ん?何だ?地震か?」

「ガガガガガガガガガ!!!」

「オイ!大きいぞ!皆、避難しろ!!」

「ドガンドガンドガン!!!!!」

大地を突き上げる程の地震が国土を襲う。建物は倒壊し、悲鳴が上がり、地獄さながらの光景だった。

しばらくすると揺れは収まったが、至る所で、煙が上がっていた。もう、祝うどころの話じゃない。

「要救助者を探せ!!一刻も早くだ!!」

「消防隊を要請しろ!!鎮火しなくては!!」

民衆は散りじりになり、グルデンの街を走り回る。雨が降ってきた。

「うわーん!おとうさーん!おかあさーん!」

倒壊した家屋のそばで、小さな少年が泣いている。4人は、打ち付ける雨に晒されながら、その少年を見ている事しか出来なかった。

「救助を手伝うんだ!!」

艦長に目を覚まされ、モーゼのクルー達も一緒に救助に走った。そして、悲惨な夜が終わった・・・




夜が明けると街の被害が露わになった。火災の拡大は防げたものの、まだ燻り煙を上げているヵ所もある。

「後は、救助隊の任せよう・・・」

4人、艦長、モーゼのクルー達は、夜通しの救助活動で疲弊し、目の下に、くまが出来ていた。

「君達は無事だったか・・・」

議長もボロボロになりながら近寄ってきた。

「今晩、緊急会議だ。集まってくれ・・・くそ・・・こうも立て続けに・・・」

皆、夜まで仮眠を取り、会議室に集まった。

「皆、大変な時に集まってくれて礼を言う・・・」

4人、艦長、クルー達が着席していた。今回の会議は欠席も認められていた。会議室は、陰鬱な空気が充満している。

「今回の大地震は一体どういう事だ?過去にこんな事例はないぞ?」

議長もまだ、全容を把握しきれていない。

「この国土の地下のプレートに継ぎ目は無く、地震の事例が無いのだ・・・なぜ、こんな事になったのか・・・」

また、会議室が重く沈黙する。

「失礼します。報告します。」

今回の地震の調査隊が現れた。

「発言をお許し下さい。現在、リルクル島の北に新たな島が浮上しました。」

調査隊はホワイトボードに、新たな島の写真を貼り出した。

「この島の出現の際、地震を引き起こしたものと考えられます。そして、これをご覧下さい。」

調査隊は二枚目の写真を、貼り出した。

「新たな島の中心部に、宮殿が見えます。」

「何だこれは・・・・」

議長は不思議そうに写真を覗き込む。

「何者かが、この宮殿に居座っているものと推測されます。」

「・・・誰か、何か知っている者はおらぬか?」

また、会議室が静寂し始めた時、

「これは!!」

大きな声を上げて席を立ったのは、アルサムだ。

「失礼。」

アルサムは、また着席する。

「おお、君は・・・知っているなら、発言してくれたまえ。」

議長は期待を寄せた。

「宗教の古い文献で、見た事がアリマス。しばらく気づきませんでしタガ・・・この宮殿は、海神ポセイドンの宮殿デス。」

会議室がざわめいた。

「海神ポセイドン!?聞いた事はあるが・・・」

「ポセイドンは、大地を揺るがし、大津波を引き起こし、天候を大荒れにし、火山までも噴火サセマス。

文献デハ、絶対に怒りに触れてはいけないと書かれてイマス・・・」

「また、とんでもないのが・・・」

議長は頭を抱えた。

「もしかすると・・・リバイアサンはポセイドンの右腕だったのかもシレマセン・・・そうすると・・・我々は完全にポセイドンを怒らせてしまった様デスネ・・・」

「神の怒りを鎮めてもうらうしか、方法はないのか・・・」

「イエ・・・残念な事に・・・ポセイドンとて、魔王軍の手の者デス。彼らは、人類の敵デスカラ・・・

放っておけば、最悪の事態ニ・・・」

「我々にどうしろというのだ・・・もう・・・白旗を挙げる位しか・・・」

議長の最悪の手段に、異を唱える者も現れない。会議室が、この国が、諦めかけた時、

「我々が行きます。」

議長が顔を上げた。

「我々が討伐に向かいます。」

リザール艦長が、立ち上がった。

「・・・リザール君、正気かね?死ぬぞ。何か策でも・・・」

「策など何もありません!私は、仕事以上に、この国を、この海を愛しています!魔王軍に征服される位なら、私は、死にに行きます!」

「死ににいくなど!そんな事は、許可できん!!」

「ならば私は、海兵を辞め、戦いを挑みます!!」

「・・・・・・」

議長も将たちも空いた口が塞がらない・・・・

「・・・プッ!プププッ!!艦長!その言葉、待ってたぜ!!アッハッハッハ!!!」

マリアが笑い始めた。

「ハハハハハハハハ!!!」

モーゼのクルー達も大笑いする。

「ハ・・・ハハハッ・・・」

議長も呆れて笑った。

「負けたよリザール君・・・好きにしれくれたら良い・・・・私は、もう君達には頭が上がらないよ。」

艦長も、ニッ!と笑う。

「我々海兵隊は、これからこの国の復興に尽くさねばならん。君達モーゼは、別行動をとってくれたまえ。

苦難を強いる様だが、せめて、奇跡が起きる様祈らせて貰うよ・・・」

「お任せ下さい!」

「うむ。全て、君達に任せよう。さて・・・我々は、復興の案を練るとしよう。モーゼの諸君は、退室してくれたまえ。」

「は!失礼します。」

モーゼのクルー達はぞろぞろと退室した。

「皆!無理しなくても良いんだぞ!どうするかは君達の自由だ!」

艦長は皆にそう伝える。

「自由?だから皆、モーゼに向かってるんですよ!」

マリアが皆の気持ちを答える。

「ハッ、ハハハハハハ!!!君達も、変人の集まりだな!!」

「艦長程ではありませんよ!!」

「ハハハハハハハハ!!」

クルー達の笑い声が、本部に響き渡った。




「モーゼ、主電源入ります。」

モーゼに明りが灯った。何故か、久しぶりな気がした。

「思えば、モーゼとは、長い付き合いになるな。」

艦長は懐かしむ。皆、モーゼのブリッジにいた。愛すべき心臓部だ。

「さて、困ったな・・・これからどうするか・・・」

「本当に何の策も無いんですね。艦長らしいぜ。」

艦長の肩は揺れている。

「ンモーウ!結局、ワタシがいないと始まらないんダカラー。ンハハーン?」

「何だ?アルサム。何かあるんなら早く言えよー。」

「シッ!!この神の使いに向かって!・・・オット、また、バチが・・・。良い話と、悪い話がアリマース。どちらカラ?」

「では、悪い方の話からしてもらおうか・・・」

クルー達もアルサムに注目している。

「先ず、今の私たちデハ、全く、何がアッテモ、どう転んでモ、逆立ちシテモ、ポセイドンには、勝ち目がアリマセン。」

「・・・・・・・」

モーゼが沈黙する。

「泣いても笑ってモ、雨が降ってモ槍が降ってモ、煮ても焼いてモ、寝ても覚めてモ、生まれ変わってモ、バンザイしてモ、歌ってモ踊ってモ、腹を切ってモ、反省してモ、頭を丸めても、誠に遺憾してモ、・・・ゼエ、ゼエ・・正装してモ、呪いをかけてモ電話をかけてモ、イメチェンしてモ、出前をとっても、懐かしの曲をかけてモ、誰かのモノマネを・・・」

「もーいーわ!!」

マリアがストップをかける。

「それ位勝ち目はアリマセン・・・」

「良い話をしてもらおうか・・・」

艦長もヤキモキしている。

「皆サン、クロノサウルスを覚えてイマスカ?」

「あ、ああ・・・産卵前に、討伐した・・・レジーナはまだその時はいなかったな。」

レジーナも首を縦に2回振る。

「そのクロノサウルスの巣から北の地に、神々の神剣、アスカロンが眠ってイマス。」

「神剣・・・アスカロン・・・」

「神職の中でも、特に位の高い者にしか近づく事を許されておらず、徹底した管理下の中、アスカロンは鎮められてイマス。」

「すげえ話だな・・・もしかして・・・その剣を・・・」

「エエ・・・世界の一大事です。使用の許可を頂きマシタ。」

「やるじゃねーか!アルサム!よく許可が下りたな!!」

「エエ・・・靴を舐めタリ・・・土下座シタリ・・・」

「・・・・すげえ話だな・・・」

アルサムの執念も相当なものだ。

「ワタシは神様にお宝の恩返しをしなくてはイケマセン。ワタシはサイラン島に教団の施設を建て、世界の信者をこの手ニ・・・ヒヒヒ・・・ポセイドンを排除シ・・・ヒッーヒッヒ!!!」

「・・・・お前が悪者になったら、アルサム討伐に行くからな。」

「オット、ワタシは聖職者デスヨ。ところで、マリアサン、アナタ、槍ハ・・・」

「ああ!メルビレイが消えた時コイツが降ってきてな!」

マリアは大海竜の槍を装備していた!

「コイツはすげえ槍だぜ・・・まあ、今はそんなに浮かれる気分でもないけどな。」

マリアは槍を大事そうにさする。

「デハ、アスカロンへは、最北端の地から上陸するのがベストでショウ。最北端には、レザイアという漁村がありましたガ・・・艦長サン、この流れでどうでショウ?」

「うむ!またひとつ希望が見えて来たな!ではモーゼは最北の地、レザイアに進路をとる!」

「了解!」

モーゼは、わずかな希望を乗せて出航した。




モーゼは、漁村レザイアに到着した。遠目から見ても、レザイアも深刻な被害を受けていた。クルーはレザイアの街を見て回っていた。漁をする為の船は二つに折れて転覆し、村民の家屋は倒壊していた。

「ここも・・・ひどいな・・・」

マリアはその場に立ち尽くす。

「あんたらあ、海兵かあ?」

瓦礫の傍にいた男性が声をかけてきた。

「こんな村に何しに来たあ?」

男性の姿は痛々しい。

「いや・・・我々は、ポセイドンと戦う準備を・・・」

艦長は力無く答える。

「はあ?やめとけやめとけえ、あんなのに勝てるわけねえ。命の無駄遣いだあ。この村さ、見て見ろ。

もう、どうにもなんねえ。」

そう言うと、男性は立ち去った。

「・・・先を急ごう。」

一行は、レザイアの出口まで来た。

「では、共に出来るのはここまでだ。アスカロンは頼んだぞ。」

モーゼのクルー達は4人を見送る。

「我々は最後の戦いに向けてモーゼの装甲を強化しておく、楽しみにしておいてくれ。」

艦長はそう言った。

「了解しました。」

マリアは敬礼し、4人はレザイアの村を後にした。一行はレザイアを南下、その道中、

「モーゼを改装かー楽しみだぜー。」

マリアは嬉しそうだ。

「マリアサンは本当にモーゼが好きなんデスネ。マリアサンは、なぜ海兵ニ?」

アルサムは尋ねる。

「俺は戦艦マニアでなー。小さい頃から軍事演習とか、よく見に行ってたんだ。他の女の子は人形とかで遊んでんのによ。その頃はよく、ぬいぐるみなんかを爆破してたなー。」

「スゴイ女の子デスネ・・・」

「海兵に志願して、戦艦乗りになって前線で戦いたいって言っても、どの鑑も女の俺は敬遠してたしな。

でも、モーゼの艦長は俺を招き入れてくれたんだ。本当に嬉しかったぜ。」

マリアは笑っている。

「アルサムは、どうして神父になったんだ?」

今度は逆にマリアがアルサムに尋ねた。

「アア・・・ワタシの故郷はモンスター達に全滅させられマシタ・・・両親を無くした子供たちを引き取りタクテ、教会を建てる事を夢見たんデス。子供達は皆、神の子デスカラ。」

「アルサム!お前は立派だな!何なら、キス位してやってもいーぜ!」

「オー!ケガれてシマイマス!」

マリアは唇を突き出しアルサムを追いかけ回した。

「あっ!皆さん、祠が見えて来ました!」

レジーナが指差した。

「アア、あの祠デス。ウプウッ!!」

唇を突き出したマリアがアルサムに突撃した。

「オエエエッ!!オエエエッ!!」

四つん這いになって、えずく、アルサムを見てマリアは、

「ふー、奪ってやったぜ、目標、撃破だな!」

と、清々しい顔をしていた。やはりマリアは魔物だった。




一行はアスカロンの眠る祠へと到着した。祠には、常に見張りが常駐し、宝剣として崇められているのが容易に窺えた。

「む。待っていたぞ。ついて来られるが良い。」

常駐は案内してくれた。

「ポセイドンと戦おうなどと言う者は、最早、君達だけだ。だが、絶対に、絶対に返してくれよ。約束だぞ。武運は祈るが、絶対に返すんだぞ。」

常駐は何度も釘を刺す。

「よっぽどの宝剣なんだな。拝借できるのも全部アルサムのお陰だな。」

マリアはアルサムを持ち上げた。

「・・・・フン。」

アルサムは先程のマリアの突撃キスをまだ、ハブてていた。

「何だアルサム。そんな態度とるんなら・・・」

そう言って、マリアは唇を尖らせた。

「ヒッ!リデルサン!あの口、ヤメサセテッ!」

アルサムはリデルに助けを求めたが、リデルはニヤニヤと笑っていた。

「さあ、着いたぞ。」

常駐は祭壇の前で立ち止まった。アスカロンには黒い布が掛けられ、厳かに祀られている。

「そこで、待たれよ。」

常駐は祭壇に登り、黒い布を取り払った。4人は眩しさに目を覆った。

「何て輝きだ・・・これが、アスカロン・・・」

神々しく輝きを放つアスカロンは4人を照らした。

「さあ、リデルサン・・・ワタシには、手にする事もデキマセン。」

アルサムはリデルを促した。リデルは、ゆっくりと、祭壇を登った。そして、アスカロンを手に取った。

より一層、アスカロンが輝きを増す。来たるべき戦いの日を待っていたかの様に。アスカロンは驚く程、軽く、しなやかに、美しく、その刀身は、目を奪われる程、きらびやかだった。

「この世界を、託したぞ。」

常駐に囁かれ、リデルは首を縦に振った。アスカロンを鞘に納め、祭壇に背を向けた。

「行くがよい。」

常駐に見送られ、4人は祠を後にした。




一行はレザイアに帰路を取っていた。

「これでもうバッチリですね!百人力です!」

レジーナはピョンピョン跳ねて喜ぶ。

「ああ!後は、ポセイドンとの決戦だ!」

マリアは頷く。

「そうそう、アルサム、お前、俺の唇奪ったんだから、責任取れよ。」

マリアはアルサムにそう言う。

「ナッ!それはアナタが勝手に!!」

アルサムは目を見開いた。

「ハハーン?お前の偉いさんに吹いちゃおっかなー。ンハハンハーン?」

マリアの悪女ぶりが炸裂した。

「ふふっ。アルサムはカワイイ奴だぜ・・・これからも、たっぷり可愛がってやるぜ・・・」

「・・・・・」

アルサムは目を見開いたまま、下を向いて歩く。

「だから、皆、絶対に死ぬなよ・・・」

マリアなりの激励なのだろう。皆の表情が、少し変わる。レザイアが見えて来た。モーゼのクルー達は4人を待っていた。




「アスカロンを入手し、帰還致しました!」

マリアは艦長に敬礼する。

「うむ!ご苦労だった。我々も、モーゼの改装が終了した所だ。」

艦長は4人をモーゼに案内した。

「これが・・・モーゼ・・・」

モーゼは、多数の砲塔を搭載させ、逞しく、美しく、誇らしげに、その雄々しさを披露していた。

「凄え・・・これなら、誰にも負けやしねえ!」

マリアはグルグルとモーゼを見て回る。クルー達も、ドヤ顔だ。

「明日、朝10時、ポセイドンの地へ向かう。今日は、しっかり休んでおいてくれ。」

クルー達は、未来を祈り、夜を明かした。




夜が明けた。皆、モーゼのブリッジに集合した。モーゼのブリッジには見たことの無い様な最新鋭の機器が揃えられ、モーゼはまさに、超弩級艦号並みの風格を得ていた。

「皆、やり残した事は無いな・・・」

艦長が、確認をとる。

「新生モーゼは、これよりポセイドンの地へ向かう。」

何かを覚悟している艦長は、静かに口を動かす。

「・・・・・・」

クルー達も、神妙な顔をしている。

「先に言わせてくれ・・・皆、着いて来てくれて、ありがとう・・・しかし、この勝負は、特攻では無い。

負ける事を前提としている訳では無い。」

艦長は、ブリッジから、空を見上げた。

「・・・パチ、パチ、パチ、パチ・・・」

一人のクルーがゆっくり拍手をした。この拍手は、意味が分からない。しかし、

「パチパチ、パチパチ・・・」

手を叩く者が増えた。

「パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!」

モーゼのブリッジが拍手で包まれた。4人も拍手した。

「では、モーゼ・・・出発。」

「了解・・・モーゼ、発進。」

モーゼが、ゆっくりと動き始める。

「ボオオー!!ボオオー!!」

モーゼの汽笛が、グルデンの港に吠えた。それは、別れを告げる様にも聞こえた。誰も、モーゼを見送る者などいない。当然だ。皆、復興でそんな暇など無い。

「モーゼ、ポセイドンの地へ現在航行中。」

クルーの声が、もう後戻りできない事を告げた。

「私、リデルさんと一緒なら・・・どこへでも行きます・・・」

レジーナがリデルの背中を強く掴んだ。その表情は、決意に満ちている。あの、泣き虫だったレジーナは、もうどこへも居なかった。

「皆!!帰ったら、鍋でもつつこうぜ!!」

マリアがふいに叫んだ。

「・・・そうだな・・・そうしよう!!」

クルーの一人が返事をした。

「良い肉を入れて、贅沢にしようぜ!!」

他のクルーもまた、返事をした。

「・・・うむ!モーゼは勝利の後、鍋に向かって突撃体制!総員は空腹命令!!」

艦長は一際、大きな声を出した。

「了解!ハッハッハッハッ!!」

マリアの一言が、空気を変えた。モーゼは、またいつもの元気を取り戻した。遥か前方に、ポセイドンの島が待ち構えていた。





「ポセイドンの島を確認!距離1000!」

「全速前進!主砲発射段取!」

「モーゼ、全速前進。主砲発射段取急げ。」

モーゼが戦闘態勢に入った。ブリッジに緊張が走る。

「距離900。敵影出現。」

「長距離対魔砲撃ウテ!!」

「長撃、テエ!!」

モーゼに砲撃の衝撃が走る。

「敵影、消滅。距離、800!」

「右舷三時、敵影接近!」

「旋回砲塔照準アワセ!!」

「旋回砲塔照準アワセ。・・・・補足!」

「ッテェ!!」

「旋回砲、テエ!!」

「右舷敵影消滅!距離、700!!」

「水中に敵影出現六時!!」

「投下水雷、ハナテ!!」

「水雷ハナテ!!・・・・起爆!!」

「下方敵影消滅!!モーゼ被弾!!右舷水平装甲、亀裂発生!!」

「構わん!!このまま全速前進!!」

「全速継続!距離600!!」

「モーゼ攻撃を受けています!!右舷側水平部裂開!!浸水深刻!!」

「排水作業!!」

「排水作業急げ!!」

「前方、敵影多数!!距離500!!主砲、準備完了!!」

「・・・ポセイドン!!人間のしぶとさ、見せてやるぞ!モーゼ、主砲発射!!!」

「主砲発射!!!」

「・・・・・前方敵影、全て消滅!!距離400!!!主砲再装填急げ!!!」

「モーゼ、左舷側損壊!!操舵不能!!」

「構わん!!このまま突っ込め!!何としても接岸させろ!!」

「駆動系問題発生!!速力低下!!距離300!!!前方敵影接近!!」

「徹甲榴弾砲撃!!!」

「甲榴弾、テエエー!!!」

「敵影消滅!!距離200!!!」

「機関室、火災発生!!!鎮火作業急げ!!!」

「上部砲塔大破!!!艦首装甲板全壊!!!浸水による電圧低下!!!」

「予備電源に切り替えろ!!!電圧回復急げ!!!」

「駆動系全損!!!航行不能!!!距離100!!!」

「このまま惰力で接岸しろ!!!手動で推進駆動、動かせ!!!」

「モーゼ火災拡大!!!浮力維持不能!!!」

「敵影、さらに接近!!!」

「白兵隊雷撃応戦!!!必ず接岸しろ!!!」

「モーゼ沈黙!!!距離50!!!」

「白兵隊、重傷者続出!!!依然交戦中!!!距離30!!!」

「手動で電圧回復成功!!!最後に主砲、撃てます!!!」

「主砲テエエエー!!!」

「敵影消滅!!!モーゼ完全に沈黙!!!距離10!!・・・接岸到達!!!モーゼ、火災、浸水被害甚大!!!クルーは全員、鎮圧作業に入ります!!」

「君達!!我々はモーゼの修繕に当たる!!後は、頼む!!」

艦長は直ぐに身を翻した。

「ありがとうな!モーゼ!!皆、行くぜ!!」

マリアはモーゼに礼を言った。4人はポセイドンの島に上陸した。

「ウ~!!カンカンカンカン!!」

サイレンが鳴る。煙を揚げるモーゼに背を向け、ポセイドンの宮殿に4人は走った。




「皆、走るんだ!」

マリアを先頭に島の中心部へ移動する。ポセイドンの宮殿が見えて来た。

「ポセイドン!出てこい!!」

宮殿の内部に侵入した4人は、大広間にたどり着いた。そこに、ポセイドンが玉座に鎮座していた。

「ヨク来タ・・・・」

ポセイドンは骨が剥き出しのデーモンだ。頭には冠が載っている。ポセイドンは、ゆっくりと立ち上がった。

「人間ハ、皆殺シ・・・」

ポセイドンは、右手で暗黒の波動を4人に向けた。4人は吹き飛ばされた!

「くっ!!負けられねえ!!」


マリアは、大海竜の槍を突き出した!巨大な海の主が辺りを噛み砕く!!

レジーナは、打ち首の斧に自らの血を染み込ませた!あらゆる呪詛を放つ呪神を降臨させた!!

アルサムは、黄金の十字架に祈りを捧げた!万能の神が奇跡の加護をもたらす!!

リデルは、神剣アスカロンを天に掲げた!眩しく輝く刀身が闇を打ち砕く!!


「人間の力、思い知りやがれ!!!」

「いけえええええ!!!」

「ゴガガガガガガ!!!」

「どうだ!?」

激しく舞い上がる砂煙に目を凝らす。

「人間ニシテハ、ヤル・・・」

「グアアアアアアン!!!!」

ポセイドンの脅威の一撃が4人を襲う!凄まじい暗黒の刃が、4人を瀕死にまで追いやった。

「ガハアッ!!た・・・てねえ・・・」

「ハア・・・ハア・・・ここまで来て・・・」

「神の力もここまでカ・・・」

しかし、リデルは一人、立ち上がった。

「へへ・・・リデル・・・後は、お前に託すぜ・・・」

「リデルさん・・・私達の、残った力で・・・お願い・・・」

「リデルサン・・・神は万人にお力を与えます・・・」

皆は残った力をリデルに託した。その想いは、神剣アスカロンの剣芯にまで届いた!


リデルは、皆の希望をアスカロンに集めた!アスカロンは暖かく輝き、この星を包み込んだ!!その輝きは地の底までも照らし、暗黒の力を打ち消した!!アスカロンは、太陽と月と星々の瞬きを呼び集め、この世界を白銀に染め上げる!!!

「クッ・・・忌々シイ光メ・・・」

リデルは、アスカロンを振り上げた!!その衝撃で大地が裂ける!!

「リデルー!!!!!!」


「ガギャアアアアアアア!!!!!」

ポセイドンは倒れた!!!

リデルは力尽き、気を失った。

「やった・・・やったぜ・・・やりやがったぜ!!」

皆が喜びの声を上げた時だった。

「グボッ・・・グボッ・・・」

倒れたポセイドンが血を吐きながら右手に黒い炎を集め始めた。立てる者はもういない。

「そんな・・・チクショウ・・・これまでか・・・」

「もう・・・だめ・・・うっうっ・・・」

「最後の刻デス・・・せめて、祈リヲ・・・」

迎え来る刹那の時を、皆は受け入れた。

「バガアァァァァァァン!!!!」

そこに現れたのは、大地の裂け目から突入して来た、ボロボロのモーゼだった。

「皆、死ぬ時は一緒だ!!全弾、使い切れ!!!」

「ドガドガアアァァァン!!!」

ポセイドンに向けて、モーゼの最後の叫びが轟いた!!そして、モーゼは力尽きた・・・

爆炎が消え去り、ポセイドンは絶命していた。

「モーゼ・・・ウッウッウッ・・・」

マリアはモーゼの雄姿を看取り、涙した・・・島が、崩れ始めた。リデルも目を覚まし、立ち上がった。

島は、徐々にその面積を小さくしていく・・・

「私は、皆と、同じ時を過ごせて、幸せだった!!」

リザール艦長は、皆に敬礼をした。

「私達も、ご一緒出来て、光栄でした!!」

モーゼのクルー達も、艦長に敬礼をした。

「・・・・・・」

崩れ行く島の中、皆、敬礼をしていた。

「敬礼直れ!!」

艦長は、海を見た。

「私は、最後の時まで、この海を見ていたいのだ・・・」

崩れ落ちて行く島の中、海だけは、穏やかで、緩やかに波を運んでいた。クルー達も、海を見ている。

「・・・・・・」

ゆっくりと、島が崩れ落ちる。しかし、誰も動こうとしない。この、モーゼの皆と最後まで一緒にいたかった。色んな事があった。皆、微笑んで、それを思い出していた・・・・


「・・・ォー」

何だ?

「ボォー・・・」

汽笛が聞こえた。

「ボオオー!!ボオオー!!」

数隻の艦隊が、目の前に見えた。

「この国の英雄達を、死なせてたまるか!!」

誰かが手を振っている・・・議長だ!将たちはボートを降ろす様に指示している。

「遅ぇんだよ!!来るのが!!」

マリアは手を振った。皆、ボートに乗り込み、島を振り返った。先まで自分達がいた場所は、もう沈んでいた。

「お前達!!!lrっ後wWPイッギwg、イオjtb-jbjtj4おt!!!うううう~!!」

議長はボロボロに泣いて艦長にしがみついた。・・・・・艦隊は、グルデンの港に向かった。




グルデンの港に近づくと、また、フラッシュがたかれた。

「ワシを撮れ!!ワシを撮れ!!これがしたかったんだよ!!」

議長は飛び跳ねた。将たちは笑う。

「んだよー!いいとこ取りしてんなー。」

マリアも議長を笑う。

「さあ!今度こそ、パーティーだ!!」

議長は意気込む。

「リザール君!良くやってくれた!!今回の活躍により、君は、正式に司令官昇進だ!!」

将たちとクルー達は拍手する。

「そして!戦艦モーゼを新造させる!!今度は、最新鋭の最新鋭だ!!」

議長は約束してくれた。

「モーゼ・・・・」

マリアは目を潤ませた。フラッシュの中を通り過ぎ、宴の間に通された。報道陣もなだれ込む。

「あ、あー。」

リザール艦長、いや、指令は、マイクテストをする。

「えー、今回の勝利の件は、そのー、何というかー、何というかー。」

以外にも話下手らしい。

「なのでーこの気持ちを、歌にします。」

拳のきいた曲が流れ始めた。

「出た!指令の十八番!!泪女房、未練坂!これで奥さんを落としたらしいぜ!!皆、気を付け!

静聴!」

激しくフラッシュをたかれながら、指令が拳を握って歌う。歌手みたいだ。

「泪アァァァァァァ泪のォォォォォォォ未練坂アァァァァァアァアァアァアァァァァァ・・・」

歓声が凄い。

「ヨッ!!男前!!」

「女泣かせ!!」

どこかで聞いた事のある褒め言葉だったが、リデルは、どうにもこのテの曲は苦手だった。しかし、

アルサムは、泣きながら拍手していた。リデルは、気分直しの為、コッソリ抜け出した。

グルデンの港は、潮風が心地良かった。リデルは、夜の海を見ていた・・・

「海は・・・いつも、変わらないですね・・・」

隣に来たのは、レジーナだ。

「私、絶対勝てないと思ってました・・・でも・・・リデルさんが、いてくれたから・・・」

「・・・・・」

リデルは、海を見ている。

「私、リデルさんが妹さんを探しているのは、知ってます・・・行ってしまうんですね・・・」

レジーナは、空を見上げた。

「でも・・・でも・・・リデルさんを、笑って見送れる程・・・私は・・・大人じゃありません!」

レジーナは、ポロポロと涙を流す。

「エヘヘ・・・また、泣いちゃいました・・・だけど・・・私は、大丈夫です・・・私は・・・

大人ですか・・・」

涙を流しながら笑顔を作るレジーナを、リデルはとても切なくて、レジーナにキスをした。

レジーナもリデルの体に腕を回す。

「んん・・・はあ・・・ん・・・・リデルさん・・・リデルさん・・・は、あ・・・んんっ・・・」

2人に残された時間が、一瞬だという事をレジーナは知り、また涙が溢れた。レジーナの涙が、リデルの頬に移り、二人の顔は、しっとりと濡れた。

「んん・・・リデルさん、私を・・・大人の・・・女にして・・・」

2人はそのまま、グルデンの夜の街に消えた・・・2人の残された時間がヒトヒラである程に燃え上がり、1つに溶け込んだ。レジーナは女の悦びを知り、また大人になる。2人の体温を確かめ合い、他人の汗の味を知り、体に吐息がかかった。やがて、レジーナは、夜明けを受け入れた。





「もう、いくんだな。」

ここはグルデンの駅だ。ここから北上し、レザイアの港から船出する。グルデンの街もすっかり復興が進み、見違えるようだ。

「俺とアルサムはサイラン島に新居でも構えるからよ・・・ねっ?アナタ?」

「・・・モウ・・・好きにしてクダサイ・・・」

アルサムの将来は順風満帆だ。

「ありがとうございました。リデルさん。出会えて本当に良かったです。私は一度、家に戻り、このまま傭兵を続けます。仕事はしないと。私も、もう大人ですからね。」

太陽の光を背に浴びたレジーナは、大人びて見えた。

「パアアアアン!」

列車が近付いて来た。別れの時が来る。扉一枚隔てて、境界線が出来上がる。

「じゃーなー!式には来いよー!」

「そーゆー事ナンデ、また会いマショウー!」

「リデルさんありがとう!さようならー!」

一瞬で、皆の声が聞こえなくなった。移り行く景色の隣で、リデルは今回の旅を日記に残した。

リデルは、列車の窓を開けた。潮風の香りがこの国の余韻を残した。妹はどこにいるのか?そして、この仕事が無くなる事は無い。新たな地へと列車は向かう。海が、輝いていた・・・。






                                         続く。


皆さん、どもども!リデル・ロイヤー第2弾!また、徹夜やっちゃいました!体しんどい・・・

私、レジーナみたいな子、大好きなんです!誰か、萌えてくれー。艦隊ものなんで、色々調べましたが、よくわかりませんでした。参考は、私が子供の時に見ていた、不思議の海のナディアです。リザール艦長が話すと、ネモ船長の声がします。そして、ノーチラス号。30年位前のアニメですけどね・・・

じゃあ、第3弾いきますよー。マリア、アルサム、レジーナ、モーゼ、クルー達、さようなら。私は新しい話書きます。しかし、後書きって楽だわ。神経使わない。では、また。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ