第十二話
その途中にある書店である本が目にはいった。
それは、昨日男が見せてくれたものと同じ絵本だった。表紙にある竜がやけに目を引く。人気があるのか入荷したばかりなのか、その本は入り口の一番目立つところに置かれていた。
俺はその絵本を手に取る。やはりなにかの手掛かりになるかもしれないし、一冊くらい持っていてもいいだろう。レンジの店に着いたらサラにあげようか。
そんなことを考えながら店主を探す。店主はすぐに見つかった。
「おっ、兄ちゃんもその本が気になるのか」
その本を見たとたん、少し小太りの店主は上機嫌になった。
「なんでも有名な作家がかいたとか。絵がきれいで内容も面白いてことで、売れ行きはかなり好調なんだ よ。入荷当日なんかは、店の前に行列ができたりして、セルリアではこの絵本はちょっとしたブームに なっているんだ。書店の店主としてはありがてえはなしだよ」
へえ、この本そんなに人気があるのか。自然とあの旅人の顔が思い浮かぶ。
よほど気分がいいのだろう。体格のいい店主は、がははと大きな声で笑った。
会計を済ませ、絵本を片手に店主に見送られながら外にでた。
レンジの店に着いた。
扉を開け、中に入るとレンジはなぜか顔を真っ青にさせて立っていた。俺が近づいていってもぴくりとも反応しない。
店の中をぐるりと見渡してみる。しかし、サラの姿はどこにもなかった。
「おい、レンジ何があった。サラは、どこに行ったんだ」
レンジに尋ねるも、放心した状態でまったく反応がない。
いったいなにがあったんだ。
俺は、レンジの肩をつかんで大きく揺らした。しばらくすると、やっとレンジは俺に気付いたようで、のどから振り絞るように声をだした。
「……ソウイチ、か?」
「ああ、そうだよ。お前、いったいどうしちまったんだ」
「……サラちゃん」
「え?」
「サラちゃん、あの子、人間じゃないのか?」
レンジの思ってもみない発言に思考が停止した。
今、なんと言った?
レンジはぽつりぽつりと、これまであったことをはなし始めた。
「俺さ、あの子に店の商品に整理を手伝ってもらっていたんだよ。持っていたものが少し重かったみたい
でさ、あの子の足元が少しふらついていたんだ。だから、俺も一緒に支えようとして、そのときに少し 手が触れたんだ。そのとき体の芯まで凍り付いていくような気がしたよ。あの子の手それくらい冷た
かった。あれは生きている人間の温度じゃねえよ。もしかしてあの子、もう死んでいる人間なんじゃな いか?」
レンジの言っていることがよくわからなかった。
サラが死んでいる人間?だけど、たしかにサラは俺の目の前で生きていたじゃないか。
ちゃんと喋って、動いて、笑っていた。
それはレンジも見ていたはずだ。
しかしレンジの体は、思い出したかのように急にガタガタと震えだした。
「……それで、サラは、どこに行ったんだ?」
レンジは震える指でドアを指さした。あそこから外に出ていったのだろう。
レンジのことも心配だが、とりあえず今は、サラを探すほうが先か。
俺は外に向かって駆け出した。
いつの間にか、しっかり手に持っていたはずの絵本が床に落ちているのにも気が付かなかった。




