以心伝心
「何だいコリャ?・・・まあ、緊急性は無いみたいだね」
「むぅ・・・余り見せ場が無さそう」
「全部同じ種類の、鹿っぽい魔獣達ですね、
角で街の防壁をゴツゴツ突いてるけど、
威力は余り無さそうですよね」
「コイツらは、多分なんっすけど
『ナンカイイカン鹿?』っすね、
前に、他の冒険者がクエストでギルドに
納入してたのを見た事があるっすね」
馬車を曳く馬達の安全の為に、
街から少し離れた場所に馬車を停め、
駆け足でハンサム・シティー近くへと駈け付けた
コインら一行が安心した表情で(約1名は残念そうに)
各々、そう発言をした。
「へ~、話には聞いた事があるけど、
コイツらが、ナンカイイカン鹿?なのかい」
「一転して大儲けの予感」
「お二人も、この魔獣の事を御存じなんですか?」
「ああ、コイツらのオスから採れる素材は
高値で取引がされてるからね、
長い事、冒険者を続けているヤツだったら、
一度は耳にしているんじゃ無いのかねぇ」
「お宝が群れで御来場」
「へ~、その高値で取引がされている素材って言うのは
どんな品物なんですか?」
「その素材だったら『匂い袋』っすね、
コイツらのオスが発情期になると、
メスを興奮させる作用がある匂いを出すんっすけど、
その匂いを体内で生成して溜めてる袋があるんっすよ、
その袋の中の、匂い成分を抽出して高級香水とかを
作ってるって聞いた事があるっすね」
「なる程、地球で言うところの、
麝香鹿とか麝香ネコって感じなのか、
そう聞くと高級素材っていうのも良く分かる気がしますね」
「へ~、陛下達の故郷っていう地球にも
似た様な動物が居るのかい、
そりゃ、説明の手間が省けて良かったね」
「私も初耳」
「ええ、確か、同じ様に高級な香料として
扱われていたと思います。」
「しかし、アタイが聞いた話とかじゃ
えらく臆病な性質の魔獣だから、
森の奥深くとかに行かなきゃ見る事が出来ないって
聞いたと思うんっすけど、
何で、こんな街の近くへと押し寄せたんっすかね?」
「ああ、私が聞いた話でも、そうだったね、
幾ら、この国には然程強い魔獣が居ないって言っても、
こんな街の周辺に現れるなんて事は考えられない事だね」
「私の懐が潤う分には理由は要らない」
「そんな臆病な魔獣が押し寄せるなんて、
何か余程の事情でも有りそうな気がしますよね」
『キュッ!』
その時、コインの首に巻き付いていたファーが、
突然、鳴き声を発すると、
コインの首から離れスルスルと体を伝い降り
地面へと降りたった。
「ん?急に如何かしたのか?ファー」
『キュキュッキュ~』
「え?自分が行って何が有ったのか聞いて来るって?」
『キュッ!』
「コインは随分と、ファーとの意思疎通を図るのが
上手くなってる様だね」
「以心伝心」
「テームしている魔獣との親愛度が上がると
コミニュケーションを取るのが楽になるって聞くっすからね」
「ポラリさん、ファーが、
ナンカイイカン鹿?達に、何が有ったのか話を聞きに
行きたいって言ってるんですけど、
行かせて見ても良いですかね?」




