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白き奏者のレクイエム  作者: 長月ヨウ
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第十八話

 それは一瞬の出来事だった。気が付けば俺は真っ暗な闇の中にいた。

 しかし、闇の中にいるはずなのに、なぜか目の前にいる男の姿をはっきりととらえることができた。

「さすがだね、リゼさん。あなたが呼ばない限り俺からこっちに来ることはできない。やっぱり俺たちの会話も全部聞いていたんだ」

 男は、なぜか誰もいないはずの場所にはなしかけていた。

「当前よ。だってそこの人間の選択であの子の運命は大きく変わるのだから」

 前方から声が聞こえてきたと思ったら、ひとりの女性が姿を現した。豪華な椅子に優雅に腰かけている。

 漆黒の袖まで長いドレス、真っ黒の長い髪、女の姿は周りの闇に溶けるように徹底して黒だった。

 驚いた。

 前方には誰もいなかったはずだ。

 それなのにこの女はまるでずっとそこにいたかのように、当たり前のようにそこに立っていたのだから。

「ふーん、その役目は俺じゃなかったってわけだ。リゼさんはそれもわかっていたの?」

「いいえ、確かに私はなんでも知っているけど未来までは見ることができないわ。そこの男を選んだのはあの子自身よ」

「未来は見ることはできなくても、リゼさんならどうとでもできたんじゃないの?前に言っていたじゃない。えーと、以前神様だったとかなんとか」

「ええ、その通りよ。私は神のちからをもったまま神の身ではなくなったわ。だからこそ、私は現実に関与することができる。でもあの子の人生なんだから、私が思い通りに決めてしまっても面白くないわ」

 女はくすりと笑う。そのしぐさは、子供っぽくありながらもほれぼれするほど美しく見事なものだった。

「それで、あなたたちはここになんの用かしら」

「あなたは全部知っているはずだよ。だからこそ、俺たちをここに呼んだんでしょ?」

「そうね、野暮な質問だったわ。今まで何があったのかも、どうしてここに来たかったのかもわかっているつもりよ。そして今あの子が、サラがどうしているのかも」

「あの子は無事なんだね」

 サラという単語に、体が反応する。この女もサラのことを知っているのか。

 そこであることを思い出した。

 そうか、この女か、サラが言っていたのは。神様からたしか人間の体をもらったのだと。

「ええ、もちろん無事よ。あの子は簡単には死なないわ。まあ、ちょっと大変なことにはなっているみたいだけど」

「大変なこと?」

「まあ、想定内のトラブルよ。何も心配する必要はないわ。大丈夫、あなたたちが納得するまで話し合うくらいの時間くらいはあるわ」

「そう、なら、そっちを優先させてもらうかな」

「ええ、そのための準備もできているわよ」

 女が左を向く。何もなかった空間に、テーブルとふたつの椅子が現れた。その上には、見たことがない華やかな菓子が所せましと並んでいて、椅子の前に二人分のティーセットが用意されていた。

「ありがとうリゼさん。さあ、ソウイチ。俺は君に言いたいことが山ほどあるし、君も俺に聞きたいことがあるはずだ。ここまで来て、もうあの子のことは忘れたいとは言わせないよ」

 男はそういいながら椅子にすわる。迷ったが、俺も男に倣うことにした。

「で、君はもうあの子の正体を知っているんだね。それしか、お前があの子をひとりで行かせる理由が思いつかない」

 君は怖くなったんだね、と男は鋭い目で俺を見る。今までのへらへらしていた顔はもうなかった。

 やはり、この男もサラの正体をはじめから知っていたわけか。それはおそらく、初めて声を掛けてきたあのときからすでに。

「………確かに俺はあのときサラと一緒にいることが怖くなった。突然正体を明かされて、どうしようもなくなったのは事実だ。しかし、どうしてそれ以外の理由が思いつかない」

「考えてみてほしい。あの子は竜だよ。人間に心を許すことがどれほど危険なことか、それは身をもって知っているはずだろう?」

「でも、あいつは俺に」

 そんな素振りは一度も見せなかった。

「ああ、君には違っていたよ。心を許すのを通り越して心酔していたと言ってもいい。つまり、それだけ君のことが好きだったんだろう。初めて君たちを見たときは俺も目を疑ったよ」

「だから、お前はあのとき俺たちに声を掛けてきたのか」

「まあ、理由はそれだけではないけどね。だけど知りたかったんだ。竜がそこまで好きになる人間がどんなやつなのかを。なんて言ったって、その立場はずっと俺がほしかったものだからね」

「俺じゃなくてお前自身がサラの隣に居たかったってことか?」

「そのとおりだよ」

 男はうなづく。

「なんのために」


「俺はあの子を守りたかったからだよ。彼女のただひとりの騎士になりたかったんだ」

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