画伯
「では、ジョゼッペ爺さんを呼んで
ポラリさん達と、ナンカイイカン鹿?の子供らを
親鹿たちの元へと帰す相談をして貰おうか」
「賛成!」
「異議無し!」
「それでは、皆で声を合わせて、せ~の!」
「「「「ジョゼッペ爺さ~ん!!」」」」
ハンサム・シティの代表を務めるY.H.S.Bの面々は
小鹿らを飼育している広大な敷地の中央部分辺りにある
大きめの木々と、小振りな木々をバランス良く配置して、
小鹿らが、周囲の視線から受けるストレスを防ぐ為と見られる
木立の方向へと向かって声を掛けた。
「いよいよ、『擬態』の二つ名を持ってたっていう
伝説のテイマーとやらの元冒険者の先輩に御対面だね」
「楽しみ」
「アタイも伝説として未だに語り継がれている
先輩冒険者の人に会うのがチョ~楽しみっすね」
「やっぱり、『擬態』とまで言われていた人なので、
近くまで来られてもスキルを解除して貰わないと
気付けないかも知れませんね・・・あっ!
小鹿たちが木立から出てきましたよ!」
街の代表者たちが声を掛けた木立の方向へと
目線を送っていたコインらの目に、
小鹿の群れがゾロゾロと現れ出たのが見えた。
小鹿らはジョゼッペに良くテイムされているのか、
初対面となるコインらが居るのにも関わらず
コインらと、街の代表者らが居る方向へと向かい
ゾロゾロと群れで歩いて来るのが見て取れる
「流石はジョゼッペ爺さんだな、
あの群れの中に居るんだろうけど、
全然、どこに居るのかが分からないや」
「ああ、見事なまでに小鹿らの群れに溶け込んでるよ」
「まだまだ、伝説の腕前は衰えていないみたいだね」
「ああ、我々の街の誇りだな」
こちらの方向へと向かいゾロゾロと歩く小鹿らを見ながら
代表者の面々が口々に、そう述べる
「多分なんだけど、
あの、群れの先頭を歩いて来てるのがソレなんだよな」
「一目瞭然」
「あ、アレが、ホントに伝説のテイマーなんっすかね?」
「小鹿たちが全然、怖がっている様子には見えないし、
街の代表者の方々も違和感を感じていない様子ですから
アノ方が、そうなんでしょうね・・・」
街の代表者らと共に、
こちらの方向へと向かい歩いて来ている小鹿らの群れを
見ているコイン達の目には、
その先頭に立ち2本足でポムポムと歩いて来ている
着ぐるみで身を包んだ人物が見て取れた。
しかも、その着ぐるみ自体も決して精巧な物では無く
時折、テレビの番組などで芸能人に出現する、
所謂『画伯』と呼ばれる人物らが描く様な、
何の動物を描いているのか、
本人の説明が無いと分からないレベルの出来栄えである、
辛うじて、只今の状況により
『鹿なのかな?』と思える点があるとすれば、
頭の部分に付けられた2本の角らしき物体のみであろう・・・
「ジョゼッペ爺さん、ちょっと相談したい事があるから
僕達にも分かる姿にしてくれるかな?」
「うん、このままじゃ、
どこに向かって話し掛ければ良いのかが分からないからね」
「相変わらず、ジョゼッペ爺さんの能力は凄いな!」
「ああ、小鹿らが、僕らの近くまで平気で近付い来てるから
群れの中に爺さんが居るのは分かってるけど、
全然、分からないや・・・」
「あの人らの様子を見る限りだと、
別に、嘘を吐いてるだとか、
態と気付かない振りをしているだとかじゃ無い様だね」
「自然体」
「話をした感じじゃ、
そんな演技とかが出来る感じの人らじゃ無かったっすもんね」
「代表の人達も、小鹿たちと同じ様に、
ジョゼッペさんのテイムスキルに掛かってしまっているって
事なんですかね?」