第十九話
「子供の頃のはなしだよ。俺は父に連れられて東のある村に引っ越してきたんだ。でもその村では俺の容姿は珍しかったみたいでね、その村の子供たちにはよくいじめられていたよ。それである日、大人たちに絶対に入ってはいけないといわれていた場所に入って行ったんだ。そこは村の住人たちが入ってこないって知っていたからね。理由はええと、なんだったっけ忘れちゃった。まあ、なんせ子供の頃のはなしだからね。とにかく俺は、子供たちから逃げるようにそこに入ったんだ。そこはとても入り組んでいて散々まよったよ。どこを行っても入り口にはたどり着かない。そしてある場所から急にここみたいにどこまでも闇が広がっていたんだ。俺は怖くてなってただ闇雲に走ったよ。はやくこの闇から抜け出したい、そればかりを考えて。それで、ある時ふと小さな点のような光が見えたんだ。出口かと思って光に向かって全力で走ったら、その光はだんだん大きくなっていく。そして俺はその光のもとにたどり着いたとき、とある竜にであったんだ」
「その竜が、サラってことか」
「夢を見ているみたいだったよ。その竜はあまりにも美しくて、神々しくて。俺は何もしゃべれなかった。竜はゆっくりと首を動かして、こちらを見た。それからの意識はない。気が付けば、俺は村の入り口に立っていたんだ。ただ俺は、あの一瞬でその竜に魅せられたのだと思う。
それから必死になって竜のことを調べた。伝説、神話、逸話、物語。竜について語られているものは片っ端から読んだ。そして、そのときに初めて知った、極東にある名もない島のことを」
男は、どこからか布でくるまれた長いものを取り出した。
「目立つからね、少しここで預かってもらっていたんだ」
それは、とても大きな剣だと気付いた。
装飾などの飾りはなにもついていない。何かを殺す。ただその一点だけを目的としてつくられた、そんな剣だった。それだけにその剣はかなりの異彩を放っていた。
「それはいったい」
「これは、竜を殺すの剣だよ。俺はすぐにその島に向かい、そこでこの剣と真実を見つけた」
「真実って、あの絵本にかかれていたことじゃないのか」
「あの絵本の結末っていう意味だよ。本当は、俺はすべてを知っていった。だけど、知っていてもあの結末はどうしてもかけなかった」
「かけなかったって」
「あの島には、竜たちに起こったことのすべてが詰まっていた。で、そのあとだ。俺は真実を知って、もう一度あの竜に会いたくなった。またあの場所に行けば会えるかもしれない、そう思ってもう一度あの竜に会った場所にいった。その竜には会えなかったけど、そのかわりに彼女に会ったんだ」
男は、リゼと呼んでいた女のほうを向いた。女はずっと、俺たちのほうを退屈そうに見ていた。
「俺はリゼさんに、どうしてもあの竜に会いたいと言った。すると、リゼさんはセルリアという街で待っていたらいつか必ず現れるって教えてくれたよ。そして、そのときにその竜が困っていたら力になることを条件に俺に竜が見える目をくれた。まさか彼女自身がが竜を探しているなんて思いもよらなかったけどね。でもまあ、彼女の記憶をリゼさんが持っているって考えたら納得だよ」
「つまり、サラには記憶がないってことか」
「実際に聞いたわけではないけど、たぶん当たっている。はなしを戻すよ。俺はその竜にあったら今度はずっと傍にいて守ってあげたいって思っていた。それは俺の勝手なエゴかもしれない。それでも真実を知っちゃったからね。どうしてもその思いは強かったんだ。だから、君に出会った時も、君がどんな人間か確かめたくなった。まあ、あのときは彼女にも嫌われちゃったみたいで散々だったけどね。それに気づいたんだ、もうすでに、ふたりの間に俺の入っていける隙はもう無いんだなって。それくらい君たちは信頼しあっていたと思っていた。だから驚いたよ、そのあとすぐに彼女がひとりで出ていったって聞いたときは。どうして追い掛けなかったんだって思った」
男の思いは痛いほどに伝わってきた。成り行きでただサラの隣に居ただけの俺とは比べものにならないだろう。
「俺の話を聞いて君はどうする。それでも、あの子のそばにいてやれないっていうのなら、彼女の隣は俺がもらおうと思う」
俺はどうするべきなのか。
今更どんな顔をしてサラに会えばいい。
それに、会ってもう一度あのときをやりなおしたいとでも言うつもりか?そもそも、あのときサラを追い掛けなかったのは自分自身の意志だ。
それなのに、次はちゃんとその手を取りたいなどと言ってもサラは許してくれるのだろうか。
「俺は、サラに合わす顔がない」
俺は下を向いてそうつぶやいた。
男の目をまともに見ることができなかった。




