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困り者の同盟者


「わ、分かった。約束は……契約は必ず守る」

ウー 孟風モンフォンは言う。


こいつは、損得で物事ものごとを決めるタイプらしい。

相手が弱ければつぶし、強ければ妥協する。ある意味分かり易い男だ。

奴の言葉を借りるなら、おおかみを殺す気なら多少の怪我は覚悟する必要がある。

今回は、そこまでの覚悟が無いらしい。


「ヴェロニカ、戦車を下げろ」 ウーはチャイナ服姿の美女に告げた。


「かしこまりました。ウー様」


この美女はヴェロニカと言うのか。

女はしばし目をつむった。そして間もなく俺に微笑む。


「さあカザセ。戦車は引っ込めたわよ。これでお気に召して?」


この女の笑顔は美しい。エトレーナやカミラに匹敵するとびきりの美人だって事は認めてやるさ。

女の美しさに関しては、敵だろうが偏見はない。


(カザセさん。敵戦車は消えました。グラム・システムに確認済みです)

妖精が脳内でささやく。


「カザセ。私はこれで失礼する。後は焼くなり煮るなり好きにしろ。だが約束は忘れるな。私は自分の手札を全てさらしていない。裏切れば後悔する事になる」


「捨てゼリフとしてはなかなか上品だ。同じ言葉そのまま返す」


ウーは、俺に背を向け、自分の装甲車の方に歩み去る。

しかし突然、立ち止まり振り向いた。


「私は、大商業連合国のアイアン飛龍ワイバーン公司に居る。必要があれば連絡しろ」


「その気は無い。いいから、さっさと消えてくれ」


「では必要な時は私から連絡する」


「迷惑なんだが」


いかめしいウーの顔が少しゆがむ。笑ったつもりらしい。

「そう邪険じゃけんにするな。お前には利用価値がある。それに俺たちは似たもの同士だ。すぐに分かるだろう」


男は、それだけ言うと背を向け装甲車の方に歩み去り、もう振り返らなかった。


「カザセ。じゃあまたね。あなたの心に寄生している美人さんにもよろしく」

女はバイバイと俺に手を振った。そしてウーの後を小走りに追う。


心に寄生? 妖精のことか?

悪趣味な金ピカの装甲車は、二人を乗せると走り去って行った。


(カザセさん、あの女には注意してください。あれは得体えたいが知れません。ウーの感情を読み取ろうとしましたが、女にブロックされました。美人だからと言って油断しないよう。あれは見たままの存在ではありません)


(俺の考えは読まれたか?)


(いえ。最大強度の思考防壁(ぼうへき)を張っていますから、そこは大丈夫です。ですが、私の存在に気づかれました)


いずれまた会う予感はある。気は全く進まないが。



俺はさきほど地面に置いた小剣を回収した。

つかはまっている青い宝石が微かに輝いている。彼女が生きている証拠だ。

しかし、呼びかけに反応しない。

心配だ。マナの補給が上手くいってないのだろうか。


後でジーナに診てもらおう。彼女は魔道具に色々詳しい。

小剣を腰のさやに戻すとフロレンツとリゼットと合流するために林へ急ぐ。二人とはすぐ会えた。


「ひい爺さん。無茶しないでくれ。ヒヤヒヤしたぜ」


「カザセさん、あまりお役に立てなくてすみません」


「いや。お互い無事で何よりだ」


フロレンツは、走り去った装甲車の方を指し示した。


「あいつらは?」


「この戦いから手を引くそうだ。これでかなり仕事は楽になる」


「そりゃ良かった。でも英雄ってのは楽が出来ないように出来てるしな」


その時、リゼットがハッとしたように、空の一角を見る。


「どうした?」


「何かが飛んで来ます。大きな魔力の持ち主が」


もう勘弁してくれ。


「ドラゴンじゃないのか?」


「あ、はい。確かにそうです。ドラゴンです」


黒竜の奴か。くそっ。今頃出て来たか。

どうせなら、もう少し前に出て来てくれ。

A-10攻撃機は圏外を飛んでいるし、味方の10式戦車とは距離がある。

対抗するのが難しい。小火器でなんとかなる相手じゃない。


俺は脳内で敵に呼びかけてみた。相手が竜なら、これで通じる筈だ。

(黒竜か? 今更、出てきても遅い。もう勝負はついている)


もちろんハッタリだ。

本音としては、こっちの態勢が整ってないから出直してくれ。


(あんな奴と一緒にするなっ! 虫唾むしずが走る)若い男の声が返ってくる。


(……黒竜じゃあ無いのか。じゃあ一体、誰だ?)


(僕はシルバー・リバーと言う。銀竜だ。姉貴あねきに言われてここに来た)


姉貴あねきだと?)


竜族の女の子には、一人しか知り合いがいない。

(お前の姉はシルバームーンなのか? あいつは大丈夫だったか?)


同盟者である竜族のシルバームーンは、転移門の周辺を守っていた。しかし黒竜と戦車に傷を負わされ撤退した。

見知らぬ金竜が現れて連れ帰ったと、奴隷兵のダミーが言っていた。


(姉貴ならもう大丈夫だ。お前が心配をする必要は無い。……カザセ ユウだな?)


シルバームーンの無事ぶじを聞いて、俺はホッとする。


リゼットが空の一角を指差す。遠くに一匹の竜が見えた。

だが、飛び方がちょっと変だ。翼の動きが不自然なのだ。

羽ばたきが遅くなって高度が落ち、高度が落ちると慌てたように強く羽ばたく。それの繰り返しだ。


(そうだ。俺が風瀬 勇だ。ところでどうした? 飛び方が変だぞ)


(大丈夫だ。問題ない)


(どう見ても大丈夫じゃないだろう)


(それは、あんたの気のせいだ)


ドラゴンの姿が徐々に大きくなってくる。

シルバームーンに似た美しい銀竜、しかし翼の付け根が赤黒い。


――やはりな。

赤黒いのは傷だ。負傷している。

血が出ていて飛ぶのがつらそうだ。


もしかすると……。こいつは黒竜と一戦やったな。

俺が黒竜と戦わないで済んだのは、どうやらこの竜のお陰らしい。


(黒竜と戦ったのか?)


(ああ。姉貴を傷めつけた奴は許さない。それに僕は頼まれた)


(頼み?)


(姉貴は負傷して撤退てったいしたのを悔しがっていた。竜族の名誉がどうたらこうたら、だから僕に助けに行ってくれと頼んだ……だがそれは表向きの理由だ。僕には分かる)


銀竜は、もう俺の頭上近くまで来ていた。

痛みのせいか、やはり羽ばたきがぎこちない。


だが傷ついた竜はなんとか地上に降りてきて、前の草地に着陸した。

そして人間に变化する。

二十歳前の少年の姿だ。いや、もう青年と言っても違和感は無い。

少女形態のシルバームーンと同じく銀髪をしている。

綺麗な男だ。日本に現れたら女どもが騒ぐのは確実だ。


俺は、美青年って奴が苦手なんだ。

それでも苦手意識を抑えつつ、近寄って来た男に手を差し出す。


「助けに来てくれて感謝する」


その手をパンッとはらわれた。

俺は戸惑う。味方だろう? なんで喧嘩を売るような真似をする?


「姉貴は竜族の名誉とか、同盟の為に僕をよこしたんじゃあ無い。本音ではお前個人の事が心配だったんだ」


何でこいつの機嫌がここまで悪い?

シルバームーンが、仲間の俺を心配するのがそんなに気にさわるのか?

訳が分からん。戸惑う俺に妖精がささやく。


(風瀬さん、分かりませんか? この子は嫉妬してるんです。大好きな姐さんを男に取られたと思ってるんですよ)


いや、まさかそれは……頼む。勘弁してくれ。

それでなくても、ややこしい状況なんだ。


(まあ言うならば……シスコンのドラゴン?)


俺はげっそりした。そんなドラゴンが居る訳ないだろう。


「兄貴―金竜のフォーレスト兄さん―が連れ帰った時、姉貴はしばらく酷い状態だった。意識は戻ったけれど、すぐにお前の事を心配し始めた。他人の心配が出来る状況じゃ無いのに。早くカザセを助けてあげないと、そう何度も言っていた」


挑戦的な目で俺を見る。

「それに、姉貴は何て言ったと思う? ええい、糞。お前になんか教えてやるものか」


美青年は、プイと横を向く。

「姉貴が頼むから、黒竜はボコってやった。だけど、それはおまけだ。ここに来た理由はお前と会う為だ、カザセ ユウ。お前が姉貴に相応しい男なのか、僕が見定めてやる」


「……勘違いもいいとこだ。シルバームーンは律儀な奴だから戦場が気になっただけだろう。彼女は真面目だし、そう言う奴だ」


五月蝿うるさいっ! お前に姉貴の何が分かる? 女の純情をもてあそびやがって」


フロレンツが隣に寄って来て、俺の肩を叩く。

そして、耳元に口を近づけると小声で言う。


「爺さん。今は何を言っても無駄だ。かえって話がこじれる。それに、いや、何というか……勘違いしてるのは、ひい爺さんの方なんじゃないか? 女の好意に気がつけないってのは爺さんの欠点だ」


俺は凶悪な目で、ひ孫を見た。

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