第八話
おいおい、ピンポイントのタイトルじゃないか。
「お前、どういうつもりだ」
「どういうって?」
「だから、なんでお前、そんな都合よくこんな本を書いているんだ」
「無茶苦茶なことをいうなあ」
男はあきれるというよりも、面白がるようにそう言った。
その様子は、俺の中でますますあやしさを募らせた。
「偶然だよ。とりあえず、中を読んでみたら?なにかその探し物の参考になるかもしれないよ」
男の言葉で、再び本に目を落とした。表紙には美しい一匹の竜の姿が描かれていた。
「そーいち、私も見たい」
そういいながら、サラが近くに来た。ダンゴはひとまずもういいらしい。
「……きれいな絵」
サラは表紙を見てそうつぶやいた。確かに、その絵は細部まで丁寧に描かれていてるのがわかる。
「開くぞ」
そう言って、表紙を開く。その絵本にはだいたいこんな内容が書かれていた。
昔々、それは今から千年ほど昔のはなし。
そのころの人間と竜はひとつの存在でありました。
しかしある日、そのひとつの存在は進化を求める人間と進化を拒否しとどまることを望んだ竜とに体を分けました。
こうして自由の体を手に入れた人間は川を渡り、海を渡り、世界中にその数を増やしていきました。
一方竜は、ある場所にずっととどまり続けたままでした。
お互いこのまま干渉することなく生きていくものと思っていました。
しかし、人間たちは時がたつにつれてあることに気が付きました。
それは竜とひとつであった頃には当たり前にあった神の恩恵が受けられなくなったことです。
竜は神聖な生き物であり、神に愛された存在でもあります。
それゆえに神から、はるかに長い年月を生きることを許されていました。
しかし、人間は違いました。
竜と別れたことで、その神を裏切った存在となっていたのです。
そのことに気付いた人間たちは急に竜の存在が怖くなりました。
人間よりもはるかに長い時を生きるということは、人間よりもはるかに多くの知識をもっているということです。
つまり竜は人間よりも優位な存在であると考えました。
なら、竜を殺しにしてしまおう。
竜さえ殺してしまえば、人間を脅かす存在はいなくなると人間は考えました。
人間は、とても大きな剣をつくりました。
それは竜も殺せる剣です。
人間たちはその剣をもって、竜たちが住む島へと乗り込みました。
絵本の話はそこで終わっていた。
「この話、最後はどうなった」
俺が知りたいのは、その竜が今どうしているのかだ。
「さあ、この話は竜の逸話をまとめたものだからね。結末がはっきりしないんだよ。でも、こうして人間 が生きているんだから、竜はそのまま滅びちゃったんじゃないかな」
「……」
俺は何も言えない。
「どう?なにか参考になったかな」
確かにこの本は俺が知らなかった竜のはなしが描かれていた。
しかし、それが本当にあった出来事なのかも確かめるすべはない。
「お前は、この竜のはなしをどうやって調べた」
「そうだね、竜についての資料は現在ほとんど残っていないから。ある人物から話を聞いたっていうのが大きいかな」
「ある人物?」
「その人物について知りたい?」
男の態度はいちいち俺をいらいらさせる。
「もったいぶらずにさっさと教えろ」
「……」
しかし男はなにも答えず、なぜかサラの方をちらりと見た。
サラはまだ絵本に夢中になっている。
「うーん、そのはなしはまた今度にしようかな。次は彼女を抜きにしてふたりで話がしたい」
「どうしてそこでサラが邪魔になる。竜を探しているのはサラ本人だ」
「まあ、俺にもいろいろあってね。ところで君、彼女とずいぶん仲がよさそうだけどさ」
一呼吸間をあけて、さらに言葉を紡いだ。
「彼女の正体については知っているのかな」
男は意味ありげな顔で俺をためすようにそんなことを聞いてきた。




