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拘束(こうそく)


エリスは、ウーとその同盟国“新日本”が戦っている邪神についての説明を続ける。

予想はしていたものの、戦況はかなり悪い。


新日本国が実際に戦っている相手は邪神そのものではなく、そいつの生み出した“船”だ。

“船”は得体の知れない黒い肉の塊のような魔法生物で、ぶよぶよした肉塊から骨のような主砲が突き出ている。見た目は相当異様な代物らしい。

今まではなんとか、魔術部隊と新日本国の艦隊が力を合わせギリギリのところで、そいつに対抗していた。


だが、その魔法生物である“船”が進化したとエリスは言う。


芋虫いもむしが蝶に変態するように、5つの“船”が真っ黒で巨大な軍艦の姿に生まれ変わったのです。史上最大・最強の戦艦“大和やまと”。それが“船”の新しい姿でした。

新日本国は、その戦艦の威力を思い知らされました。射程距離外から飛来した46センチ主砲弾が、超弩級ちょうどきゅう戦艦の最も分厚い装甲でさえ貫くのです。新しい“船”は本物の“大和”と全く同じ能力を持っていました。失礼ながらカザセさんの兵器召還システムで勝てる相手ではありません」


(デカイだけが取り柄の時代遅れの戦艦が何ですって? そんなもの私の召喚能力をフル出力出来れば……)


勝てないと決めつけられて“妖精”はムッとした。すぐにでも実体化して文句を言い出しかねない勢いだ。

確かに最初から敵わないと宣言されるのは、俺も気分がよろしくない。


……だが正直に認めよう。エリスの言う事が本当なら俺と妖精に勝ち目は無い。

せいぜい数機のヘリや数両の戦車を呼ぶので精一杯なのだ。

なんとか、わずかばかりの対艦ミサイルをヘリで撃たせる事は可能かも知れない。だが大和型の戦艦を行動不能にするのは、それでは不足している。俺によほどの運が無い限り。


現代のミサイル兵器は分厚い装甲を誇る巨大な戦艦と戦う事を想定していない。戦艦なんて艦種は、俺の時代には存在してないのだから当然の話だ。

現在の軍艦、例えば最新のイージス艦と言えど直接防御だけで戦艦と比較するなら、紙で造られた船のようなものだ。

攻撃に“当たる前に撃ち落とす”現代の軍艦は、“当たっても耐える”戦艦とは設計思想がまるで違う。


それでも主砲の射程外から雨のように対艦ミサイルを浴びせれば、イージス艦が勝つことは可能だろう。潜水艦でも構わない。多数の攻撃機でもいい。

しかし、そんな大型兵器や多量の航空機の召喚は妖精の能力を超える。


だが切り札ある。

核攻撃だ。


エリスは、悲しげに微笑むと話を続けた。

「お考えになっている事は分かります。だけど核は使えませんよ。絶対に止めてください。“創造主”がまた出てきては困りますから。……“グアルディのつえ”の入手に関しては別の機会を待ちましょう。新日本国が滅んでも“杖”が消滅する訳ではありません。この依頼は見送りです」


だが俺は、簡単に諦める気にはなれなかった。

「見解の相違だな。ここで引くつもりはない。……いいだろう。核無しでなんとかしてみせる」


エリスの顔色から微笑みが消える。そして綺麗で冷たい青い眼が、俺をじっとにらんだ。

なるほど。こういう表情も出来るわけか。諜報組織の人間に相応しい冷たい眼だ。


そして彼女は脅すように声を低め、俺に囁く。


「馬鹿なことを……あなたに召喚できるのは、数機の回転翼機ヘリコプターか、せいぜい頑張って噴射型ジェット戦闘機くらいです。巨大な戦艦5隻を相手に、一体何が出来ると言うのですか? それともあなたは、そんな事も分からない位に愚かなのですか? 利口な男は危ない橋は渡らないものです。私をがっかりさせないでください」


冷たい青い眼の美人……その表情は、それなりに魅力的だ。

低いおどしの声も、耳に心地よい。


「いい表情だ。……せっかくだから聞いておこう。いつから俺が利口だと錯覚していた?」


からかわれたと思ったのかエリスの眼が一瞬、怒りに燃える。そして何かを言おうとしたが、どういう訳か思いとどまる。

気がつくと俺は、エリスの眼を射るようにまっすぐ見つめていた。


「……変わりませんね、あなたは。未来のあの人とそっくり。性格が悪いところとか特に。ユーモアのセンスが無いところもそっくりです。そして結局……人の言うことを聞かない」


「あの男と俺は、同一人物だからな……人をけなして気が済んだのなら仕事の続きだ。新日本国の防衛艦隊について教えてくれ。生き残った艦は?」


エリスは機嫌悪そうに、しかしそれでも俺の質問に答える。

「……空母“瑞鶴(ずいかく)”、高速戦艦“金剛こんごう”、重巡洋艦“高雄たかお”、それに数隻の駆逐艦がまだ生き残っています。残念ながら空母“瑞鶴(ずいかく)”は、先の戦いでかなりの損害を受けています。動けるとは思いますが詳しい状況は不明」


残った艦でアテになりそうなのは、戦艦“金剛こんごう”と重巡“高雄たかお”と言う事か。

空母はどの程度、戦えるのか分からない。


俺は第二次世界大戦時代の軍艦について、それほど詳しい方では無い。

だがそんな俺でも高速戦艦“金剛こんごう”の事は知っていた。旧帝国海軍で最も活躍した戦艦の1つだ。米軍を相手に多くの戦果をあげている。

だが元はと言えば、大正生まれの古い船だ。改装され近代的な戦艦として生まれ変わったが、“大和”型を相手に正面から立ち向かえる船じゃ無い。主砲の威力も装甲も大和型と比べられるものではない。


そして重巡“高雄たかお”。

重巡の主砲や防御力は、戦艦クラスと比べれば大きく劣る。

しかし“高雄”は高性能な魚雷発射管を装備している。何発か魚雷を当てる事が出来れば“もしかしたら、もしかする”かも知れない。

だが大和を魚雷の有効射程内に収めるのは極めて困難だ。重巡の最も厚い装甲部でも、戦艦の主砲弾は防げない。一撃で行動不能におちいる。


確かにエリスの言うことは正しい。どう見ても敵いそうにない。

しかも敵の“大和”は、5隻も居る。利口な男なら逃げるのが正解だろう。


だが重巡“高雄たかお”の名前は、俺のある記憶をよみがえらせた。

以前、高雄に乗っていた女士官の映像を妖精に見せられた事がある。現実とも夢ともつかぬその映像の中で、彼女は俺に助けを求めていた。“高雄たかお”は敵艦の攻撃を受けて大破炎上していたのだ。

(作者注:第47話“黒い爆発”)


新日本の防衛艦隊に“高雄”が居たのは偶然だろうか?

前に俺が見せられたあの幻のような戦いは、今の状況と関係があるのではないか?


(風瀬 勇。私はお前を待っている)女士官の声が、再び聞こえたような気がした。


「エリス、答えろ。艦隊を率いているのは俺の同僚、つまりインフィニット・アーマリー社のオペレーターだな? そして艦隊を召喚したのは、兵器召喚機構“鬼切おにきり”。何故そのことを黙っていた?」


「黙っていたつもりはありません。聞かれなかったから言わなかったまで。それに、今までの情報で推測は出来たはず。ヒントは言ったつもりですよ?」


嘘だ。こいつはわざと言わなかった。


「“鬼切おにきり”が再召喚に必要とするクールタイムは、俺のトライデント・システムに比べ遥かに長い。次の戦いには間に合わないだろう。オペレーター……女士官はどうするつもりだ? 撤退てったいするのか?」


「あなたには関係の無いことです。カザセさん。あなたに同僚の心配をする余裕は無いはずです」


そうか。こいつが黙っていたのは、女士官を使い捨てるつもりだったから。

未来の俺もこの事を教えなかったのは……俺に余計な気をおこさせたくなかったから。


くそっ。


「彼女は助けを求めている。そうだな?」


「……ええ。そのとおりです。ですが、何度も言わせないでください。あなたは……」


「情報の提供を感謝する。もう十分だ」


俺は立ち上がった。遅すぎるかも知れない。

ウーと話をしたのは、もう2日も前なのだ。


「どうされるおつもりですか?」様子を黙って見ていたエトレーナが不安そうに声をかけてくる。 


「すまない。新日本国に出向く」 俺は答えた。


エトレーナと一緒に急いで王宮に戻った。

最低限度の用事を済ませると、エトレーナやシルバームーンの反対を押し切り1周間ほど留守にすると告げる。それを聞いた周囲は大騒ぎになった。


何のかんので出発の準備が整ったのは翌日の午前だ。

妖精にハリアーII攻撃機の召喚を命じる。この垂直離着陸可能なジェット戦闘機なら、王宮前の広場から発進できる。


俺は独りで行く。


「カザセ司令官。どうしても行かれると?」


声に振り向くと部下のレイクがいた。

もと近衛このえ隊長たいちょうのレイクだ。


「すまない、エトレーナをよろしく頼む。ケリがつき次第すぐに戻る」


「残念ながらそれは出来ません。レガリアはあなたの不在を許しません。あなたがいない間、誰がこの国を守ると言うのです? ……お許し下さい。王命により拘束こうそくいたします。この国を離れられては困るのです」


レイクは、巨大なドラゴンの姿に変わった。

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