失意と希望
「その行方をくらましたレッドのヤツの父親が
無類の勇者様マニアでのう、
ワシとレッドは子供の頃から、
その親父さんの沢山の勇者に関する蔵書を
読んで育ったという訳じゃわい」
「へ~、そうだったんですね、
ちなみに、その『空を飛ぶ船』についてが
記載されていたのは、
どの勇者様について書かれた書物だったんですか?」
「うむ、勇者イチロー様じゃな」
「えっ!?勇者イチロー様ですか?」
コインは、その名前からすると、
自分と同じ日本から来た勇者様では無いかと考え
違和感を覚えた。
「そうじゃ、ワシとレッドは勇者様の中でも、
勇者イチロー様が一番の大ファンでの、
何度も、イチロー様に付いて書かれた伝記を
繰り返し読んでおったから間違いは無いぞ」
「ちなみに、その空を飛ぶ船に関して、
どんな風に書かれていたとかは
憶えていらっしゃいますか?」
「うむ、ちょっと待て」
博士は、研究室に隣接した
ドアの上に『ワシの部屋』と書かれたプレートが
掲示されている部屋へと入ると、
暫くしてからB5サイズぐらいの手帳を、
その手へと掴み戻って来た。
「勇者イチロー様の、空飛ぶ船じゃったな・・・
空飛ぶ船・・・空飛ぶ船・・・おっ!あったぞい、
空飛ぶ船に関する記載じゃが、
イチロー様が、魔王討伐の仲間との雑談の中で、
国だか、商会の名前だかは定かでは無いのだが、
『あ~るぴ~じ~』なる所の、
空を飛ぶ船に乗るのが夢だと仰られている
記述があるのじゃ」
「ワッチャ~」
「うん?どうかしたのか?コイン君」
「え~と・・・ですね、
博士に残念なお知らせが一つあります。」
「うん?何じゃ、その残念な知らせというのは」
「その、博士たちが読まれたという本と、
似た様な内容の本を、僕も読んだ事があるのですが、
その本の中で『RPG』というのは、
架空の世界を描いた夢物語の様な物だと
記載されていたんですよ」
まさか自分にも、勇者イチローと同じ国の
記憶があるとも言えないコインは、
博士に対して、そう説明をした。
「何!?『あ~るぴ~じ~』が夢物語じゃと!?」
「はい、残念ながら、そう書いてありましたね」
「では、空飛ぶ船というのも・・・」
「はい、恐らく実在はしていなかったんだと
思われます・・・」
コインは、申し訳が無いという気持ち一杯で、
博士に、そう告げた。
「なんと・・・ワシは、
実在しない物を長年追い求めていたというのか・・・」
博士は、ガックリとした様子で、
両手を机の上に付いて項垂れる
「で、でも、羽根で空を飛ぶ船は無かったけど、
空気より軽い気体を利用して、
空を飛ぶ船はあったらしいですよ」
余りにも落ち込んだ様子の博士が不憫になったコインは、
つい、そう教えてしまう
「何!?空気より軽い気体を利用した船じゃと!?」
「は、はい、僕も専門家じゃないんで、
それ程、詳しくは無いんですけど、
空気よりも軽い気体があって、
それを漏れないように密閉された大きな袋に詰め込んで、
その袋の下に船を吊り下げるらしいです。」
「なる程、魔力を持たぬ『ヘリューム虫』という
まん丸の玉の様な体を持った虫が、
羽根を持たずに空をフワフワと飛ぶ事から
『空気より軽い気体があるのでは無いのか?』という説が
昔から囁かれてはおったが、
実際に、その様な気体が存在しておったか・・・」
「そんな、妙にタイムリーな虫が居るんですね」




