レマーの春 第3実働布教師団 その二
この物語はフィクションです。実在の人物、団体には一切関係ありません。
ニールは両手の平をオルゴに見せた。
「おいオルゴ、見てみろよ。少し小さいけど、見えなかないだろ」
手をオルゴの顔に近づける。オルゴは警戒しつつ覗き込む。パリパリ…。掌から赤く光る鉄が生成されていく。
「ほら!」
オルゴの顔の前に、その赤い鉄が飛ばされる。
「喰らえ」
瞬間、それは豪快に燃え出した。その焔はオルゴの顔を包み爆発的に火力を上げ、一瞬にして鎮火した。
オルゴの頭は黒焦げになり、その巨体はドタリと床に倒れた。一瞬何が起きたのか、理解できていなかった信徒たちも、この時にはニールを敵だと理解した。
各々の銃器を構える信徒。しかし、いつのまにかニールは赤い鉄を量産。信徒めがけてばらまいた。
「キス ザ ダスト」
それぞれの焔が繋がり、信徒たちは一瞬で火達磨。オルゴと違い、彼らは全身真っ黒に焦げ上がった。
「お前ら全員、5人以上の一般人を殺している殺人犯だ。仕事上、このデカブツは持ち帰るが、そのほかはここで処罰する…って、言うのが遅かったな」
ニールは令状の写しを信徒らの死体の上に投げた。オルゴをふん縛ると、乗客を見回した。頭が吹き飛んだ死体がひとつ。そのほかは助かったと、抱き合っている。いや、その死体に1人、すがりつく女がいる。ニールはその女性の肩を叩いた。
「すまない。助けられなかった…」
女は過呼吸になりながら啜り泣きしゃくり上げ、やはり号泣して、聞こえてもいない。それでもニールは言葉を止めない。
「その人は貴女の恋人ですか?」
女は首を横に振った。聞こえているようだ。
「では兄弟?」
女は首を縦に振った。
「兄…でず…」
ニールは赤い鉄を生成した。その形は今までの結晶体とは違い、どうも人工的だった。というか、どう見ても弾丸だった。数にして8発。腰の拳銃を抜くと、空の弾倉にその弾を込める。
「お悔やみ申し上げる。俺も見ていた。貴女に銃が向くより少し早く、貴女をかばって銃口の前に飛び出した。とても勇敢だ。彼の死に様は、俺から上層部に伝えておく。なんの代わりにもならないが、きっと巨額の保険が降りるはずだ」
女はニールを振り返り、睨みつける。が、すぐにそれを辞めた。ニールは振り返り、背中で言う。
「俺はニール=ハムキッシュ…国家保安委員会の一等保安官だ。これ以上誰も死なせない。だから、ここで待っていてくれ。必ず、あとで名前を聞きに来る」
ニールドアを開けずに2発、後続車両に向けた発砲。ドアの向こうで2人の男の絶叫を上げ、そして轟々と燃えて消えた。ニールはドアを開ける。その堂々たる歩み、まさしく保安官。次のドアを蹴破り、信徒を撃ち燃やす。
この日この汽車にはあと二回、銃声と悲鳴が響いた。