ディック村長
「おう!待たせたな・・・って、見ないツラした野郎どもだな?」
家の奥の方から現れた人物は、
そのダミ声に相応しく、巨体で筋肉質な強面の老人であった。
「あなたが、この村の村長のディックさんですか?」
「おう!確かに俺が村長のディックだが、
普段、村の連中は俺の事を『村長』としか呼ばん事からすると、
坊主、お前誰か俺の知り合いから、俺の名前を聞いて来たんだな?」
「はい、以前に僕が立ち寄った際に、お世話になりました
チキチキ村のケンケン村長さんに伺いました。
僕は冒険者に成って『学園都市ツクバーダ』にあるダンジョンに潜る為に、
他の国から参りましたコインと申す者です。
そして、こちらの方々は縁あって一緒に旅する事となった
冒険者のポラリさんとパサラさんです。」
「宜しく頼むよ村長さん」
「宜しく」
「おお!ケンケンのダチなのか!
あいつのダチなら、俺のダチも同然だぜ!
宜しくな!コインと嬢ちゃん達!
この村には宿屋なんて洒落たモンは無いからウチに泊まって行けや!
それと、今夜は村のモンと一緒に歓迎会でも開くから楽しみにしろよ!」
「ありがとう御座います。
それは、とても助かります。」
「世話になるね」
「感謝」
「おう!遠慮しないで、ゆっくりして行けよ、
10年前にカミさんが流行り病で死んじまって、
娘達も皆、嫁いで出て行っちまったから、
この無駄にデカい家に一人暮らしで部屋が余ってんだよ、
あの、扉にイタチの絵が描いてある部屋が俺の部屋だから、
それ以外だったら、どの部屋を使って貰っても構わねぇぜ」
村長が指差す方向へとコインらが目を向けると、
確かに一部屋だけ扉に、
白い体毛に、赤い目をしたイタチの絵が描き込まれたものがある、
その出来栄えは見事なもので、
今にも扉から飛び出して来そうに見える躍動感であった。
「ありがとう御座います。
ところで、ちょっとお聞きしたいのですが、
何で扉に描く絵の画材が、態々『イタチ』なんですか?」
「妙に写実的な絵だね」
「アルピノ?」
「ああ、あれは俺の『イタチ愛』が描かせたんだよ」
「えっ!?あの絵って村長さんが描かれたんですか!?」
「その道で食ってけそうな腕前だね」
「同感」
「おう!本来、俺は絵なんてもんは描かねぇし、
描いても人からは『何が描いてあるか全然分からない』って、
言われる程にヘタクソなんだが、
魂から溢れ出す『イタチ愛』が、あの絵を描かせたんだよ」
「どんだけ、イタチ好きなんですか!?」
「イタチに対する愛の力が奇跡を起こしたのかね?」
「イタチ好きの画家の霊が憑依したのかも」
「元々俺は、この村で猟師をやってたんだが、
ある時、狩りに入った森の中でアイツと出会い目が覚め、
猟師からは足を洗って、イタチ・ブリーダーに転職したんだよ」
「方向転換が激しいな!オイ!」
「今でもブリーダーは続けているのかい?」
「イタチ見たい」




