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帝国海軍


「分かりました」

妖精はため息をつく。


「風瀬さんが、そんなに私達の正体について知りたいというのであればお話します」


意外だった。妖精は今回も答えをはぐらかす……俺はそう思っていたのだ。


「本社は、風瀬さんの働きについて満足しています。そして、このままミッションを続けて欲しいと希望しています。だけど、そう願うのなら正体を隠すのは不誠実です。私は風瀬さんの言うとおりだと思います」


妖精は悲しげに微笑んだ。


「インフィニット・アーマリー社の本当の所有者は、あなた方人間が魔族と呼ぶ存在です。そして私は魔族の持つ技術で開発されたシステムなのです」



俺はうめいた。

魔族だと?

俺を雇っているのは魔族だと言うのか?

魔族ってのは、要するに悪魔もどきの邪悪な存在だろう?


大抵の事には、驚かないつもりだった。

何といっても、ここはドラゴンが一緒に仲間として戦ってくれる世界だ。何が起こっても不思議じゃない。

しかし、いくらなんでも雇い主が魔族と言うのは俺の想像を超えていた。


くそっ。俺は化け物に雇われてたって訳か?

なんでフロレンツは、この事を教えてくれなかったんだ? 俺のひ孫じゃないか。


「風瀬さんの誤解を解かせてください。魔族は化け物ではありませんし、邪悪でもありません。過去にいくつかの不幸な出来事が重なり、人間に恐れられていたのは確かです。しかし、二度と過ちを繰り返す事はありません。我々も学習したのです」


「俺が誤解しているだと?」


「そうです。今の我々は人間に害を成す存在ではありません。それどころか守りたいと思っています」



そう言われて、はいそうですかと信用出来るのか?

少なくとも無条件に信じていい相手じゃない。

俺の持つ不審の念が伝わったらしく妖精は慌てたように説明を続ける。


彼女は言う。

魔族は人間に敵対するものでは無いこと。

自分たちは契約を必ず守ること。相手の意思は尊重すること。

無理やり仕事を強制したり精神を乗っ取る事は絶対に無いこと。


妖精の言う事が本当なら、少なくともブラック企業よりマシだ。

しかし妖精は、俺の一番知りたいことに対して答えない。

エトレーナ達やユリオプス王国の住人を、俺に守らせようとするのは何故なのか?

何か目的がある筈だ。少なくともこいつらは正義の味方では無いのだから。


妖精は、答えを知らないと主張する。

彼女は作り物の疑似人格であり、俺に与えられた“魔剣”にすぎない。

全部を知っている訳ではない、と言うことらしい。


俺は迷った。

こいつらの事を信じていいのだろうか?

魔族を名乗るこいつらを、この先も信用していいのだろうか?


「風瀬さん、提案があります。今、本社と話し合って許可をもらいました。我々魔族が――つまりインフィニット・アーマリー社が――雇っている人間の記録をお見せします。ここにあるのは風瀬さんの同僚の記録です。この記録を見れば我々があなた方の味方であると分かると思います」


「同僚? 俺に同僚が?」


「はい。本社が認めました。すみません、私も今まで風瀬さんの同僚がこの地で働いている事を知りませんでした。同僚の女性はここニューワールドで戦っています。と言っても遠い遠い場所です。ニューワールドは地球の数百倍、数千倍の広さを持ちますから」


妖精の姿が消えた。


「どうぞご自身で、見て、聞いて、判断なさってください。彼女のことを知れば、我々が友人だと分かると思います」


急に周りの風景がぼやけ、俺は意識を失った。

意識を失う直前、妖精の声が脳内に響く。


(ごめんなさい、風瀬さん、本社はまだ何か隠しています。風瀬さんが雇われた本当の理由は、この戦いの記録の中にヒントがある筈です。私の出来ることはこれで精一杯です)



目を覚ますと、俺は海の上を飛んでいた。身体は無い。視点だけが上空を飛んでいるらしい。

意識がはっきりしない。夢の中にいるような感じだ。


下を見ると大型の軍艦が3隻ほど、戦列を組んでいる。

一隻は空母。甲板上に置かれている航空機は旧式のプロペラ機だ。すでに甲板から一機が離陸を開始している。

空母を護衛している残り二隻の艦影かんえいのそれぞれは、自衛隊の護衛艦より二回りは大きい。

大きな砲塔が5つ見えるその姿に俺は見覚えがあった。


旧帝国海軍、高雄たかお型のじゅう巡洋艦じゅんようかん


何で旧帝国海軍の船が航行してるんだ?

そして、ここは一体どこだ? 俺は地球に戻って来たのか?

いや。水平線がやたら遠くに見える、この景色は地球上とは思えない。

そうか……妖精が言ったとおりここはニューワールド上のどこかにある海だ。


視界が歪んだ。

次の瞬間、俺は艦内に居た。下に見えていた重巡じゅうじゅん高雄たかおの中の艦橋らしい。

やはり俺は、ここでも視点だけの存在だった。

艦橋には一人の女が居る。帝国海軍の士官服を身にまとっている。短髪で凛々(りり)しい印象だ。


「召喚を命じる。戦艦大和(やまと)を呼べ」女が言う。


突然、男が女のそばに実体化してきた。妖精の実体化の時と同じ出現方法だ。

つまり、この男は疑似人格らしい。


「すまない。空母瑞鶴(ずいかく)を召喚したので、もう俺の力は限界だ。大和のような超弩級ちょうどきゅう戦艦の召喚は荷が重い」


男が答える。

話の内容からすると、この男は俺の妖精と同じように兵器の召喚が出来るらしい。


「なあ、恵子。考え直してもいいんだぜ。この戦いには勝ち目が無い。新世界ニューワールドの防衛は重要だがお前まで死ぬ必要は無い。祖国に戻れ。日本は戦争に負けたとはいえ、滅んだ訳ではない」


新世界ニューワールドはもはや私の第二の故郷だ。見捨てるつもりは無い」


「お前の事だ。そう言うとは思ってたがな」


「それに援軍は必ず来る」女は言った。 


「“英雄”の事か。やめておけ。女好きのいい加減な奴だと聞く。お前が頼りに出来る男じゃない。どうせそこらで、好みの女とよろしくやってるさ」


「いや。奴は来る。私には分かるのだ」


意識がまたもや遠くなる。俺はこの場所から引き離されていく。



気が付くと、また俺は視点だけの存在となって海上に浮かんでいた。

下の海上では、戦闘が起こっている。


さっき見た高雄たかお型の巡洋艦の二隻が、正体不明の艦艇と戦っているのだ。

いや、本当にあれは艦艇なのか? 真っ黒で細かい構造は分からない。

船体から気味の悪い骨のようなものが突き出ている。敵の主砲か。

人間の造ったものじゃない。

何か邪悪な代物だ。


その気味の悪い船は10隻以上いた。味方に砲撃を浴びせている。

空母、瑞鶴ずいかくは既に炎上して沈没し始めていた。


このままでは負ける。あの女士官を助けなければ。


「妖精、召喚だ。護衛艦あたごを呼べ。高雄を守らせろ!」


妖精の答えは無かった。


「F-2攻撃機だ。あの敵艦を撃つんだ! 早く!」

このままでは、こいつらは負ける。


妖精の反応は無い。

……俺は見ている事しか出来ないのか。


一隻の高雄型巡洋艦が敵主砲の一斉砲撃を受ける。

巡洋艦は反撃するが、敵主砲の放った砲弾が船体を貫通する。


大きな爆発。

弾薬庫が打ち抜かれたらしい。

俺は悪夢を見ているのだろうか。高雄から炎が吹き出し船体が焼かれていく。


視界が再びまたたいた。

同時に意識が遠のく。元の場所に戻るのか?

駄目だ! 俺はここに居なくちゃいけない。高雄が沈む。


薄れいく意識の中、俺は女の声を聞く。

「貴様の戦う分はとってある。早く来い。新世界ニューワールドを守りたいのだろう? 急げ」


「どうやったら行ける? どうすれば、そこへ行けるんだ?」


俺の質問には答えず、最後に彼女は言った。

「風瀬 勇。私はお前を待っている」


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