モーブ村の事情
「ふ~、では、先程少しお話をさせて頂いた
モーブ村とのお話をさせて頂きますかのう」
自らの自宅の居間にて、
お手伝いの女性が淹れたお茶で喉を潤して、
一息ついたグレソム村長が、
同じく、各々で好きな飲み物を楽しんで居る
コインらに向けて、そう告げる。
村長宅を訪れたコイン達は、
其々が今夜、寝室として使う部屋へと案内された後、
旅支度から、楽な服装へと着替えて、
グレソムの待つ居間へと集合していた。
「ああ、さっきは、私とパサラは馬車の中に居たんで、
聞くとは無しに聞いてたんだが、
別に、村同士のトラブルとかじゃ無いとか何とか言ってたね」
「トラブル大歓迎」
「僕も、さっきの話の続きが気になっていたんですよ」
「オレも、気になってたんっすよ」
「まあ、簡単に申せば、
モーブ村の住人の、この村への移住の嘆願ですな」
「ほう・・・移住の嘆願か、
それで、何人ぐらいの村人が移りたいんだって?」
コインらを代表してポラリが、そう質問をする
「それが、村人全員で移りたいと言って居りますんじゃ」
「村人全員だって!?
モーブ村には、何人ぐらい住んでるんだい?」
「年寄りや子供を含めると83人との事ですじゃ」
「そりゃ、確かに、
直ぐに『はい、どうぞ。』とは言いかねる人数だね・・・」
「キャパを超えてる」
「さっき村を見た感じでも、多少の余裕はあるものの、
そこまで住人を増やすには無理があるって感じですよね」
「オレが見た感じでは、いいとこ50人ってとこじゃ無いっすか?」
「はい、ワシも、何とか無理をして、
50人ぐらいならと言っておるのですが、
連中は、全員での受け入れを希望しておりますんじゃ」
「一体全体、何でモーブ村は、そんな事になってるんだい?
この辺なら、気候とかも良さそうだし、
飢饉とかが起こったって訳でも無いんだろ?」
「はい、連中が求めているのは食料などでは無くて安全ですな、
モーブ村も、ウチの村と同じく、
元冒険者の戦士職の男が村長となり興した村なのですが、
村の防衛を一手に担っておった、その村長が、
3か月程前に、急病にて亡くなったのですじゃ」
「その亡くなったって言う村長さんは、
後進の者を育てては居なかったのかい?」
「いえ、ちゃんと自分の後を継がせるべく、
他国にて、自分の息子や、村人の子供らを冒険者にして、
魔獣と戦える力を付けさせる為の行動はしておったのですが、
運悪く、クエスト中に強力な魔獣と相対したらしく、
村長の息子を含めた村の若者らは、
帰らぬ身となってしまったそうですじゃ・・・」
「まあ、冒険者をやってりゃ良く聞く話ではあるけど、
モーブ村の連中に取っちゃ、
村の未来が閉ざされたみたいな悲惨な話だね」
「なむぅ・・・」
「モーブ村の村長さんが病気になったのも、
その事で、気落ちしたからかも知れませんね」
「オレの冒険者仲間にも、将来は村に帰るって言って、
同郷でパーティーを組んでる連中が何人か居たっすね」
「はい、それで、
村としての防衛力を無くした状態のモーブ村の者達が、
この辺りでは一番、村の防御力が高いと言える、
この村に移住をさせて欲しいと進言して来た訳ですじゃ」
「なる程ね・・・
今の場所から、そう遠いって訳でも無いし、
長生きが多いと言われる、腕利きの魔法使いが村長を務める、
この村に、白羽の矢が立つのは必然って訳だね」
「私は1000歳まで生きる」
「高い防御壁にグルリと囲まれて、
グレソムさんと、ホネタロウさん達で守る、
この村なら安全・安心に暮らせますもんね」
「オレがモーブ村の住人でも、そう考えるっすね」