第二話
「どうしてそんなことが断言できる」
「私は、その事実を知っているから」
彼女ははっきりとした口調でそう言った。
「まあ、それは過去のはなしになるのかもしれないけど」
「なら、竜には会えないんじゃないか?」
「だから私は手掛かりを探しているの。それにお兄さん、竜が邪悪な存在っていうのは間違い
だよ。竜はこの世の生物のなかで最も尊き存在であり、神聖な生き物なんだから」
少女はなぜか得意げに言った。
しかし俺の目には、竜の存在に純粋にあこがれる子供の姿にしか映らなかった。
なら、その夢は壊さないでおいてあげたほうがいいだろう。
「そうか。まあ、せいぜい頑張れよ」
そういって、手を振りながら少女の横を通りすぎた。
このまま話を聞いていても、きっとろくなことにはならないだろう。なら、何も起こっていない今のうちに退散しておくべきだ。
「あっ、ちょっと待って。私、本当に困っているの。あなたはようやく見つけた人間だから、少しくらい私に協力してほしい」
しかし、少女は俺を追い掛けてきた。
少女は俺の手をつかんで引き留めようとしたが、なぜか寸前のところでその手を下ろした。
そのかわりにすばやく俺の前に回り込み、大きく両手を広げてゆく手を阻んだ。
「えへへ、通せんぼ」
少女は笑顔でそう言った。
「……どいてくれないか?」
「お願い、話だけでも聞いて。かわいい女の子の頼みだから、ね」
自分のことをかわいいとか言うな。あと、お前は俺の中では正体不明の存在だ。目の前でふわふわ飛んでいたことを俺はまだ忘れていない。
「頼みっていっても、お前は俺になにを求めている。言っておくが、竜についての情報なんて持っていないぞ」
「えっ、そうなの?」
「……もう行くぞ」
俺は再び少女の横を通りすぎようとした。
「待って。なら、私と一緒に手掛かりを探してほしい。私、まだここに来たばかりでどうやって情報を集めたらいいのかもわからないの」
「断る」
「即答⁉どうして」
どうしてもなにも、なぜ見知らぬ他人のためにそこまでしなくてはならない。
深いため息をつく。
「情報がほしいなら、セルリアという街に向かえ。あそこなら多種多様の人間が集まる。もしかしたらその竜の情報も手にはいるかもしれない」
セルリアとはこの国最大の都市であり、あらゆるものの中心でもある。この国の政治や経済はそのセルリアを中心に回っていると言っても過言ではない。そのため、そこには住人たちだけでなく、商売をするものや芸をするもの、さらに国中の役人たちもときにセルリアを目指して集まってきた。
俺は最大限の助言を少女にしたつもりだった。
しかし少女は、
「えーと、そのセルリアってどこにあるのかな?」
などと言ってくる。
「わからないならその辺にいる人間を捕まえて聞いてくれ」
「だーかーら、その人間があなたしかいなかったの」
少女は両手を広げたまま大声で叫んだ。
だめだ、頭痛がしてくる。
「お願い。私、あなたしか頼める人がいないから」
少女は涙目で訴えてきた。そんな顔をされたらさすがに拒みづらい。
「……わかったよ。どうせ、俺もセルリアに向かう途中ではあったからな」
少女の顔がぱっと明るくなる。そのまま勢いで飛びついてきそうなくらいの喜びようだった。
「ありがとう。えーと、あなたの名前は?」
「ソウイチだ」
「そーいち、か。いい名前ね。私はサラ」
これからよろしく、とサラは言った。




