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出迎え


「カザセ様のご幸運をお祈りいたします。レガリアとの交渉が上手くいきますように」


貴族の娘と言うよりも、有能な秘書のように見えるレイラ・ロブコフの見送りの言葉を受けて、俺は汎用ヘリのブラックホークに向かう。

護衛のアパッチ戦闘ヘリは、すでに上空で待機中だ。

二機とも召喚し直したので燃料は満タンだ。レガリアへ着くまでなんとか保つだろう。

エトレーナとシルバームーンが乗り込んだのを見届けた後、俺は振り返ってカミラに声をかける。


「ジーナの事をよろしく頼む」


「もちろんだ。彼女の事は任せて欲しい」


片手を上げて別れの挨拶をする。ヘリのドアに手をかけた。


「カザセ殿!」


振り返る俺に「無茶をしないで。無事に戻って来て……欲しい」とカミラが心配そうに言う。

彼女らしくない。どことなく恥ずかしそうだ。


「戦いに行くわけじゃない。大丈夫だ」


「あなたは、いつもそう言う。だけど必ずどこかで無茶をする。心配……なのだ」


俺は微笑んで、最後にもう一回手を振るとヘリのドアを閉めた。

気にかけてくれる女が居るのは嬉しいもんだ。

さあ、再びレガリアへの旅だ。気難しそうなドラゴンどもを説得して同盟を締結してやる。



俺達を乗せたブラックホークは舞い上がり、二機はレガリアへと進路を取る。


「カザセぇ~~ 何で属領にしなかったのよ。あの村は、すぐにでも併合すべきだったわ。箔付はくづけに丁度良くてお父様を説得するのに役立ったのに」

機内が落ち着くと、俺はさっそくジト目で不満そうなシルバームーンの相手をしなければならなかった。


「カザセ様は、カザセ様のお考えがあって判断を先に延ばしたのです。でも村の方々は大変お困りの様子でした。属領と成って、カザセ様に護ってもらえると言う確証が欲しかったのでしょう。村長達の気持ちは十分理解出来ます」


「……あの村を放り出すと言ったつもりはないぞ」


シルバームーンもエトレーナも俺の実力を過大評価し過ぎている。

だから、あの村を属領にしなかったのが不満なのだ。

しばらくの間は守れるとは思う。だが邪神が暗躍している大国がすぐそばだ。

村を存続させてやれるかどうかは、まだ分からない。だから判断を先延ばしにしたまで。


俺はふと不安になった。一体、彼女らの目には俺がどう見えているのだろう?

邪神殺しの無敵の英雄か? そうだとしたら勘違いもいいとこだ。

溜息ためいきをついて、話題を他に移す。


「シルバームーン。同盟を結ぶにあたって反対しそうな相手ドラゴンを事前に知っておきたい。教えておいて欲しい」


彼女は、俺の質問に考え込む。取り敢えず話題をらすのには成功したようだ。


「そうねぇ。まず絶対に反対しそうなのは、父の下で軍事をつかさどっているアイアン・ウエルね。このドラゴンは前の戦いで失敗したの。そのせいで我軍は大きな損失を被った。カザセと同盟を結ぶって事は、指揮官として自分の力不足を認める事になっちゃうから、彼にしたらちょっとね。自分達だけで対処出来ることを証明したいのよ」


「まあ気持ちは分かる。実力不足を同盟でおぎなう形に見えるからな。それに相手が人間の国では誇りが傷つくか」


「あとはレガリア王に次いで広大な領地を保つ、ブラス・トレジャーね。“大地を分かつ者”っていう我が国最高の爵位持ち。王に次ぐナンバー2の権力者よ。ニューワールドで最も優れた種族がドラゴンだと信じている、生粋のドラゴン優越主義者」


彼女は顔をしかめた。


「そいつの事が嫌いなのか?」


「いろいろあってね。上品ぶった嫌な奴よ。人間が特に大嫌いなの。カザセに反対するのは目に見えてる」


「他には?」


「今のところは、この二人ドラゴンだけ。他にも反対しそうなのは沢山いるけど、全部ザコよ。この二人を説得出来れば、残りは私に正面切って反対する度胸は無いと思う。忘れないで。私はこれでもレガリア国の第一王女。大抵の反対は押し切れるわ。後はレガリア王――お父様の決断次第よ」


「レガリア王は中立と考えていいのか? 王は種族に拘るほど狭量きょうりょうではない。……そう考えていいか?」


「もちろん。父上は実力重視の公正な御方よ。レガリア第一王女の名誉に賭けて誓ってもいいわ……でも、いよいよとなったら私が泣いて頼んであげる。父上は私に甘いし」


……それは公正って言うのか? だがシルバームーンの献身的な協力は有り難い話ではある。

いずれにしろ交渉事に反対はつきものだ。なるだけうまくやるしかない。


「……いつもすまない。シルバームーンには感謝している」


「礼を言われる覚えは無いわ。私はレガリアの国益になると思ってやってるの。あなた方と組むことは私達のメリットになる」


そう言うと彼女は、拗ねたように横を向いた。

「……まあ、それだけじゃないかも知れないけどね」


(カザセ様。今よろしいでしょうか?) 腰の小剣が脳内にささやく。


小剣のマナ残量は“大腸”との戦いのせいで、ほぼ空だ。

具合がいい筈がない。わざわざ何だろう?


(どうした?)


(警告を申し上げます。大気のマナ濃度が乱れております。ごく微量ですがマナの減少を検知致しました)


(何だって?)


空気中のマナ濃度は、ドラゴンのような魔法生物に大きな影響がある。マナが不足すれば、身体の維持が出来なくなるのだ。

エトレーナ達もマナが不足すれば生きてはいけない。彼女らはもちろん人間だが、長い時間の間にマナ無しでは命が維持できなくなってしまっている。元いた世界から、ニューワールドへ逃げ込んだ理由がマナ不足なのは知ってのとおりだ。


(極めて微妙な変化ですので、今のところはそれほど気になさる必要はありません。ですが胸騒ぎがします。念の為にご注意くださいませ)


シルバームーンとエトレーナに小剣の警告を伝えると、シルバームーンは青ざめる。


「またマナ不足の期間に入るのかしら。ごめんなさいカザセ。助けが必要になるのは、私達の方が先かも知れない」


「一時的な気象現象かも知れない。しかし用心はしておいてくれ」



ヘリはレガリアに近づく。高い山の連なりが見えて来る。

シルバームーンによると山脈の中で、一番高い山がティーティー山と言うそうだ。そこにレガリア王の“王宮”がある。

“王宮”は、山の岩壁をくり抜いて造られた洞穴だ。内部は極めて豪華な造りらしい。


ティーティー山のふもとには森があり、身分的にはレガリアの第三階層に属する獣人達の町がある。

そこには、コックェリコの村と同じく猫型の獣人が多く住むらしい。中には少数だが人間もいるそうだ。


『前方から竜族の編隊が接近中。距離5000。大型の竜が三匹。小型の竜が五匹いる』

護衛のアパッチから脳内に通信が入る。


『速度を落とせ。彼らはレガリアからの出迎えだ』


シルバームーンが歓声を上げた。

「まあ、フォーレストお兄様だわ! お兄様が迎えに来てくれた! それに爺やも。あと、さっき言ったアイアン・ウエルよ。例の負け将軍の。お父様に言われて仕方なく迎えに来たみたいね」


聞きなれない声が脳内に響く。老人の声だ。

『姫様。爺やではございませぬ。突然姿が消えて、我らがどれだけ心配したことか。だいたい姫様はレガリア第一王女としての自覚が足りませぬ』

こいつは爺やだな。


次いで若そうだが威厳のある声が響く。

『シルバームーン、勝手に国を飛び出すのは止めておけ。家臣が後で苦労をする』

シルバームーンの兄、ゴールド・フォーレスト第一王子だ。


俺はパイロット席から前方を見てみた。

見事な金竜がこちらに向かって来る。まるで芸術作品のように美しい。

ゆっくり羽ばたきながらこちらに進んでいる。


そして金竜と同じくらいの大きさの鉄色の竜。

そして一回り小さい青竜。合計三匹の竜が見える。

取り囲むように五匹のワイバーンが飛んでいるが、護衛だろう。


金竜が脳内に話しかけて来た。

貴殿あなたがカザセ ユウか。妹から話は聞いている。私はレガリア国第一王子、ゴールド・フォーレストと言う』


次は青竜だ。

『私めはレガリア王の侍従長でブルー・ダイアモンドと申します。この度は長旅お疲れ様でした。王の命によりお迎えに参りました』


鉄色の竜はこちらを完全に無視している。こいつがレガリアの軍事担当のアイアン・ウエルか。

シルバームーンがさっき話したように、俺に敵対心を持っているのは確からしい。


青竜のブルー・ダイアモンドは着陸地点を指示し、俺達はそこへ向かう。

獣人達の住む大きな町の近くに、俺達は降下した。


町まで、数百メートルほど手前の野原に俺たちは降りた。


エトレーナが金竜に挨拶をする。

体長が20mほどはありそうな大きな竜だ。

しかし気圧されもせず優雅に礼をするエトレーナの姿は王族の風格に満ち、俺は感心した。


「フォーレスト殿下。お目にかかれて嬉しく思います。わたくしが、エトレーナ・カイノ・クローデットです」


「ユリオプス王国、クローデット女王陛下。こちらこそ会えて嬉しく思う。父に代わってあなた方の訪問を歓迎する」


金竜は人間形態をとろうとはしなかったが、王族の竜としては当然の事のようだ。

誇り高い竜族がわざわざ人間の形に成る方が珍しい……と言う事らしい。シルバームーンの方が例外なのだ。


われはアイアン・ウエル。この偉大なるレガリア王国の王立軍を統べるドラゴンである。よくぞか弱き人間の身体で、わざわざここまで来たものよ。ご苦労なことだクローデット女王。無駄足にならぬと良いがな」


「……無礼であろう、ウエル将軍。場をわきまえられよ。我が王に恥をかかせるおつもりか?」金竜が不機嫌そうに言う。

鉄色の竜、アイアン・ウエルは黙り込んだ。


シルバームーンがとりなすように金竜に声をかける。

「フォーレストお兄様。お兄様が出迎えに来てくれるとは思いませんでした。ありがとうございます」


「カザセと言う男に興味があったからな。お前がそこまで肩入れする男に会いたかった」


「不細工な鉄の乗り物を操る人間風情(ふぜい)に、何が出来ましょう? そして、このような小娘が女王の国なぞ、笑止千万しょうしせんばん。我が栄光あるレガリアと釣り合う筈も有りませぬ。相手をするのも馬鹿らしい。本当に第一王子は物好きな御方だ」


「ウエル殿。お言葉が過ぎます!」爺や――ブルーダイアモンドがおろおろとした。


流石さすがに俺も耐えかねた。

「……不満があるのなら、王に直接言ったらどうだ。こそこそと暴言を吐きまくる将軍か。なるほど、どうりでいくさに負ける筈だ」


「何だと貴様! 人間風情(ふぜい)われ侮辱ぶじょくするかっ!」


鉄色の竜は、カッと口を開けた。ドラゴン・ブレスか!?

アルファ2! くそっ間に合わないっ!


だが、竜の身体がよろけて地面にどうっと倒れる。

金竜が体当たりしたのだ。


「ウェル将軍。それ以上やられるおつもりなら、このゴールド・フォーレストがお相手する」


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