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新日本国にて


俺達が乗ったヘリ“SH-60シーホーク”は、新日本国首都“妙高みょうこう”に近づいた。


パイロットが報告する。

「レーダーに感あり。11時方向から2機の航空機が接近中です。レシプロ戦闘機と思われます」


「仲間が送ってきた迎撃機げいげききらしいな」クリフが言う。


迎撃機? 俺はうめいた。こんなところで新日本国相手に戦いたくない。

勘弁かんべんしてくれ。お前が乗ってるのを向こうは知らないのか?」


「一応伝えてある」


「なら大丈夫だろう。いくら何でも仲間ごと一緒に撃つまい」


「さあ、そいつはどうかな。必要ならあいつらは発砲を躊躇ちゅうちょしない。俺が居るからと言って安心しない方がいいぜ」


「……人気が無いな。仲間には愛想あいそ良くしておけ。恨みを買えば後ろから撃たれる」


「余計なお世話だ。少なくとも俺はお前よりマシだ。仲間から嫌われてはいないからな」


間もなく二機のプロペラ式戦闘機が視界に入った。暗緑色に塗られた機体に大きな日の丸。

零戦より少し胴体が太い。あれは……恐らく紫電改だ。第二次世界大戦末期に造られた帝国海軍の戦闘機だ。


(紫電改のN1K5-J型ですね)妖精が脳内でささやく。


一機が主翼を交互に振り合図をした。俺たちのヘリが速度を落とすと、大きく回り込みヘリの鼻先を押さえる。先導するつもりらしい。残りの一機はヘリの後ろに位置をとった。結局シーホークは二機の紫電改に挟まれてしまった。後ろの機はいつでもこちらを撃墜出来る。


「こちらは要注意の“客”って事か」


「大人しくしていろ。そうすれば撃たれる事は無い…………筈だ」


「そこはもう少し自信を持って断言してくれ」


「変なマネをすれば間違い無く撃たれる」


「そこだけ自信を持たれてもな」


ヘリのパイロットが言う。

「ついて来い、と言っています」


俺はうなずき、“シーホーク”は進路を変更した。首都から外れた郊外へと誘導される。



しばらく飛ぶと、軍用らしき小規模な空港が見えてきた。不思議な事に地上に航空機の姿は無い。

あるのは短めの滑走路だけだ。


「あそこに降りろ、と言っています」


「言うとおりにしてくれ」


「了解」


ヘリは降下態勢に入る。

二機の紫電改は着陸しようとはせず、上空を旋回している。俺たちが逃げようとすれば、即座に撃ち落としてくれそうだ。


妖精が脳内でささやく。

(近くに疑似人格の存在を確認。二体います。どうやら兵器召喚システムの第一疑似人格のようです。そいつらのマスターも二人。そばにいます)


(クリフ以外の召喚システムか。まあ予想通りだな。紫電改もそいつらに呼び出された機体だろう……どういう能力を持ってるか分かるか?)


(詳しくは分かりません。少なくとも一体は、航空機の召喚に特化したタイプでしょう。私のような汎用型では無いと思います。向こうは旧式です。能力は限られます)


(コントロールは奪えるか?)


(難しいです。データベースに無い型で、クリフと同じようにはいきません。時間がかかると思います)


一体は、航空機召喚の専用機だと妖精は言う。残りの一体は……地上兵器に特化したタイプだろうか。それとも航空機召喚タイプがもう一体か。

軍艦の呼び出しはクリフの担当だし、ここに居たとしても陸上では戦力外だ。


(何にせよ向こうは二体だ。旧式でもあなどるなよ……何かあったら、こちらも召喚して反撃する)


(了解。トライデント・システム起動します。あんな戦闘機、いつでも叩き落としてやりますわ)


ヘリは、軽いショックと共に着陸した。メインローター停止。

二台のジープがこちらにやってくる。それぞれの車には女と男が一人ずつペアで乗っている。合計4人。


男の二人は両方とも軍服姿だ。

女の一人は長身で、黒づくめの服を着た秘書みたいなタイプ。もう一人の女……と言うよりこっちは10代の少女のように見えた。紺色のスーツを着ている。


(女の方は二人とも疑似人格です。男の方はマスターと思われます)

妖精が俺の脇に実体化して来る。今回は地味なスーツ姿だ。久しぶりに彼女の緊張した顔を見る。


4人がジープから降りた。

男の一人は爽やかな好男子風だ。もし自衛隊員だったら、間違いなく隊員募集のポスターに使われるだろう。

もう一人は目つきが鋭く精悍せいかんなタイプに見える。まあ目つきの鋭さだけなら俺も負けてはいない。精悍せいかんさで勝っているかどうかは、女性陣に聞いて欲しい。口が悪いシルバームーンは除いてだ。


男達は何事か言い争っているように見えた。

(あいつら何やってんだ)俺は眉をひそめる。


結局、さわやかな方が口論に勝ったようだ。目つきが悪い方は嫌嫌いやいやながらついてくる。

爽やかな方がクリフに話しかけてきた。白い歯が眩しい。


「ご苦労だった。大霧はどうした?」


「恵子はまだ金剛だ。俺は客を案内する為に先行した」


「この人がお前の言っていた日本人か? 新型の召喚機使いの……」


目があった俺は、自分から名乗る。

「風瀬 勇だ。ユリオプス王国の軍を率いている」

妖精もにっこり微笑み自己紹介をした。

「召喚システムの疑似人格で渡辺ユカと言います。システム名称は“トライデント”。よろしくお願いしますね」


「あなた方は大霧を助けてくれたそうだな。大変感謝している。俺は加賀 秀太郎と言う。新日本国特殊作戦部所属の少佐だ」


俺は差し出された手を握った。

加賀の隣に控えていた、静かな印象の黒ずくめの美人――秘書のようなタイプの方だ――が自己紹介した。

「加賀様にお仕えしている疑似人格の明日花あすかと申します。機構名称は試作型召喚機構“三日月みかづき”です。主に陸上兵器の召喚を担当しております」


「そして、あそこに居るのが……おい、石川大尉。どこへ行くつもりだ?」


「もう十分だろ、少佐? あんたの顔を立てて、ここまでつきあってやったんだ。俺は基地に戻るぜ。俺は少佐に会いに来たんであって、そこの唐変木とうへんぼくに会いにきたんじゃない」


唐変木とうへんぼくと言うのは俺の事らしいな。


「すまない、風瀬さん。悪く思わないでくれ。こいつは変人でな。それなりに腕は立つんだが……おい、止まれっ! 戻ってこいっ! 命令だ」


目つきの鋭い男は、こちらを振り帰った。敵意ある目で俺をにらむ。


「俺は特殊作戦部所属 石川 十六だ。軟弱野郎、耳の穴をかっぽじって良く聞け。お前はここには不要な人間だ。とっとと自分の国に戻れ。未来の日本からやって来たかどうか知らんが、お前の助けなぞ俺達に必要ない」


「分かった。あんただけは笑って見殺しにする事にした。礼儀知らずは嫌いでね」


「そうかよ。そりゃあ良かったな」


奴はジープに向かう。そして右手を上にあげた。てのひらをヒラヒラさせる。

小柄の少女が、慌てたように男の後を追う。そして立ち止まり俺の方を振り返った。


「す、すみません。ご主人は口が悪くて。私は大尉におつきしている疑似人格の小百合さゆりと申します。機構名称は……」


「何やってんだっ! 小百合! 早く来い。そんな馬鹿は相手にしなくていいっ!」


「機構名称は……し、試作型召喚機構“七星ななほし”です。こ、航空機の呼び出しが得意です。ごめんなさい。私はこれで…… 待ってくださいっ、大尉! 置いてかないでくださいっ!!」


少女が乗り込むとジープは走り去って行った。


なるほど。紫電改はあの男が命じて召喚させたものか。

どうりで客を案内するには、戦闘機どもは敵意に満ちていた。あの男にはお似合いだ。



恐縮した加賀少佐にさんざん謝られた後、俺達はジープで軍の宿泊所に向かう。


「すまない。あいつの事は忘れて欲しい。我が軍はあなたを歓迎する。今日はゆっくりしてくれ。これからの事は明日、相談させて欲しい」


道すがら、加賀少佐はこの地区の戦況のあらましを伝えてきた。想像以上に悪い。邪神どもが優勢だ。

言いにくそうに、少佐は最後にこう言った。「もし我が国の防衛に協力してくれるなら、それなりの代金は払う。クリフには止められたが、無報酬であなたがたを使うつもりは無い」


「クリフが?」


「あなたは金では動かない、と言われた」


クリフはこちらを向かず、外の景色を眺めている。そして余計なセリフを放つ。

「少佐、言うのを忘れていた。この男には金より女だ。試してみてはどうだ?」


「あなた、人のマスターを盛りのついた獣みたいに言わないでっ!」


「違うのか?」


「英雄、色を好むと申します。異性に弱いのを恥じる必要は無いのではないでしょうか。殿方とのかたのたしなみですし」と少佐おつきの疑似人格、明日花が言う。黒ずくめの長身の美人に、真面目にそんな事言われても反応に困るのだ。


「女をあてがわれるのは趣味じゃ無い。俺は生まれつきのハンターでね。口説くのは自分でやる主義だ。金の方も足りている」


少なくともそれが俺の理想ではある。多少の強がりは認めて欲しい。

ついでに“グアルディの杖を渡してくれるなら、指揮下に入るかも知れんぜ”と言おうと思ったが止めておく。クリフの思惑おもわくが分からないが、余計な一言でプランを崩壊ほうかいさせるリスクは避けるべきだ。

奴は完全に信用は出来無いが、だからと言って敵では無い。少なくとも今のところは。


少佐は残念そうだ。「そう言われるんじゃないか、とは思っていた」


「俺はまだ態度を決めていない。これからの行動に関しては王国と相談させてくれ」


「分かった。明日の昼頃に迎えに来る」


ジープは小さな洋館の前で止まった。軍がらみの宿舎しゅくしゃと聞いていたが、そんな安っぽいものでは無い。

目立たない建物ながらも造りは良く、気品もあった。貴族だって泊まらせられるだろう。

恐らく、軍の上級幹部用の宿泊施設だ。


クリフも当然のごとくジープを降りた。


「あなたもここに泊まるの?」妖精が嫌そうに言う。


「当然だろ。いちゃつきたいなら勝手にやってくれ。邪魔はしないし興味も無い」


(マスター!)

隣に居る妖精の声が脳内で爆発した。ちらっと横は見たが表情は変わっていない。何の内緒話だろう?


(いちゃつかないからな)


(そうじゃ無くてっ! “左腕”のエリスさんから緊急通信)


同時に視界に文章がフラッシュした。

“女を待たせる男は一回、死ぬべき。もう私は着いているわよ”

それはデート相手の邪神“エンケパロス”からの怒りの言葉を転送したものだった。

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