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白い制式銃


(妖精。派手にいくぞ)


「もちろんです。マイ・マスター」彼女は俺を支えながら答えた。


景色が揺らぐ。

来る。敵が実体化してくる。派手にいくぞと言ったものの、俺に考えがある訳では無かった。

頼みの綱の妖精――トライデント・システム――は能力を使い切っている。今呼べるのは個人用火器のみ。


ダダダッ。


大霧の持つ試作銃、一五式改いちごーしきかいが火をく。

雷撃属性が付与された魔導弾が敵に降りそそいだ。敵の第一波が消し飛ぶ。

すぐに弾を撃ちつくし、彼女はリロードに入った。鬼切おにきりの疑似人格――クリフが銃で援護する。


だが……間に合わない。

どんどん実体化してくる敵の第二派、第三派。

増えるのが早すぎる。

このままでは押しつぶされる。


シルバームーンは瀕死ひんしのレイクを治療中だ。

アパッチは、出現してきた敵のアパッチと空中戦を始めている。こちらを援護えんごする余裕は無い。


くそっ。試すしか無い。


「ルール13発動っ!! 早くっ!」


妖精は、はっとしたがすぐに応えた。


「了解。トライデント・システムは発動に同意します」


インフィニット・アーマリー社の社内規定ルール13。発動すれば召喚制限が取り除かれる。召喚オペレーターの最終手段だ。会社は文句を言うだろうが、この際知ったことでは無い。

前に戦術核を呼び出した時も、このルールを使った。


だが今、必要なのは核じゃ無い。


召喚しょうかん。一五式改」


大霧の一五式改がもう一丁必要だ。あの銃には命中補正がある。ロクに腕が動かない俺に扱える銃はそれしか思いつかなかった。それに一五式改は強力だ。もう一丁あれば……


「駄目です。召喚出来ませんっ!」


何故だっ? 何故、召還出来ない?

大霧の国は、日本人が造った国だ。その国が造った銃器なんだ。

妖精は人類の造った銃器は全て呼べる。ルール13で一五式改の召喚は可能な筈だった。


だが、右手が何かに触れる。

何かが実体化してくる。重さを感じる。

手の中に現れたのは、初めて見る白い銃。一五式じゃ無い。


「試作品は呼べません。でも、呼び出しに応えた別の銃が一つ」


片手で、その白い銃を前に向ける。もう狙いをつける力は残っていない。


「その名は……新日本国制式装備 三○式(さんまるしき)対魔小銃ですっ!」


引き金を引いた。サイレンサーをつけたような低い発砲音。


敵の中で爆発が起こる。いや、あれは爆発じゃない。

音もせずに、ふくれ上がる白い光の球。敵を次々と飲み込んでいく。

光に触れた敵は……直ちに崩壊ほうかいした。ちりと成り、きりと成って消えていく。


これがこの白い銃の力なのか。対魔小銃……破魔はまの力を持つ魔銃。


「まだ来ます!」


俺は続けて引き金を引く。敵の第4派、第5派、いくら来ようが三○式の威力はすさまじかった。一発で大群が消滅していく。


俺は最後の弾丸を発射した。


「時間切れだっ!」クリフが叫んだ。「あいつらのな」


轟音ごうおんとどろく。

続けて、二度、三度、低く爆発音が響いた。神殿の方向からだ。煙が立ちのぼるのが見える。


ようやくだ。ようやく来た。

戦艦金剛、重巡高雄の主砲弾が神殿を破壊している。


「風瀬さんっ! 敵がっ!」


神殿の破壊と同時に、敵が消えていく。増援も止まる。

やはり、あいつらと神殿は何らかの関係があったのだ。

俺の予想は正しかったらしい。


「助かった……らしいな」クリフがつぶやくように言う。


俺は、とっておきのセリフを言おうとした。考えておいた格好いいセリフだ。かなりの自信がある。

こいつも俺の事を見直すだろう。


だが次の瞬間、俺は銃を……取り落とす。


そうか。

もう……限界なんだ。

身体の感覚はとうに無い。血も止まっていない。湧き出す血で身体は真っ赤だ。


俺はゆっくり崩れ落ちた。


「マスター! しっかり」妖精の声が聞こえた。「風瀬さんっ!!」 大霧が駆け寄って来る。

覚えているのは……そこまでだ。

ああ……それにもう一つ。他に聞こえた言葉があった。


(またな。陸軍出りくぐんで


白い銃……三○式は確かに……そう言った。



気がつくと目の前には見慣れた少女の姿があった。


「気がついた?」


「ああ」


俺はうめいた。気分は上々とは言いがたい。無理矢理に半身を起こす。

シルバームーンの姿がそこにあった。彼女は明らかに疲労していた。

傷の治療をしてくれたらしい。血は止まっている。感覚が戻っている。


「治癒魔法をかけてあるわ。でも少し安静にしてて」


「感謝する。レイクは?」


年老いた竜、レイクは、ぐったり横たわっている。だがさっきは焼け焦げていた皮膚が、元のブロンズ色を取り戻しているように見えた。


「大丈夫……だと思う。私の持っている最強の治癒魔法を使ったわ。でもよく分かったわね。魔法は詠唱えいしょうが中断されれば、発動出来ないってことを。邪魔されたら彼は危なかった」


「馬鹿にしないでくれ。俺だって基本的な知識くらいあるさ。ジーナから教えてもらった」


王国の主席魔術師ジーナと、もう随分会っていない気がした。分かれてから一月は経っている。

無性に彼女の顔を見たくなった。


「無理して立たない方がいい」大霧がそっと支えてくれる。「本当に大丈夫か?」


「ああ。シルバームーンは竜の中でも優れた魔法の使い手だ。彼女なら間違いは無い」


シルバームーンは、大霧に向かって得意そうな顔をしようとした。がつらそうだ。

無理をさせてしまった。


「シルバームーン……殿。風瀬さんを治してもらってありがとう。お会いしたときの非礼を許して欲しい。謝罪する」


「わ、分かればいいのよ。うん」


大霧はシルバームーンに一礼した。そしてにっこりと微笑ほほえんだ。

地面に転がっている三○式対魔小銃に視線を向ける。


「それにしても凄い銃だな。日本の装備か? たいしたものだ」


「いいや。それは新日本国製の銃だ。君の国が造った銃だ」


「冗談が好きだな。こんな銃は我が国には無い。初めて見る型だ」


そうか。多分、こう言うことだ。

大霧の試作銃を呼び出そうとしたら、代わりにこの銃が現れた。

つまりそれが意味することは。


「大霧の持っている一五式改の完成形がこれなんだと思う。三○式対魔小銃と呼ぶそうだ」


「三○式だと? つまり……これは……我が国の未来の銃?」


俺は妖精を見た。彼女は困ったように微笑む。

(マスター、私にも分からないのです。何でこの銃を召喚できたのか)と脳内に声がひびく。


大霧が、おそるおそる三○式に触れようとした。

だが触れる直前、その白い銃は光の粒と成って消え失せてしまう。

彼女は苦笑した。


「私は、銃に嫌われてしまったらしい」


「未来になれば、いくらでも触れられるさ。なんせ君の国の制式装備だ」


「それまで生きていればいいのだがな」


「生きているさ。ほら言うだろ? 美人長命って」


「それを言うなら美人薄命だ。第一、私は美人なんかじゃ……」


不機嫌そうな声が聞こえた。

「カザセ、いい加減にしろ。それに……まだ終わっていない」


クリフが銃を向けている先に、男が一人。

着飾った銀髪の男だ。両手を上にあげ、降参のポーズをとりながらニコニコと嬉しそうに微笑み、ゆっくりと歩いてくる。


降参こうさんです。降参しま~す。第一ラウンドはあなた方の勝ちでいいです。その銃で撃たないでくださいよ?」


「そこで止まれ。クソ野郎」クリフが警告する。


「乱暴な人だな。いや人では無いようですね。いずれにしろ初対面にはもっと礼儀正しく……ところで、あなた方の勝利を祝って拍手をしたいのですが、腕を降ろしていいですか? 」


次の瞬間、無数の光の矢が男に突き刺さる。

シルバームーンの攻撃魔法、マジック・ミサイルだ。



無数の矢が男を貫いた……筈だった。


ひどいなあ。礼儀って知ってます? 可愛らしい銀竜さん」 男はわざとらしく傷ついた顔で抗議する。


「ご希望通り、銃は撃ってないわ。魔法が嫌いなら最初に言っておいて」


シルバームーンが少女の姿を捨て、本来の銀竜の姿に戻る。

俺はゆっくりと立ち上がった。


「カザセ。休んでて。今度は私も戦う」


「銀竜さん、調子に乗らない方がいいですよ? 私は竜は嫌いなんです。中途半端な実力しか無いクセに、プライドだけはやたら高い。ああ、いやだいやだ。……それにあなたに用は無い。黙っていてもらえると助かります。私はカザセさんのファンでしてね。彼に会いに来ただけです」


「男のファンは願い下げだ」


「冷たい人だ。ならば、次は女性の姿で」


「無駄な事だ。俺は礼儀知らずが嫌いでね。特にお前のように女へ無礼ぶれいな奴はな」


俺は自分の銃を呼ぶ。

「召還。三○式対魔小銃」

腕の中に再び現れる白い銃。


「そろそろ名乗ったらどうだ? 邪神スプランクナ」

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