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短編いろいろ

加護認定士の弟子は厄憑きです

作者: 詞乃端

 

 目が、死んでる。

 ――めっちゃ死んでる。


 シイがその少女と出会った時、印象的であったのは光の消え失せた双眸であった。

 髪と同じく、灰色がかった茶色の瞳は、若人にあるべき(きらめ)きを、根こそぎうっちゃってしまった後の残骸たる、ガラス玉と化していたのだ。

 また、顔にも絶望の二文字が刻まれ、齢十六の花の乙女でありながら、片足を棺桶に突っ込んでいる老婆の様な陰鬱(いんうつ)さを醸し出していた。


 シイが加護認定士の資格を取ってから、早五年。

 加護無しに加え、没落しかけの某子爵の妾の子と言う、ビミョウな身の上の下っ端加護認定士に回されてくるのは、あるんだかないんだか良く分からない様な加護持ちばかり。

 そんな中で、己の加護を疎む素振りさえあるその少女は、異質であった。


 ――多くの神が暮らすこの世界で、加護と言うものはありふれたものだが、それを判別するには、特殊な加護か膨大な知識が必要だった。

 神々が気紛れに与える加護は多種多様であり、強力で有用な加護持ちは、真っ先に鑑定の加護持ちの元へ送られる。

 結果、シイが鑑定するのは、数が少ない鑑定の加護持ちの時間を割く必要が無いと判断され、だが、本人や家の見栄により加護の認定を求める人間ぐらいだ。

 加護を与えられる人間は、十人に一人程であったから、つまらない優越感の為に、わざわざ鑑定料を払う人間は意外に多いのだった。

 困った事に、微弱過ぎる加護は、努力を重ねた人間に劣ることがある為、天性の才が加護と誤解されるのは間々あることである。

 それを完璧に把握できるのは、鑑定の加護持ちだけであり、彼らの少なさをカバーする為にシイの様な加護鑑定士が存在していた。


 ◆◆◆


 ――愛したひとは、妹の手をとった。

 ごめんね、この子を愛してしまった、と。

 我慢しろ、と両親が言う。

 幸せそうな家族の中、自分だけが、弾かれた。




 ――結ばれたひとは、自分を見てはくれなかった。

 これは、契約なのだ、と。

 本当に愛する人の元へ、入り浸り。

 なら、自分はどうして冷たい場所にいなければならないのだろう。




 ――親友だと思っていた娘は、そうじゃなかった。

 馬鹿ね、信じるなんて、と。

 彼女の大切なものを壊しながら、嘲った。




 ――灼熱が、胸を貫いた。

 貴女が悪いの、と。

 知らない娘が、愉快そうに嗤った。

 あのひとを、こまらせるから。




 ――夫となるべきひとは、わたしをころした。

 かいだんからつきおとして、まんぞくしたの。

 これで、あれをむかえることができる、と。




「――対人運最悪だね、お嬢さん」

 タニアを苦しめていた悪夢は、髪がもじゃっとした、やる気なさげな加護鑑定士により、一言でまとめられた。

 何だか納得がいかない。

 ある日突然、昼夜を問わず人に裏切られたり、殺されたりする光景を幻視するようになってから、タニアはすっかり人間不信に陥ってしまっていた。

 母方の祖父母が、悪さをする加護もあると言って、引き籠りと化していたタニアを加護鑑定士がいる大神殿まで引きずってきたのだか、そこで何故対人運が出てくるのだ。

 目つきの良くない加護鑑定士は、おさまりの悪い髪をかき混ぜながら、手元の書類に何やら書き込んでいた。

「話から推測すると、君の加護は予知だね。 予知の範囲は、お嬢さん自身の身の危険。 ――ただ、君の対人運がとにかく悪いせいで、嫌なものばかり見る羽目になっているらしい」

 加護鑑定士の言葉に、タニアは口元を引き()らせた。

 あの悪夢は、将来起こり得る可能があったのか。

 心当たりは、……なくもないが……。

 親兄弟美形な家族の中で、次女のタニアは母方の祖母似でぱっとしない顔立ちで、これと言った特技もない。

 実家は、そこそこ繁盛している商家であるから、持参金目当ての男に目をつけられることもあるだろう。

 親友に関しては、ちょっとした嫌がらせの手伝いをさせられたことがあるから、……まあ、相手にとってのタニアは、その程度であったのだろう。


 ――これから生きていくことに関して、夢も希望も持てない件について……。


 瞳がガラス玉から虚ろな穴へ移行したタニアを前にして、加護鑑定士はマイペースで説明を続ける。

「たまにいるんだよね。 因果律がひたすらに悪い仕事をする、厄憑きって人間が。 お嬢さんは、それだと思うよ」

 タニアに降りかかった災厄を、男はあっさりと流していた。

「厄憑きと言うのは、ある日突然何もかもが悪くなっていくらしい。 まあ、生まれた時から運が最悪だったら、赤ん坊の時点で死んでしまうしね。 ――君の場合は、恐らく運勢が谷底に転がり落ちたのと加護を得たタイミングが同時期で、幻視に振り回される羽目になったんだろう」

 男の目には、悪意こそなかったが、タニアに対する同情もまたなかった。

「……ずっと、このまま悪夢が続くと……?」

「強く生きよーね」

 タニアの問いに、返ってきたのは棒読みの台詞だ。

 ちょっと待て。

 優しさはないのか。

 薄情な加護鑑定士に八つ当たり気味の殺意を覚えたタニアは、その時、重大な事に気が付いた。


「それじゃあ、頑張って」

 よっこらせ、と、立ち上がった男に、タニアは咄嗟に(すが)りついた。

「――弟子に、して下さいっ――!!」


 男の前では、裏切られる光景も、殺される光景も、幻視しなかった――。


 ◆◆◆


 タニアと言う少女にとって、イケメンと有望株はとりわけ鬼門であった。

 曰く、どっちも女難が憑いてくる――。

 ただ、実家で働いている女中にも裏切られる幻視を見ていたのだから、彼女の対人運は、満遍なく最低ではあるまいか。

 彼女が信じても問題ないと思えた人間は、母方の祖父母のみで、後は大体目の前に立たれると、嫌な光景を幻視する羽目になったそうだから、哀れと言う他ない。

 しかしながら、祖父母以外にも僅かながら『安全な』人間が存在していた。

 そして、彼等には、共通点らしき特徴があったのだ。

 ……シイからしてみれば、こじつけ以外の何物でもないけれども。


 それはずばり、イケてない系だ。


 悪い人種ではないのだが、どうにもぱっとしない人物が、タニアに幻視を見せない人間の傾向だった。

 但し、顔はイケてなくても、能力が高い人種は不可。

 因みに、シイはイケてない系だから、問題ないとのこと。

 喧嘩を売っているのか。

 事実だが。

 ――癖の強い焦げ茶の髪に、目付きの良くないシイの容姿は、老け顔と称されることが多い。

 加護認定士と言う職業は、神殿付きで安定しているものの、出世や名誉などと言うものには、逆立ちしたって縁が無かった。


 だからと言って、初対面の男に、年頃の少女が弟子にしてくれと頼むのは、如何なものか。


 加護認定士は安定してはいるため、知識さえ身に着ければ、安泰なのは事実だ。

 また、虚ろな目でタニアが語った様に、武術や薬学よりは、犯罪に巻き込まれたり、濡れ衣を着せられたりする機会も少なかろう。

 で、あるが、シイはタニアを弟子にする理由も義務もなく、何より面倒臭そうだから嫌である。

 イケてない系のシイは、熱血とは程遠い性格であった。




 ――だからこそ、人生がかかったタニアの気迫に押し負け、うっかり弟子にしてしまったのだが。





*タニアの加護*


・危険予知

未来に起こり得る危険を、幻視の形で知ることが出来るぞ!


・奇運(イケてる系マイナス補正極大)

周囲の人間によって、運気が変動するぞ!

イケてる系が近くにいると、運気は急降下♪

イケメンや有望株だと、さらに大幅ダウンッ☆




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