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新日本国へ


「王命により拘束こうそくいたします。カザセ殿にこの国を離れられては困るのです」


レイクは、そう言うと巨大なドラゴンの姿に変わった。

どうやら、レガリア王はレイクを使って出国を阻止する気らしい。邪神が俺の留守のすきを突いて襲って来る事を心配しているのだろう。自国の安全を第一に考える王の気持ちは分からなくも無い。


だがそうなる可能性はとても低い。それが俺の出した結論だ。


「そこをどいてくれ。俺がどこにいようが邪神はこの国に手を出さない。少なくとも今のところはな」


「ほう? そう思う理由をお聞きしても?」


「あいつらが襲ってきたら俺が復讐するからだ。邪神は俺を追い込めない。追い込めば何をしでかすか分からないからな……レガリアに万が一の事があったら、俺が笑って済ますと思うか?」


「なるほど。そう言う事でしたら、ますますカザセ殿を行かせる訳にはいきません。わしのやろうとしている事は正しい」


「何だと?」


レイクは翼を大きく広げ、宙に舞い上がる。こいつは本気だ。

俺を力ずくで押さえつける気だ。たとえ痛めつけてでも止める気だ。


「……言ってる事が分からないのか?」


「単独行動は危険すぎます。わしが邪神ならカザセ殿の殺害を狙うでしょう。死ねば復讐なぞ出来ませんからな。……どうしても行くと言うならわしを連れて行かれよ」


「……時間が無いんだ。お前を連れては行けない。いくらなんでもドラゴンは亜音速で飛べない」


「理由になりません。ご自身の安全を最優先で考えられよ……分かりました。これ以上の会話は無駄のようです。お覚悟を」

レイクは降下を開始した。ドラゴンの凶悪なかぎ爪が俺に迫る。


その時、脳内に響く声。

――妖精だ。


(実体化、今!)


雷鳴のような音がとどろく。兵器の出現時に発生する召喚音。

レイクは、突然現れた邪魔者に戸惑う。

垂直離着陸が可能な攻撃機、ハリアーⅡが俺を守るように空中に浮かび、ドラゴンと対峙したからだ。


ようやく来たか。


『機関砲。撃てっ!』


『アルファ1、了解』


ライオンの咆哮ほうこうのような射撃音が周囲に響き渡る。

固定武装のGAU12イコライザーが火を噴いたのだ。


不意を突かれたレイクは、25ミリを雨のように浴び体勢を崩す。

それでもドラゴンの皮膚は貫通しない。薄青い魔法の光がドラゴンの全身を守る。

レイクは反撃しようと口を開く。ドラゴンブレスで反撃されれば、ハリアー攻撃機はひとたまりも無いだろう。


……だがブレスはやって来ない。

ドラゴンブレスを吐ける訳が無いのだ。低高度でホバリングするハリアーを攻撃すれば俺まで巻き込む。

レイクは俺を拘束する気だが、殺すつもりでは無い。


「そこまでだ。マーベリック対地ミサイルがお前を狙っている……直撃を喰らえば、いくらドラゴンでも大怪我だ。下手をすれば死ぬかもしれない……悪く思うな。こっちはエトレーナの運命がかかっている。助けを待っている仲間の命もな」


ブラフは得意な方だが、この老ドラゴンをだませる自信はあまり無かった。

脅しを無視されても、俺にミサイルは撃てない。


しかし、レイクはため息をつく。

「……いいでしょう。わしの負けだ。司令官の実力は知っていた筈でしたが、油断したようです。不意を突いたはずがこのザマです」


「分かってくれたか?」


いやおうもないでしょう。しかし安心するのは、まだお早い。あちらをご覧くだされ」


レイクの視線を追うと、王宮の上空から多数のドラゴンが飛んでくるのが見えた。

……5騎いる。近衛兵このえへいだ。


どうやら詰んだのは、レイクでは無く俺の方らしい。

さすがに、一度にドラゴン5騎の相手をするのは無理だ。


……だが地上から急上昇してくる銀色の竜が見える。シルバームーン。


『そこの近衛兵このえへいたち! 止まりなさいっ!』


ドラゴン達は戸惑い速度を落とす。

『姫様。いけません。我々はカザセ殿をお引き留めするだけです』


『うるさいっ。止まれっ!』


久しぶりに見る銀竜の姿のシルバームーンは、俺の方を見た。声が脳内に響く。

『カザセ、こっちは何とかするわ。早く行って!』


『ありがたいが、拘束こうそくは王の命令だ。お前が矢面やおもてに立つのはマズい。反逆罪になるぞ』


『いいからっ! そう思うなら、とっとと行って、とっとと帰って来なさいっ!』


レイクが二度目のため息をついた。さっきより大きなため息だ。


「姫様にああいう真似をさせる訳にはいきませんな……カザセ殿、どうぞ行ってください。わしがあいつらを止めます」


「いいのか?」


「良くはありません。しかし、わしと王の仲です。投獄とうごくまではされないでしょう」


「すまない。恩にきる」


「ご武運ぶうんをお祈りいたします。……我らが偉大なる始祖しそよ、どうかカザセ殿をお守りください」

レイクは大きく羽ばたくと、シルバームーンの元へと飛び去った。


心苦しいが出発するなら今だ。

ハリアーは可変ノズルを吹かしながら着陸した。

俺は後席に乗り込む。もたもたしている暇は無い。パイロットスーツは無しだ。

戦闘機動をする訳では無い。ヘルメットさえ身につけていればなんとかいけるだろう。


『アルファ1、離陸開始』


疑似人格のパイロットは俺にそう告げ、TAV-8BハリアーⅡは大空に舞い上がる。

……ふと誰かに呼ばれた気がした。キャノピー越しに地上を見るとエトレーナがこちらに向かって手を振っている。

彼女と別れの挨拶は済ませてあったが、見送りに来たかったらしい。

大声で何かを叫んでいる。


「絶対、生きて帰って来てくださいっ!」


ペガサス105ターボファンエンジンの轟音ごうおんのせいで、もちろん声は聞こえない。

だが俺には彼女がそう言っているのが、確かに聞こえた。



『高度1万まで上昇。その後、第1ウェイポイント“エミクーン山”の上空に向かってくれ』


『アルファ1、了解』


今のところ危険の兆候ちょうこうは無い。

ハリアーⅡは、まもなく目的高度に達した。念のため護衛用にハリアーをもう一機召喚。先導させる。

新日本国に着くまでには、地上に何回か降りて機体の召喚をしなおす必要があるだろう。一回の召喚では燃料が保たないからだ。


しばらくやることが無くなった俺はエリスとの会話を思い出す。

内容は、新日本国の生い立ちに関してだった。


新日本国は30年ほど前の建国だ。それ以前は“夏月=ハーヴィー連邦国”と言う名前の国だった。

日本のさむらいに率いられた国“夏月”と、魔法文明に優れた“ハーヴィー王国”により構成された連邦国家。それが“夏月=ハーヴィー連邦国”だ。

ニューワールドにやって来た旧帝国軍人の集団により、30年前にその国は制圧された。彼らは新たな国の建国を宣言し、それが新日本国の始まりとなる。

現在は“今村”と言う男が国を統治しているようだが、ほとんど人前に姿を現さない。

エリスの情報網をもってしてもどんな人物なのか良くわからない。


新日本国の統治は比較的おだやかで、平和が続いた。国も豊かになり周辺の島国や大陸から多くの移住者が流れ込む。

島国としての性格上、国の規模はレガリアほどでは無い。だが地域大国の一つと言っていい程度には十分大きい。


以上が、機嫌が悪いエリスからなんとか仕入れた新日本に対する情報だった。


「今村と言う男には注意した方がいいでしょう。我が組織でも正体が掴めないというのは、怪しすぎます」 エリスはぶっきらぼうに俺に忠告していた。


まあ、当たって砕けろだ。最悪でも敵の攻撃から国を守ろうとしている俺を追い返したりはしまい。

邪神の送ってくる“船”を撃退し、同僚の女士官を助ける。そのあと(ウー)を見つけてグアルディの杖を手に入れる。

それ以上、首を突っ込む気は俺には無かった。正体不明の怪しい男にこちらから近づく必要も当然ながら無い。



途中で再召喚を二回ほど繰り返す。サバイバルキットに、くそマズい英軍のレーションが入っていたので食事はそれで済ませた。召喚したハリアーⅡは英軍仕様だ。飯の事を考えれば米軍仕様の方が良かったかもしれない。……いや、たいして味に差はないか。


なんとか、エリスから教えられた新日本国の軍港“くれ”まで、もう少しのとこまで飛んで来た。すると、港から東に100kmほどの地点で護衛のハリアーから連絡が入る。


『戦艦1、巡洋艦1、駆逐艦4をレーダーで確認。新日本の艦隊と思われます』


続いて妖精が囁く。

(通信が入りました。兵器召還機構(システム)鬼切おにきり”の第一疑似人格からです)


俺はホッとした。“鬼切おにきり”が稼働しているのだから、女士官もまだ生きている。

“鬼切”の第一疑似人格と女士官との関係は、“トライデント・システム”の妖精と俺の関係と同じだ。


(向こうは何と言ってきた?)


(それが、その……あの……)


(いいから)


(“何しに来た? クソ野郎。その蚊トンボ連れてとっとと帰れ”……と)


(こっちが味方だって、分かってるのか?)


(ええ。カザセ宛てだと言ってます……ので)


いいだろう。なかなか、グッとくる歓迎の言葉だ。

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