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白き奏者のレクイエム  作者: 長月ヨウ
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第十七話

サラと別れて一週間が過ぎた。

 このころにはようやく、サラがいない生活にも慣れてきた。ただこれまでの生活に戻っただけだ。

 しかし、慣れるまでここまで時間がかかるとは思っていなかった。ぽっかり胸に穴が開いた気分になり、今までひとりでどう過ごしていたのかもなかなか思い出すことができなくなっていた。

 いつの間にか、それだけサラの存在が大きくなっていたということだろうか。

 簡単な仕事をこなしながらも、それ以外の時間はほとんど家の中で過ごしていた。家の中にはわずかにサラがいた痕跡が残っているからだ。

 しかし、いつまでもそんな生活を続けていくわけにもいかないだろう。

サラを追いかけられなかったのは自分のせいだ。俺自身の弱さが、この結果にしたのだから。

 なら、いつまでもサラを思って閉じこもっているわけにはいかない。きちんと現実を受けとめて前を向いていくべきだろう。

「久しぶりに、街を歩いてみるか」

 また、独り言をつぶやいていた。最近かなり増えている。サラが今でも隣にいるような気分になるからだ。

 最近は仕事の用でレンジの店に行くくらいのことしかしなかった。

 賑わう大通りを歩いてみるのもいいだろうし、静かな公園でゆっくりするのもいい。目的もなくぶらつくのは俺の趣味ではないが、気分転換にはなるだろう。

 家を出る。さて、どこに向かおうか。

 と、考えたところでそうだと思い出す。書店に顔を出すにはどうだろうか。

 最近はご無沙汰だったが、本を読むことは嫌いじゃない。むしろ、知識が頭の中に刻まれていくあの感覚は心地の良いものだ。どんな本を読むのかによっても変わってくるが、知識が増えるということは、俺みたいな仕事をしているものにとっては生き残る手段が増えるということでもある。

 まあ、どれだけ知識を多く詰めても、経験には勝ることはないのだが。しかし、そればかりを当てにしていたら命がいくつあっても足りないだろう。

 賑わう街の中を歩いていると、サラと並んで歩いていたことが鮮明に思い出される。

 そうだ、たしかあのときあの甘味処の前を通って……。

「あっ、おにーさんひさしぶり」

 そしてこんな風に声を掛けられたんだっけか。

「おまえ……」

 サラのことがあって以来、この男と会うのもなんとなく気まずくて無意識に避けていたため、この店の前を通ることはなかった。

 店のほうを見ると、前回と同じように大量のダンゴを脇に置いて男が片手をあげていた。

 服装は相変わらず見たこともないような異国のそれだった。

「ようやく俺に会いに来てくれたんだ。しかも、約束通りひとりで。それなら俺も、前に教えられなかった情報を教えてあげるよ」

「………」

 しかし、俺は男の言葉にとっさ反応することができなかった。

 今日ここを通ったのも偶然で、とくに男に会いに来たわけではない。

 それに、サラの話はあまりしたい。サラのことは、俺の中ではもう忘れたい存在だった。

 俺は気まずくなって、男から目をそらす。

 男はそんな俺の様子をみて首をかしげた。

「あれ、もしかしてなにか落ち込んでいる?おにーさん、前会った時のあの子みたいな顔をしているよ。もしかして喧嘩でもしたのかな。俺でよければ話でも聞くよ」

 男は心配そうにそう声をかけた。

 こいつ、前はうさん臭さしか感じられなかったが本当はいい奴なのかもしれない。

 いや、そんなことはどうでもいい。早くこの場を立ち去りたかった。

「サラの話は、したくない」

 そう言って、男に背を向ける。そのまま早足で立ち去ろうとした。しかし、そうする前に男は俺の腕をがしっと掴んだ。

「おにーさん、それってどういう意味かな」

 なんだ、こいつ急に顔つきが変わった。

 以前にも思ったのだが、どうしてこの男は俺たちのことにこんなに踏み込んでくるんだ。

「サラは、もういない」

 男は、は?という表情をつくる。

「それって」

「だから、あいつはもう俺のところにいないという意味だ。もともと成り行きで一緒にいただけだ。お前のはなしを聞いた次の日に、セルリアを飛び出していったよ」

「………君はそれを黙って見ていたのか」

 男は低い声でそう言った。今までと明らかに違う様子に、背筋が凍っていくのを感じる。

「ああ」

 その通りだった。だが、そうはっきり言われると、さらにみじめな気分になる。

 俺の返答を聞いた男は、声のトーンを落としたまま話を続ける。

「どうして君はあの子を追いかけなかった」

「どうしてって、そりゃあ、俺にも生活があるからだよ。そんな終わりがいつあるかもわからない旅に簡単について行くわけにはいかないだろう」

 俺はそのとき感じていた気持ちを隠して、もっともらしい理由を男に突きつけた。

 それに、あのときのサラの決意は固かった。なにを言っても旅にでることはやめなかっただろう。

「君はバカだ。俺はあのとき君に言ったはずだよ。もし、あそこに行くようなことがあるならあの子のことを守ってほしいって。それは、君にならあの子を任せられると思ったからだよ。それなのに、ひとりで行かせるなんて」

「まて、どうしてお前はそこまでサラのことを気にかける。この間、はじめて会ったばかりなんだろう」

「ああ、あの姿の彼女と会うのはあのときが初めてだよ」

 俺は男の言葉をとっさに理解することができなかった。

 しかし、少し考えて気が付いた。

 サラは竜だ。

 それに、人間の体をもらったのは最近だと言っていた。ならこの男は、以前竜の姿であるサラと会ったことがあるということだ。

「それが、どうしてサラにこだわる理由になる」

「……どうやらお互いいろいろ聞きたいことがあるみたいだね」

 お互いをにらみ合う。

 どうしてこの男はそこまでサラに執着するのか。その理由を知れば、サラのことが少しでもわかるのではないかと思った。

 もう、サラのことを忘れたいという気持ちはどこかに消えていた。代わりに、もっと知りたいという思いいつの間にか湧き上がっていた。

「場所をかえようか。ついてきて」

 そう言って男は立ちあがる。

 まだ、団子が大量に残っているがそれどころではないらしい。

 男が歩き出したので、俺も黙ってついて行ことにした。


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