プロローグ
夢を見た。
大剣を両手に握った男が、狂気じみた眼差しでこちらを見ていた。
隣には仲間の首がふたつ転がっている。
先ほど私の目の前で、真っ赤な血が花火のように大きく飛び散ったのだ。
私は目の前の男に恐怖する。
どうして、私たちがこんな目に。
「悪く、思うなよ」
よく見ると人間の目にうっすら涙がにじんでいるのがわかった。
ああ、この人間も苦しんでいるんだ。私たちと同じように。
でもその苦しみは、私たちの苦しみとは決定的に違っていた。
彼はひかりを求めて上へ上へと這い上がろうとして必死にもがき苦しんでいるのに対して、私たちは絶望にただ身を沈めているだけだったのだから。
私たちの苦しみに希望など決して存在しない。
深い闇のなか、ただ死を求めるだけだった。
ああ、ならここでその死を迎えるのもいいだろう。
私もやっと仲間の待つ場所へ向かうことができる。
そう思うと、先ほどまで私の体をガチガチに支配していた恐怖がだんだん薄れていくのがわかった。
自然と笑みがこぼれる。
さあ、その剣で仲間と同じように首を落とせばいい。
そう思った瞬間、目の前の男が大剣をふるうのが見えた。
私の夢はいつもここで終わる。
「起きたのね」
女が退屈そうにこちらを見ていた。
いつものように豪華な椅子に足を組み、優雅に腰かけている。
「またあの夢をみた。絶望と狂気で満ちた世界で、真っ赤な血が飛び散る夢。ねえ、あれはあなたが奪った私の記憶?」
女は何も答えない。
まあそうよねと思う。今まで何十回とこの女に質問してきたけれど、女がその問いに答えたことは一度もなかったのだから。
「選ぶときがきたわ」
質問には答えず、かわりに女はそんなことを言い出した。
「あなたは好きなほうを選べばいい。ここに残るか、それともここを出て、新たな出会いを探しにいくのか」
「ここを出ていいの?」
女の言葉に私は驚いた。
この暗いなにもない場所から出ていく。それは彼女が、今まで私に固く禁じていたことだったのだから。
「ええ、あなたはもう自由よ」
ここに残るか、出ていくか。突然の問いかけにもかかわらず、私の答えはもうとっくに決まっていた。
「なら私はここを出ていく。ここを出て、竜を探しに行く。もしかしたらまだ生き残りがいるかもしれないから」
「……」
女は何も答えない。
「だめなの?」
女は少し何かを考えていたようだが、私の言葉に顔を上げてにこりと微笑んだ。
その笑顔の裏に何かたくらみがあるような気がして、なんとなく気味が悪かった。
「いいえ、何をするのもあなたの自由よ。あなたはここを出ていくというのなら、私はひとつあなたの手助けをしましょう」
「手助けって?」
「これをあげるわ。竜を探すのにもきっと役に立つはずよ。けれどこれは、あなたにとってとても脆くて壊れやすい。そしてこれをあげられるのは一度だけ。それを忘れないで」
「でも、これは」
私は受け取るのをためらった。女が取り出したのは、そうやすやすと手に取れるものではなかったからだ。
「何も心配することはないわ。これは、持ち主が自ら手放したものなのだから」
「そう……」
「さあ、覚悟が決まったのならもう行きなさい。つらいこともあるでしょうけど、きっと得られるものもたくさんあるわ」
「そうだね、じゃあ行ってくる」




