風雲急
「サナエさん、確か、
今日、立ち寄る街が、首都ツクバーダへと向かう
旅路の途中で泊まる最後の街って事でしたよね?」
馬車の御者台にて、
サナエと共に振動に揺られているコインが、そう尋ねる
「そうっすね、次の『ハンサム・シティー』を
朝に馬車で出れば、
その日の夕方にはツクバーダに着くっすから、
途中で立ち寄る最後の街になるっすね」
「へ~、次の街の名前ってハンサム・シティーって
言うんですか、
何か、カッコイイ人が大勢居そうな名前の街ですね」
「アタイは、前の冒険者パーティーに入ってた時に、
一度、クエストの途中で立ち寄った事があるっすけど、
別に、他の街と変わらない顔面値だったっすよ、
何でも、初代の街長の人が超ナルシストだったとかで、
街の名前を命名する際に、
この街の名前にしたとか言ってたっすね」
「なる程、初代の街長さんが、
自画自賛する程に、格好良かったって訳ですか・・・」
「う~ん、それも如何なんっすかね~?
見る人に由って評価は分かれると思うっすけど、
中央広場って所にあった初代街長の銅像を見た
アタイの感想だと、
カッコイイって印象よりも、
アゴが割れてて、矢鱈と濃い顔だったって
印象しか残って無いっすからね」
「ハハハ、まあ、濃い顔立ちの方が好きって人も
それなりには居るんでしょうから、
一概には、ハンサムじゃ無かったとは言えないかも
知れませんね」
「それは言えるっすね、
実際、前のパーティー仲間の連中も、
大多数は、アタイと同じく『濃過ぎる』って意見が
多かったっすけど、
副リーダーだった人だけは『超カッコイイ~!』とか
叫んでたっすからね」
「ハハハ、何か、そういう人って、
胸毛とかもボーボーの方が良いって言いそうですよね」
「あ~、確かに言いそうっすよね」
「まあ、好みなんてのは人其々で・・・うん?
サナエさん、アレって何ですかね?」
サナエと他愛の無い会話を交わしていたコインが、
突然、自らの発言を打ち切って、
馬車の進行方向を指差しながら、そう告げる
「うん?突然、何っすか?コイン
あれは・・・多分、ハンサム・シティーの街の防壁っすよね
それと・・・その周囲に見える土埃は・・・やばいっす!
コイン!姉さん方!
ハンサム・シティーが魔獣の大群に襲われてるっす!」
コインの言葉を受けて、
コインが指で、指し示していた方向へと目を向けたサナエは、
その、獣人特有の視力の良さを生かして、
街が現在置かれている危機に気付き
御者台と車内とを隔てる壁にある窓を開き、
車内のポラリとパサラへ、
そして隣に座るコインへと声を伝えた。
「何だって!?
兎に角、急いで街へと向かうわよ!」
「むむっ、大活躍の予感」
「サナエさん、一度馬車を路肩に止めて
皆の装備を整えてから向かいましょう!」
馬車に乗っての旅路の為、
この国に、それ程強い魔獣が生息しない事もあり、
御者台の2人が短剣を帯びたのみの装備だった為、
コインが、そう提案をする
「了解っす!
一度、馬車を横に寄せて停めるっすよ!」
「はい、僕は急いで、後ろに積んである
皆さんの分も含めた装備の方を
準備する様にします!」




