新人冒険者のジレンマ
「色々と世話になったね」
「バイ・なら」
「博士のヒコウセンが完成したら
見に来るっすね」
「首都ツクバーダでの生活の方が落ち着いたら
また顔を出す様にします。」
コイン発案のバネ紐開発の関係で、
予定よりクロイツェル村での滞在が一日伸びた
コイン一行は、
翌朝、次なる旅路への出発を迎えていた。
「なんのなんの、長きに渡るワシの研究に
一つの道筋を示してくれたんじゃからな、
こちらこそ、感謝の念で一杯じゃよ」
「一昨日、御馳走になったヤキニクは、
私なりのアレンジを加えて、
ウチの研究所の定番メニューの一つとして
加えさせて頂きますね」
「また皆さんで、遊びに来て下さいね」
コインらの言葉に対して、
博士と、助手のビーサン、シーサンらが
そう返事を返した。
「それじゃ、そろそろ出発するよ」
「オッケー」
「「はい!」」
パーティーのリーダーであるポラリの言葉で、
パサラは馬車の中へと、
そして、コインとサナエの2人は、
旅路の指定席である御者台へとついた。
「そんじゃ、出発するっすよ~!」
最後一人となったポラリが、
馬車へと乗り込むのを確認したサナエは、
自らの両手に握った手綱により馬達に指示を出し
馬車はユックリと村の門を出てから、
少し速度を上げながら街道を走り始めた。
「なんか、人当たりが良い人ばかりで、
旅人に優しい村でしたね」
「あの村は、博士の研究所があるお蔭で
色々と恩恵を受けてるっすから、
皆、経済的な余裕がありそうだったっすからね、
アタイが住んでた村も、ファー達の毛皮のお蔭で
生活が楽だったから分かるんっすけど、
経済的な余裕が、心の余裕にも繋がって、
人に優しく出来るんだと思うんっすよね、
アタイが、前の冒険者パーティーに所属していた時に、
ギルドのクエストなんかで地方の村とかに行くと、
特産品とか、観光の名所とかが無い貧しい村とかの場合、
ま~アタイらに対する当りがキツかったっすよ」
「へ~、そんな事もあるんですね・・・」
「まあ、村の連中からすれば、
只でさえ厳しい生活の中から絞り出したクエスト料を
掻っ攫ってっちまうんっすから、
その気持ちも分かるんっすけどね」
「まあ、それが冒険者の仕事ですから、
仕方と言えば、仕方が無いですよね」
「うん、でも、アタイ達の村も、
村長が毛皮産業を確立するまでは、
同じ様な貧しい暮らしをしていたっすから、
村人たちの気持ちが痛い程分かり過ぎて
辛かったっすね、
センパイらは、正当なクエスト報酬なんだから
気にしなきゃ良いって言ってたっすけど、
中々割り切れるもんじゃ無かったっすよ」
「う~ん、サナエさんの先輩方が言ってる事が
確かに、冒険者としては正しいんでしょうけど、
僕も、サナエさんと同じ様に、
気にしないでいるのは難しそうですね・・・」
「まあ、アタイらみたいに冒険者になんてなるヤツらは、
大概が、地方の貧しい村とかの出身っすから、
新人の冒険者の多くが陥るジレンマってヤツっすね」
「そのジレンマを、いつの日か克服出来る日が来たとしても、
クエスト料を大切に思う気持ちだけは、
ベテラン冒険者になっても、
持ち続けて居たいものですよね」




