第一話
その日はもう春だというのに、気温は真冬並みに寒く、さらに季節外れの雪まで降っていた。
最近ようやく咲き始めた道端の色とりどりの花たちも、雪のせいで再び白のベールに包まれて
いた。
昨日まではあたたかかったのに。
そんなことを考えながらまっすぐに伸びる道を歩いていた。
いつもと違う日にはなにかが起こりそうな気がする。
急に振り出した雪に嫌な予感をしながら、ならそんな面倒なことに巻き込まれないようにと歩く足も自然と早くなった。しかし、目的地はまだまだ先。憂鬱な気分になりながら果てしなく続く道のりを歩いていた。
嫌な予感というものは当たるものだ。だからこそ俺は、それを避けようと画策していたというのに、そんな努力はこのときすべて無駄となり、道に咲く花のようにあっけなく散っていった。
なぜならその少女は、空からはっきり俺だけを目指して降りてきたのだから。避けようがないというものだろう。
「やっと見つけた!」
少女は俺の前にふわりと降り立ち、嬉しそうにそう言った。
一瞬、雪と一緒に天使が空から降りてきたのかと思った。
そう思うくらいとにかく少女は白かった。肌は周りの雪と同化しそうなほど白く透きとおっており、髪も、さらにコートや靴などの衣服も白一色だったのだから。
少女は肌と同じくらい透きとおった桜色の唇をわずかに動かし、さらに言葉を続けた。
「ねえあなた、竜についてなにか知っていることはない?」
本気で面倒事を避けたいと思うのなら、俺はこのとき少女に背を向けて全力で逃げるべきだった。
いくら相手が空を飛んでいたとはいっても、全力で走れば逃げ切ることくらいはできたかもしれない。しかし相手はどう見ても十六歳くらいの少女であり、いきなり逃げるのは男としてどうだろうという安っぽいプライドがそれを許さなかった。
いや、それはただの言い訳だ。実際には、驚いてただ立ちすくことしかできなかっただけだった。
そんなわけで、気付けば俺は空飛ぶ不思議少女と向かい合っていた。
「竜?」
「そう、竜」
少女は大きくうなずいた。
「えっと、おとぎ話とかに出てくるあの竜?」
「その竜であっているよ。私、その竜を探しているの」
俺はまず頭に浮かんだ疑問をそのまま少女にぶつけてみた。
「えーと、なんで?」
「それは……」
すると少女は急に目をそらした。なぜかはわからないが少女はかなり動揺しているようだった。その姿はまるで、いたずらの言い訳を考える子供のようだ。
「会ってみたいから、かな。竜に」
「……」
まあ、知らない奴に会う理由なんてそんなものだろうか。
ただそれにしても、
「竜、か」
翼と爪をもち、火を吹く巨大な爬虫類であり、邪悪な生物として様々な物語に登場する存在。
それが一般的な竜のイメージだろう。
「ね、お兄さんはなにか知っていることない?私、手掛かりがなにもなくて困っていたの」
「手掛かりも何も、竜っていうのは実際にはいない空想上の生物だろう。そんなものどうやって探すというんだ」
ずっと言ってやりたかったことだった。
しかし少女は、
「ううん、違うよ。竜は実際に存在するの」
それを、首を横に振って否定した。




