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介入


アパッチ攻撃ヘリから通信が入る。


『地上に兵が展開している。小隊規模だ。村を取り囲むように布陣している』


村の上空には兵を乗せた10騎のワイバーンたち。


ワイバーンは、ブレスを吐いて逃げ惑う住人を焼き殺している。

民家からは、火の手が上がっている。

住人に抵抗の意思は無いようだ。反撃している者の姿は見えない。


抵抗してるのは一機のプロペラ式戦闘機。

局地戦闘機“雷電らいでん”だ。

しかし戦況は思わしくない。


雷電らいでんは高速でワイバーンに突っ込み機銃掃射(そうしゃ)をしながら離脱していく。

しかし、これでは再び攻撃するまで間隔が空いてしまう。しかも敵が超低空で森の中にでも逃げ込めばそれ以上は追えない。

だからと言って、速度を落とし格闘戦ドッグファイトには持ち込めない。

そんな事をすればワイバーンのブレス攻撃の餌食えじきだ。

機動性はどう見ても雷電よりワイバーンの方が上だ。


駄目だ。雷電では防げない。

この上、地上の兵達が村になだれ込めば命運はそこで尽きる。


介入するか?

俺のアパッチなら状況をひっくり返せる。遠距離から一方的に砲撃出来る戦闘ヘリなら。

あんな飛竜など。


『オペレーター。指示を願う』


俺は迷う。


村の味方をすれば、ワイバーン達の勢力が今度はユリオプス王国の敵となる。

ここに居る敵だけで全部ではあるまい。本拠地にはもっといる筈だ。


俺達の開拓村は、ここからたいして離れていない。

せいぜい数百キロだ。ワイバーンなら飛んで来れる。

そしてそのうち、彼等も近代兵器を使うようになるかも知れない。

そうなれば状況は、もっと悪くなる。


俺の守るべきはエトレーナの王国だ。危険を抱え込む訳にはいかない。

敵を増やすな。感情に流されて悪手を打つな。お前はアマチュアじゃない。プロだ。


「どうしたの? 何よ? 慌てて」


シルバームーンが狭い機内を近づいて来る。

俺のそばに来ると、ヘリの前方を覗き込んだ。


「戦闘?」

彼女の魔力で強化された視力は戦場を捉えている。


「戦闘じゃない。一方的な虐殺ぎゃくさつだ」


「こんなところで……」 


「あのワイバーン達に見覚えがあるか?」


「知らない。見たことも無いわ。……もしかして、レガリアの竜を疑ってるの? 侮辱ぶじょくよっ! 私たちは略奪などしない」


「誰もそんな事は言っていない」


俺はもう一度村を見る。

ここの村人達は恐らく、ユリオプス王国より少しだけ早くニューワールドに住み着いた入植者だ。

苦労してニューワールドにたどり着いて、ようやくあそこまで頑張ったのだ。


そしてあの雷電らいでん。あれは一体どうしてここにいるのか?

なんで村を守っているのか?

だが、あの戦闘機がやっている事は、俺と同じだ。

あれは、あの村の俺だ。


……見捨てられるのか? 見捨てていいのか?


カミラとジーナが心配したのか、パイロット席に来ようとしている。


その後ろから、声が響く。

「カザセ様、お願いです。あの村を助けてあげてください」


エトレーナ。


「村が見えるのか?」


見ると彼女の指輪が紫光に明るく輝いている。その指輪は前王の形見のマジックアイテムだ。

遠見とおみの魔法を発動している。


「哀れみから言っている訳ではありません。あの村は豊かに見えます。貸しをつくっておいてもいいでしょう? 同盟を結ぼうとするかも知れません。お互い助け合えるかも知れません。仲間は多い方がいいです。それに」


「それに?」


「見捨てるなんてカザセ様らしくありません」


俺は苦笑にがわらいをする。

相手が豊かそうだから貸しを作る? それは彼女の本心じゃない。

エトレーナは、ただ村を助けたいだけだ。だから俺の納得しそうな理由をひねり出した。

女王としては失格だ。優しすぎる。余分なものを切り捨てる強さも足りない。


だが……本当は俺もあいつらを助けたい。


認めよう。俺は兵隊としては失格だ。

切り捨てる強さも無いし、余計なものを抱え込む。

状況判断もなってないし、たいして優しくも無いのに感情に惑わされる。


「村を助ければ、その敵の恨みを買う。次に狙われるのは俺達の村だぞ」


「カザセ様が負ける訳がございません」


いいだろう。


好きな女に覚悟があると言うのなら、俺はそれに応えよう。

二つの村を守れない訳じゃない。例え偽物の“英雄”でもそれ位して見せる。


俺は自分がエトレーナに感謝している事に気がついた。やはり自分は戦いたかったらしい。

待ってろ、雷電らいでん

今、助ける。



アパッチに命令する。

30mm機関砲(チェーンガン)の使用を許可する。村を襲っているワイバーンを片付けろ』


『アルファ2了解。これより前進し攻撃態勢に入る』


アパッチ・ロングボウ戦闘ヘリ、識別名アルファ2は、ホバリングを止めて前進を開始する。


火器管制装置(FCS)を対空戦闘モードに移行。

チェーンガン・オンライン。

銃口が砲手の視線に連動し、生き物のように動き出す。

アパッチの持つチェーンガンは、砲手の見るものを自動で狙う。


殺戮さつりく饗宴きょうえんみ込まれ、村人を追い回すのに夢中だったワイバーンがようやくこちらに気が付いた。

一騎そしてもう一騎が、こちらに向かって飛び始める。


『アルファ1、こちらに向かって二騎のワイバーンが接近して来る』


『殺れ』


距離1800m。

目標補足・指示表示装置(TADS)は、正常に稼働中。

ワイバーンの姿が拡大されて砲手のヘルメット内に投影された。


『アルファ2了解。攻撃を開始する』


チェーンガンが火を吹く。鳴り響く射撃音。

毎秒10発の早さで撃ち出されていくM789多目的榴弾(りゅうだん)は、一発一発が25mm装甲を貫く性能を持つ。


砲弾が飛竜に乗っている兵士を直撃した。身体が水を入れた風船のように破裂する。

乗っていたワイバーンも引き裂かれ、二つに割れて地上に落下していく。

あっけない。ドラゴンに比べればまるで紙細工だ。


『一騎を撃墜げきつい


残りの一騎は何が起こったのか良く分かっていないようだ。

まさか、そんな遠くから……言いたいのはそんなところか。

砲手はチェーンガンを再び発射する。


『二騎目を撃墜げきつい


仲間の二騎が一瞬で砕かれたのを見て、残りのワイバーン達は明らかに動揺している。

俺たちから距離をとろうと逃げ始めた。

しかし、彼らはまだ射程内にいる。


『先頭の飛竜をやれ。金色の奴だ』

その一騎は金色の装飾を着けていた。

指揮官が乗っている。


チェーンガンがうなると、金色のワイバーンは切り裂かれ地上に落下する。

続けて、もう一騎のワイバーンが肉塊に代わる。


『攻撃を中止』


残りの六騎は、森に急降下しながら逃げていく。木々の間に紛れ込むつもりらしい。

仲間が抵抗も出来ずにはじけ飛んだのは見たはずだ。

しばらくは、村を襲う余裕は無いだろう。



「大した破壊力ね。まあ、ドラゴンとは比較にはならないけど」


「褒めてもらって光栄だ」


雷電らいでんはワイバーン達を追撃する。

俺達のヘリにも気がついている筈だが、敵を叩くのを優先したらしい。


村を取り囲んでいる地上の敵の兵達に目立った動きは無い。

双眼鏡で確認すると兵達は帯剣していて、それなりの鎧を身につけている。

戦い慣れた兵達のようだ。少なくとも近代兵器以外に対しては。

彼らは、こちらを指さし何かわめいている。


あいつらも味方の飛竜が殺られたのは見た筈だ。

まだ撤退の動きが無いのは、空と地上の戦いは別ものだと思っているのだろうか。

こちらの攻撃が地上には届かないと思っているか。


「ジーナ。地上から魔術師が攻撃してくるかも知れない。注意してくれ」


「分かったよ、ユウ」


「何で私を無視するの? 手伝ってあげなくもないわよ」


「シルバームーンは病み上がりだからな。見ててもらって結構だ」


「何よそれ。なんかムカつく」


「暇なら、ジーナを助けてやってくれ」


本音を言えば、俺とエトレーナの気まぐれにつきあわせては悪いと思っただけだ。


『アルファ2、小隊の中に軍旗らしき旗を持った兵がいる。そばに指揮官らしき派手な鎧を着た兵がいる。見えるか?』


『確認した』


アパッチは、ハイドラ70ミリ・ロケット弾を装着している。

ロケット弾のタイプはM255だ。1発のロケット当たり2500発のフレシェット弾頭を内蔵している。

広範囲に地上にばら撒かれるよう設計されている対歩兵の兵器だ。


使えば、地上兵を全滅させることも出来るかもしれない。

しかし、それは流石の俺もためらった。

今回は蹴散けちらすだけに留めよう。恐怖を本国に伝える兵隊は、ある程度の数が居た方がいい。

そう自分を納得させ、命令をする。


『指揮官をチェーンガンで砲撃しろ。周りを多少巻き込んでも構わん』


『アルファ2、了解』


ぼん。


目標ターゲットの周囲が爆撃されたように煙が舞い上がる。

雨のように降り注ぐチェーンガンの放った榴弾りゅうだんが炸裂したのだ。


中心部に残っているのは、指揮官と周りに居た不幸な兵の残骸。

その周りには、爆発に巻き込まれた兵達が横たわっている。


そして、その周り。

指揮官を失った兵達はパニックになって、バラバラに逃げ始めた。

大部分は森に逃げ込んでいくが、混乱の為に村へなだれこんでいく兵士もいる。


まずい。


『これより、我が隊は村の上空へ向かい住人を援護する。進め』


『アルファ1、了解』

そばに居るブラックホークのパイロットが、直接答える。


『アルファ2、了解』

アパッチの返答が脳内に響く。


俺たちが村に向かって飛行を開始すると、局地戦闘機 雷電らいでんがゆっくりと警戒しながら飛んで来る。

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