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騎士


息せき切って俺達の元に駆け込んできた獣人の二人組。

獣人と言っても、グリブイユと同じタイプで猫耳以外は人間に近い。性別は男だが。

村に逃げ込んできた敵の騎士が暴れているらしい。

彼らでは抑えきれずに大田少尉を呼びに来たのだ。


真っ先に少尉のところにやって来るとは、彼は村人から相当頼りにされているのだろう。

だがこの騒動は、元はと言えば村に逃げ込む敵を放置した俺の責任だ。

自分で対処することに決める。


「カザセ殿。私に待ってろ、なんて言わないでくれ」とカミラ


「ユウ。僕も行くよ」とジーナ


「分かった。一緒に行こう。シルバームーン、エトレーナを頼む」


「女王様とここで留守番しろってこと? つまんない。暇なんだけど」


シルバームーンを戦闘から外したいのは、俺なりに理由があった。

これ以上頼るのを避けたかったからだ。

そうは見えないが、彼女はこれでもドラゴンの国“レガリア”の姫なのだ。


好意で勝手に動いてくれているが、彼女は自分の行動にレガリア王の許可はもらっていない。

俺が姫をそそのかして事態に巻き込んでいる。王はそう思っている筈だ。

この上、シルバームーンが二度も負傷するような事にでもなれば状況は最悪になる。

正規の同盟を結びたい、なんていう考えは夢と消えるだろう。


「まあ、そう言うな。特等席で見学。たまにはいいだろう」


「何か嫌なことを考えてそうね……まあいいけど。……無理しないでよ?」


「心配するな。これぐらいは大丈夫だ」


エトレーナをシルバームーンに任せ、俺は大田少尉や仲間達と共に村へ急ぐ。


ザフスカーフ王国とは、いずれ本格的に戦う事になりそうだ。

敵のことをもっと良く知っておきたい。戦争に勝つためには情報が必要だ。

だから、ここで騎士と戦えるのはチャンスだ。

多少汚い手をつかっても、持っている情報を全部引き出してやる。



木製の門を抜けて村に入る。上空から見て感じたように、なかなか立派な造りの村だ。

入口はちょっとした広場になっていて、木造2階建ての建物が周辺を囲んでいる。

市場いちばが立っていたらしく果物や野菜などが散乱している。敵が攻め込んできたのが突然で、仕舞い切れなかったらしい。


「いたぞ。あそこだ」少尉が広場の向こうを指さす。


敵の騎士らしき男が剣を構えて、村人らしき獣人3名に取り囲まれている。

ほのかに発光している銀色の鎧を身にまとい、手には禍々(まがまが)しい形をした黒剣。

上等そうな武器だ。騎士の階級は上の方だろう。


敵の黒剣に反応したのか、小剣が俺の注意をくようにさやの中で震えた。


(……カザセ様)


(小剣か。無理をするな。お前の体調は万全では無い筈だ)


(あの黒剣は、宝剣フロテスという魔法剣です。魔力で強化された異常に鋭い切れ味を持ちます。別名ダイアモンドの剣。ご注意くださいませ)


(そうか。切れ味が異常に鋭い……それ位なら何とかなりそうだ)


(是非、私をお使いください。あの程度の魔法剣などすぐに潰してみせます)


(無理をするな。今は休んでいてくれ)


大田少尉が敵から目を離さずに俺に言う。

「風瀬さん、どう攻める?」


「この場は俺とカミラに任してくれ。ジーナはここから距離をとってサポートを頼む。ところで少尉、あんた大商業連合国ってのは聞いたことがあるか?」


突然の俺の質問に少尉はまごつく。


やぶからぼうに何を言い出す? 大商業連合国だって?……南の遠方にある大国だって言うのは聞いたことがある。見慣れない兵器を使う国だと聞いた……まさか、風瀬さん、あんた大商業連合から来たのか?」


「まさか。住人を一人知ってはいるがな。大嫌いな男だ」

兵器商人のウー孟風モンフォン。お前の事だ。


しかし、大田少尉が大商業連合の事を知っていると言うことは、敵も知っている可能性はある。使えるかもしれない。


「カミラ、それでは行こう。いつも危ない目にあわせてすまない」


ねぎらいの言葉は私には不要。カザセ殿に従うのが私の使命。命ある限りいつまでもだ」



俺はゆっくりと騎士の元に歩き出す。カミラも俺の横を行く。

戦闘は彼女に任せるとしよう。俺は自分の仕事をするだけだ。


騎士の5mほど手前で歩みを止めた。

俺は言う。「剣を捨てろ」


周りの獣人達が戸惑ったように俺を見る。

騎士が血走った眼でこちらを見た。


間近で見れば、なかなかの美形だ。

髪が戦いの為に乱れているが、ウェーブがかかった金色の髪はこいつが洒落者しゃれものだという事を示している。

貴族の出なのかも知れない。


「お前は? 見慣れない風体だ」騎士は低く呟くように声を出す。 


「剣を捨てろと言った。質問は許可していない」


カミラが俺の顔をチラッと見た。

確かに高圧的なやり方はいつもの俺のスタイルじゃない。


「……異教徒の野蛮人が利いたふうな口をきく。ザフスカーフ人と話す時の礼儀を教えてやろう。最初の言葉は“ご主人様”だ」


騎士はゆっくりとこちらに向かって歩き始めた。

周りを囲んでいた獣人達が慌てて道を開ける。

カミラが俺を守る為に一歩前に歩み出る。


「カミラ、殺すな。こいつには利用価値がある」


「承知した」


騎士は面白そうに俺を見ると、視線をカミラに戻した。

そしてカミラの流れるような金髪の髪、無表情だが凛々(りり)しく綺麗な顔を味わうように見てから、視線を下にずらし均整のとれた身体をめるように見る。


「女。剣を下ろせ。お前は殺すには惜しい。自分の美しさに感謝することだ」


カミラは微動だにせず、剣を構えたままだ。


「どかぬ気か。女」


騎士はもう一度、カミラの身体を見回した。

宗教国家の騎士の筈なのに、ずいぶんと生臭い男だ。


「ならば、その身体と美貌びぼうを、創造神、第二位の眷属けんぞく、欲望の神エレムに捧げよう。お前ならエレム様のハーレムに加われるかも知れぬ」


騎士の身体が突然動く。

早い!

振り下ろされる騎士の剣がカミラを襲う。


だがカミラの動きは騎士を上回る。彼女の魔剣ノートゥングが騎士の剣をぎ払った。

切れ味が良い事だけが取り柄の騎士の剣、宝剣フロテスと切断の概念を封じ込めたカミラの魔剣ノートゥング。


勝負にならない。


やいばが交わればノートゥングに勝てる剣は存在しない。そのような剣は存在が許されない。

騎士の剣は根本から切られ、吹き飛ばされる。


「くっ」

衝撃で剣を吹き飛ばされた騎士は、腕を押さえて呆然ぼうぜんとした。


そろそろ俺の出番だろう。

男の元に駆け寄り、腹にこぶしを叩き込む。

くの字に身体を折った騎士に、もう一撃。

とどめに腹に蹴りをいれた。


男は胃液を吐き出し咳き込む。地面に倒れないのは褒めてやろう。

しかし、男の目から戦闘継続の意思は失われ、恐怖心がかいま見えた。


勝負はついた。

あっけない。


ここから先は気の進まない作業だ。

敵の組織、兵力、奴らが起こしている戦争の現況。

必要な情報をあらいざらい喋ってもらう。

その為には、手荒な真似も必要になるかも知れない。

こんな事はカミラにはさせられない。


「俺の質問に答えれば、これ以上怪我をすることはない。協力しなければ苦しむ事になる。利口になる事だ」


騎士の口が動いた。

「……さま……お助け……さい」


咳き込みながら何かを言う。

よく聞こえない。命乞いか?


「なんだ? はっきり言え」


「ユウ。危ない!離れてっ!」

ジーナの叫び声。


「……なんだっ? これは?」


騎士の身体から黒い霧のようなもやが吹き出す。

俺は慌てて距離をとった。


黒い霧がオーラのように騎士の身体にまとわりつき、それにつれて騎士に生気がみなぎるのを俺は見た。

さきほど、痛めつけて与えたダメージが回復していく。

恐怖におびえた顔はもはや無い。ぎらついた目で何も無い空中を見ている。


「おお、エルム様、よくぞいらっしゃいました。感謝致します。ご降臨こうりんいただくのはこの上ない歓びでございます」


騎士はうやうやしく頭を下げる。何も無い空間に。


「このような雑魚どもの為にお呼びだてして、誠に申し訳ございません。我らだけで対処するつもりでしたが邪魔がはいりました」


騎士の顔が曇る。


「申し訳ございません。お怒りはごもっともです。さすれば、ここにいる女を生贄いえにえに捧げましょう。上物です。少しでもお楽しみいただければ幸いでございます」


ダンッダンッダンッ。発射音が聞こえた。


少尉の援護射撃。拳銃の発射音。

恐らく九四式拳銃。

しかし放たれた8mm弾は、黒霧にさえぎられ騎士に当たらない。


「“聖なる結界プロテクション・フロム・イービル”よ。 邪悪をはらえ」

呪文と共にジーナの魔法が発動する。が、魔法の光は黒い霧に吸収された。効果が無い。


くそっ。こいつはマズそうだ。


「カミラ! 逃げるぞ! お前たちも逃げろ! 早く!」 獣人達は慌ててばらばらに逃げ出す。

俺もカミラの手を引いて走り出す。

距離さえとれれば俺は負けない。

俺の得意な距離は至近距離クロスレンジじゃない。


10mほど走っただろうか。

「あっ」カミラがあえぐ。

カミラと二人、もんどりうって転倒したのだ。足が鉛のように動かない。


振り返ると騎士の手がこちらに掲げられていた。

魔法。あいつは魔法なんて使えるのか? いや、あの黒い霧だ。あれの仕業だ。


俺は覚悟を決める。やるしかない。

まだ近い。一か八か。

鉛のように重たい足を無理やり動かし、なんとか立ち上がる。


(召喚。110mm対戦車弾)


ずっしりしたロケット弾が俺の肩に実体化する。

別名パンツァーファウスト3。歩兵用対戦車ミサイル。

こいつなら。

あんな霧などそのままぶち抜いてやる。


「ずいぶん物騒ぶっそうな武器だな。魔法のやりか?」 男はせせら笑う。


引き金に指をかけた。じっくり照準する暇は無い。当たってくれ。


「そう急ぐな。俺を殺せば余計にひどいことになるぞ。あれが聞こえないのか?」


ごごご、と低い地響きのような音が聞こえた。

村の広場からだ。確かに何かが実体化してくる。巨大な何か。

奴のブラフじゃない。


「エルム様のしもべを召喚した。あいつは俺が死ねば暴走する。この村は壊滅するぞ。……さてと、さっきの礼をしないとな。勘違いするな。手荒な事はしない。多分な」


広場に実体化したものが完全に姿を現す……あれは地竜。地竜だ。翼を持たないドラゴンの亜種だ。


「がっかりだ」俺は騎士に告げる。それがあのデカブツに対する俺の評価だ。


「何だと?」


「がっかりだ、と言った。散々もったいをつけたあげく地竜を召喚して何をするつもりだ? 芸でもさせるのか?」


「強がりを」


「試してみるか」


『アルファ1、応答してくれ。こちらアルファ2。地上に巨大生物の出現を認む。指示を願う』

哨戒しょうかいに飛んでいたアパッチから通信が入る。ようやく戻ってきたようだ。


敵もまだ本気を出していなかったのかも知れない。だがそれはこちらも同じこと。


機関砲チェーンガン程度なら地竜の皮膚でも防がれるかも知れない。

しかしアパッチ戦闘ヘリの主武装は、機関砲チェーンガンなんかじゃない。

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