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白き奏者のレクイエム  作者: 長月ヨウ
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第二十三話

 老人の説明は続く。

「長い間、ほんとうに長い時間、お前たちを待ち続けてようやく目の前に現れたというのに、何か事故でも起きてワシの目的が果たせんかったら困るからの。説明は早足でさせてもらうぞ。もちろん、わざともったいぶるようなことはせん。いいかよく聞けよ。とくに、そこの竜よ」

 老人はサラのほうを向く。

 しかし、サラはその言葉にまったく反応しない。まだ意識はこちらに戻ってきていないようだった。

「まったく、しょうがない奴じゃな」

 老人は手のひらから小さな光を発生させた。それを、サラの額に向けて投げつける。

「おい、あんた何をやっているんだ」

「なにって、意識をこちらに戻しているんじゃ。このままじゃ、話もできんじゃろう」

「それはそうだけど――――危険なものじゃないんだな」

「まあ見ておれよ」

 サラは意識が戻ったようで、こちらに首をゆっくりと動かした。

「そーいち、私さっき不思議な夢を見ていた。すごくあたたかい夢。まるで、本当に体験したことみたいだった」

「それは記憶じゃ。昔、この島で本当に起きたことじゃよ」

 老人はサラの前に一歩踏み出す。

「あなた、誰?」

 サラはようやく老人の存在に気付いたようたった。

「さっきも言ったとおり、ワシはこの島の記憶そのものじゃ。お前と、お前が連れてきた人間に真実を伝えるためだけに存在しておる」

「じゃあ、やっぱりあんた人間じゃないのか」

「それは、見ればわかるじゃろう。こんな小さい人間がいるわけなかろうが」

 まあ、サラのように人間の死体をかぶった竜もいるわけで、世の中どんな生物がいるのかわからないものだが。

「ああ、わしはあのリゼとかいう女に造られた人形みたいなものじゃよ。記憶を具現化させて無理やり人の形にしたものじゃ」

 リゼ。

 さっき会った謎の女か。

「そいつはなんのためにそんなことを」

「まあ、この竜に送る最後のプレゼントみたいなものじゃな」

 ここにはその竜に対するあの女の思いがつまっておる、と老人は言った。

「さあ、お前たち。一回しか言わないから、よく聞けよ。今からこの地に起こったことのすべてを話そう。そこの竜、これはお前の失った記憶そのものだと言ってもいい。なんでお前はすべてを忘れたのか、その理由をきちんと考えるがよい。

「始まりは、今から九百年前にさかのぼる。そう、竜と人がふたつに別れたときじゃ。

「人間は海を渡り、竜はここに留まることを選んだ。竜は変化することに恐れ、進化することをやめた。竜はそれが正しいと信じていた。

「しかし、異変が生じたのはそれから百年後じゃ。あるとき竜の一匹が死んだ。それは自殺じゃった。神の加護を受ける竜が自殺する。それがどれだけ異常なことかわかるか?竜は人間と別れることで変化を拒み、前を向くことをやめ、とうとう生きている意味を見失ってしまったのじゃ。竜は何千年生きるゆえともいえるな。それだけ長い間、下を向いて生き続ければ死にたくもなるじゃろう。生と死は紙一重。生きることを忘れてしまえばあとは死ぬしかない。その負の感情はほかの竜にも伝染していき、長い時間を生きた竜から次々と死んでいった。結局、竜は前を向き続けながら生きる人間と一緒でないと生きていけないということじゃ

「そんなとき、ここに足を踏み入れるものがやってきた。それが、竜を殺す剣を携えて、竜を殺そうとたくらんでいた人間たちじゃ

「人間たちは竜たちが死んでいる光景を見て驚いておったよ。まあ、それはそうだろう。まさか神に愛される存在である竜たちが自殺するなどだれも考えていなかったことじゃからの。けれど、人間たちの目的は竜たちの殲滅。だからこの光景に驚きはしたものの、そのあと手をとり喜びあった

「しかし、ある男だけは違った。その剣を持っていた男じゃ。そやつは罪人であったがゆえに、生きている竜を見つけ出し、首を持ち帰る必要があった。

「男は血眼になって生きている竜を探した。そしてこの島のある場所で三匹の子供の竜を見つけだしたじゃ

「男はまず、二匹の首をその剣で狩りとった。そして、残るもう一匹のも討ちとろうと剣をふるった。もちろん、その竜とはおぬしのことじゃ

「しかし、その剣が竜の首に届くことはなかった。リゼがその現場に現れたからじゃ。

「竜はもっとも神に愛される存在。リゼは竜が死んでいく様子を黙って静観していたが、最後の竜が殺される瞬間、とうとう我慢できなかったのじゃろう。その瞬間、その剣は男ののどを貫いていた

「じゃが、神がこの世に干渉していいはずはない。神とは誰にも認識されぬ存在であり、世界を見守る存在じゃ。その瞬間リゼは神の席から外された。まあ、それがリゼにとって良かったのか悪かったのかはわからんがな。確かに神の身ではなくなったが、今のリゼは自由の身であることはたしかなのじゃから

「話を戻すぞ。リゼはその竜をかくまうことにした。しかし、それにも限度がある。その竜も長い時を生きていると、やがてほかの竜たちと同じ結末をたどることじゃろう。それでは、意味がない。その竜には生きる意味を教えてくれる存在、人間が必要じゃった

「だからこそ、リゼはここに竜たちの記憶を形にして残したのじゃ。その竜が生きる希望となる人間をいつか見つけ出すことができると信じて。その選んだ人間と共にこの無くした記憶と向き合えるように、と。

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